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「小童、はたけ家に入ることを軽んじていたようじゃの」
イルカより大泣きしているカカシの手を繋ぎ、帰途についたイルカを待っていたのは、正真正銘、姑の小言だった。
「も、申し訳ありません……」
パックンは初めからイルカを嫁と認識していたようで、軽い気持ちでこの家に入ったイルカをとことん責め立てた。
はたけ家が如何に忍びの家として格式高いか、どのような武勲をたてたかを説明し始め、その名家ともいえるはたけ家に入る覚悟を今一度持てと叱責された。
今となっては、パックンが要求するところは望むところなのだが、もし今のイルカがカカシのことを何とも思っていなかったら、どうなっていたのだろう。
驚いたことに、他の忍犬たちもイルカのことを最初からカカシの番いだと信じて疑っていなかったようだ。
「アンタね…。忍犬が主人以外からご飯を食べるってのは、本来あり得ないことよ」
番い発言に驚いているイルカに、カカシは恨みがましい目を向けて詰ってきた。
だが、イルカだけ悪い訳ではないだろう。だいたいカカシがイルカのことを好きだとはっきり告げてくれれば、分かりやすかったのだと意見すれば、カカシは頬を膨らませた。
「アンタが、オレのことガキ扱いするから、言おうにも言えなかったの! アンタのことだから、オレが子供と同じような好意を抱いているんだって勘違いしそうだったしッ」
「子供、子供ばっかり言ってッ」と目に涙を浮かべて憤慨したカカシの言に、確かにとその可能性を否定できなかった。
イルカがカカシのことをそういう意味で気付いたのは、今から四日前のことだ。同僚たちの言葉がなければ、イルカは一生気付かなかった可能性も捨てきれない。
同僚たちには、奮発して飲み放題もつけるかと考えていれば、カカシは真剣な顔で言った。
「言っとくけど、オレは亭主関白だーよッ。オレ抜きの飲みは絶対許さないし、週二日以上の残業は許さないし、一人で繁華街なんて行くのは絶対許さないからね。アンタを一人にしてたら、どんな目に遭うか分かったもんじゃないんだからッ」
青白いチャクラを体にまとわせ、言い立てるカカシが不思議だ。
「そんな子供じゃあるまいし」と笑えば、カカシは「子供より性質が悪いのよッ」と激昂された。謎だ。
一応イルカがカカシの家に入るから、嫁という立場になる。夜の関係もそういう立場だから、今更異論を唱えることはないが、イルカは少し気にかかってパックンに尋ねた。
「パックンさん。俺、男だけど本当にいいんですか?」
はたけ家に並々ならぬ誇りを持つパックンが、世継ぎを気にしない訳がない。
「……なんじゃい、小童。拙者が子供を産めん嫁など認めんと言ったら、大人しく身を引くか?」
パックンの言葉に即、首を横に振る。すると、パックンはため息を吐いて後ろ脚で耳を掻いた。
「ここで首を縦に振りおったら、追い出しておったわい。拙者はカカシの親じゃ。子の幸せを望まん親はおるまい」
「パックンさん…」
パックンの真にカカシを思う心に、思わず感動する。だが次の言葉が悪かった。
「何、子が欲しくなったら、小童に産んでもらう。心配するな、今の火影は医療に精通しておるでの」
ほっほっほと笑いながら金に糸目はつけんと豪語したパックンを空恐ろしく思った。姑、最強伝説がイルカの脳裏を駆け巡る。
結局、イルカはカカシの家に身を寄せて以来、ずっとそこに住み続けている。元気な忍犬と少々口の悪い姑に振り回されながらも、楽しい毎日を送っている。
「五代目がもう一年待てだってさー。表向きのオレは三十近いってのにねー。イルカさんはオレの嫁だって、早く皆に言いたいー」
イルカの膝に懐きながら、カカシがぶーたれる。
驚いたことに、五代目はイルカとカカシの結婚を認める腹らしい。
木の葉に同性婚はあっただろうかと考える裏で、パックンの暗躍が見え隠れして、イルカは何とも言えない気持ちになる。
「……カカシさん。本当に俺と結婚していいんですか? 今はいいですけど、俺とカカシさん八つも離れてるんですよ?」
時々イルカはカカシに申し訳なく思ってしまう。十代で結婚を決めさせてしまったこと、男の、しかも年上のイルカを相手に選ばせてしまったことを。
「……アンタ、バカ?」
つい口から出た不安事を、カカシはばっさりと切り捨てる。
二の句が継げないイルカを心底馬鹿にして、カカシは鼻を鳴らした。
「上等だっての。とっとと早く年取ってしわくちゃのじじいになってもらわないと、おちおち任務に行けないじゃない。とっとと汚いじじいになってよ。そんで、オレに介護されなさい」
あまりの言葉に、思わず吹き出した。
カカシがイルカの何を気に入ってくれたのか分からないが、介護まで念頭に入れているとは思いもしなかった。
けたけた笑うイルカに、カカシは怒り出す。
「何よーッ。アンタ、そうやっていっつも笑ってるけど、オレは真剣なのよッ。冗談じゃなくて、マジだからねッッ」
起き上がって笑うイルカに物を申すカカシは可愛かった。「はいはい」と頷けば、「子供扱いするな」と瞳を潤ませて怒った。
あまりにイルカが笑うから、カカシが拗ねてしまった。イルカは必死にごめんなさいと謝って、ようやく機嫌を取り戻したところで、カカシの亭主関白発言に従ってイルカはお願い事をした。
「今度、カカシさんに会わせたい人がいるんです。俺のアカデミーの同僚なんですけど、その二人がいなかったら、俺、自分の気持ちに気付けなかったと思うんです。そのお礼を込めて、ささやかな酒宴を」
開きたいとイルカが言うより早く、カカシは顔を真っ青にした。
小刻みに震えながら、口を押さえるカカシにイルカは驚く。
カカシを恐怖に震えさせるものがあったのかと、周囲を見回すがそれらしきものはない。
一体何だと首を捻っていれば、カカシは震えながら叫んだ。
「……さ、ささやか? アンタ、バカ言ってんじゃないよッ。恋のキューピッドにそんなしけた酒宴開いたら、末代まで祟られるよッ。いや、もしかしたらイルカさんとの仲を……」
ひぃぃと悲鳴を上げて、カカシはイルカが決めていた大衆居酒屋の予約を取り消し、勝手に木の葉一の老舗料亭を貸し切ってしまった。
庶民派の二人だから気後れすると、刺身の船盛りから、目の飛び出るほど高い珍味を取り寄せようとするカカシを制し、何とか店のコース料理に落ち着かせた。それでも一人ウン万両という失神したくなる値段になってしまい、イルカは途方にくれることとなった。
カコーン
遠くで鳴り響く、テレビの中の世界でしかなかった獅子おどしというものを初めて聞きながら、イルカは静まり返った一室で正座をしていた。
漆喰の壁に、素人目でも有名な絵師が描いてある掛け軸。
竹を組みあげて精緻な幾何学模様を作る格子。
外には見事な庭園が広がり、さらさらと流れる水の音が雅な風情を醸し出す。
本日は、カカシが無理矢理貸し切った老舗料亭で、お世話になった二人へのお礼会の日だ。
主役である二人は、イルカと一緒に老舗料亭へ赴いたが、料亭に入った直後から一言も口を開いていない。
かくいうイルカも、料亭の人へ予約していた者だと名前を告げたきり、口を閉ざしていた。
着物を着た綺麗な女性が三人を座敷へ案内した後、三人は身動きもせず席へ座り、今に続いている。
不気味な静けさが満たされる中、何度目の獅子おどしを聞いただろうか。
真向かいに座る同僚の生唾を飲む音を聞いた直後、三人は示し合わせたように視線を合わせ、忍びの動きで部屋の隅っこに固まった。
「イ、イルカ。オレ、自分が場違いな気が…!」
「イルカ先生、どうすればいいんですか?! 私も、こんな所初めてで、何が何だかよく分かりませんッ」
居心地悪そうに二人は、涙ぐみながら小さい声で不安を訴えてくる。それに、イルカはそうかと笑みを浮かべ、親指を突き出した。
「……心配するな。居心地悪いのは俺もだッ」
笑う顔はぎこちなく、頬は引きつっている。
がちがちに固まり、二人よりも緊張しているイルカへ、何だとーと非難の声があがった。
「な、なんでそんなところに呼ぶんですかッ」
「緊張し過ぎて、味わかんねーじゃ意味ねーだろうがッ」
「そんなこと言っても、勝手に向こうが決めちまったんだよッ。止める暇もなく予約入れちまって、断ろうとしたらキャンセル料支払うようになるって言われたら、黙るしかないだろッッ」
「黙るなよッ。お礼会っていうより、これは苛めだろっ」
「居酒屋のざわめきが恋しく思うなんて思いませんでしたっ」
広い部屋の隅っこで三人固まり、丸座でぎゃいぎゃい文句を言い合っていれば、「失礼します」と涼やかな声が部屋に響いた。
慌てて用意された席に座った三人の前で、襖が開き、和服を着た年配の女性が頭を下げた。
「お連れ様がご到着いたしました」
女性が体をずらし、背の高い影が姿を見せる。
任務で遅れると言っていたが、早々に片を付けて直行してくれたらしい。
イルカにはあまり馴染みのない、十歳歳経たカカシだが、このような堅苦しい席では、いるといないでは雲泥の差がある。
ほっと息を吐き、カカシの名を呼ぼうとして、二人の素っ頓狂な声が響いた。
『は、はたけ上忍!?』
何故ここにと、極度の緊張に体を固まらせる二人に、言い忘れたことに気付いた。
「あ、悪い悪い。言うの忘れてた。俺の家主で、今は恋人兼、婚約者のカカシさん」
「えー、イルカさん。オレのこと言ってなかったのー?」
イルカの隣の席についたカカシに手を向けて紹介すれば、カカシは口布を取りながら、ぷーと頬を膨らませる。年取ってやっても結構可愛いなと思いつつ、すいませんと鼻傷を掻いて、同僚をカカシに紹介した。
カカシは柔和な笑みを浮かべ、「その節はイルカがお世話になりました」と深々と頭を下げる。
「ちょ、ちょっとカカシさん、止めてくださいよっ。恥ずかしいでしょ」
「いいの、いいの。だって、オレとイルカさんを結び付けてくれた二人だもん」
慌てて止めたが、相好を崩して笑うカカシに、イルカは照れる。
「……イルカ…」
魂が抜けた顔をして同僚が名を呼ぶ。何だと振り向けば、同僚はかたかたと小刻みに肩を揺らせていた。
「今までお前が話していたのは、年下女せ―ぶばっ」
ぶんと音を立て、何かがイルカの目の前を過ぎる。
飛んできた方向へ視線を向ければ、カカシが中途半端に手を上げていた。よくよく見ればカカシのおしぼりが消えている。
「あ、ごめんなさいねー。手が滑っちゃった」
てへっと笑いながら言ったカカシの視線の先には、後ろにひっくり返った同僚がいた。顔にはカカシのおしぼりがぴったりと張り付いている。
「せ、先生!!」
慌てて同僚に駆け寄る先生。同僚は助け起こされながらも、イルカの名を呼んだ。
「イ、イルカ!! オレたちはてっきり子持ち未亡人の女性だと思って、けしか――」
カカカンと小気味良い音と同時に、同僚の額当てに何かが突き立つ。
「あっれー、おっかしいなぁ。今日はちょっと手元が狂っちゃうみたいー」
手を振るカカシ。付けっ放しだった同僚の額当てには、木の葉のマークへ添うように突き立つ爪楊枝があった。
「……黙りましょう。先生、ここは黙りましょう」
ぼそりと先生が同僚に耳打ちする。
一体何が繰り広げられているのか、イルカには理解できない。
「さぁさ、今日はたっぷり飲んで食べて楽しんでくださいねー。女将、お酒じゃんじゃん持ってきーて」
カカシが手を鳴らすと同時に、膳と酒が運ばれてくる。
「大丈夫か? カカシさん、ああ見えて悪戯好きだから許してくれ」
配膳する人に混じり、同僚に近付いて声をかけた。
良く分からないがカカシが粗相をしたことは間違いないので、代わりに謝っておく。帰ったら説教、決定だ。
「それじゃ、こっちは適当にやるから。もういいよー」
待機している女性たちを帰しているカカシを見つけ、少しだけ気が楽になる。女性が隣に張り付いて酌をしてくれては、緊張し過ぎて訳が分からないまま宴が終わってしまいそうだ。
それに、今日は二人に楽しんでもらうための会なのだ。
気心知れた者の酌の方が楽しめるだろうと、盆にある酒を手に取り、同僚に促した。
顔色が悪いながらも、おちょこを手に取った同僚へと酒を注いでいると、小さな声で耳打ちされた。
「――聞いてもいいか? 嫁はどっちだ…」
突然のあからさまな問いに驚くが、あまりに真剣な目でこちらを見詰めているので、イルカは鼻を掻きつつ正直に答える。
「えっと、その。お、俺、だよ。ま、まぁ、俺がカカシさんの家に入ってる訳だし、なぁ」
照れ恥ずかしく、笑って誤魔化していれば、隣で話を聞いてた先生と一緒に、同僚は首を背けて目頭を押さえた。
「イルカゴメンイルカゴメンイルカゴメンイルカゴメンイルカゴメンイルカゴメンイルカゴメンイルカゴメンイルカゴメン」
ぼそぼそと謝る同僚はちょっと不気味だった。
調子が悪かったのかと不安に駆られたが、隣の先生は大丈夫と一つ頷き、こっちはこっちでやりますからとイルカを席に戻した。
「イルカさん、これ美味しいですよ。はい、あーん」
やけにハイテンションなカカシを訝しげに見つつ、断る理由もなくて口を開ければお刺身が口に入った。
「ん〜、こりこりしていて甘くてうまいッ。カカシさんもどうぞ」
お返しにイルカの膳のお刺身を一切れ抓んで、カカシの口元に運べば、カカシはヒナ鳥よろしく大きな口を開けてかぶりついた。
「んー、美味しいですぅ」
ねーと笑い合えば、その様を無言で見ていた同僚が一言言った。
「……イルカ、幸せか?」
その言葉に、あったり前だと笑い飛ばす。
「飯は笑い合って食べるから美味しいし、幸せは好きな人がいるから生まれるんだぞ」
「イルカさん…」
うるうると目を潤ませるカカシに、笑顔を向ける。
幸せを逃さないためにも、ずっと側にいてくださいねと耳打ちすれば、カカシはイルカの左手をぎゅっと握りしめてきた。
イルカの左手の薬指には、赤い文字が刻まれている。
イルカがカカシにプロポーズをした後、わんわん泣くカカシが薬指に口付けると、赤い文字が浮かび上がってきた。
これは呪いの契約と震えるイルカに、カカシは事の真相を教えてくれた。
薬指の文字は、はたけ家に伝わる婚約の証であり、解呪したと見せかけて幻術をかけて見えないようにしていた、と。
本人の了承を得ないばかりか、カカシの先走り過ぎる行動に、思わず拳骨を落とせば、カカシは殴られた頭を嬉しそうに抱え、泣き笑いの顔で言った。
「アンタを逃したらいけないと思った」
カカシは、イルカが拳骨をくれた瞬間、運命を感じたそうだ。
変化も解くほどの衝撃ではなかったが、イルカをこの家に引きとめる要素は多い方が良いと判断し、わざと解いたらしい。
カカシの運命の感じどころが全く理解できないが、何だかんだいいつつ、イルカもカカシに運命的な何かを感じているから、その話はそこで終わりにしておいた。
はたけ家に伝わる婚姻の証は、お互いの名を薬指に刻んで完成する。代々優秀な忍びを輩出するはたけ家が、高確率で忍びとなる子孫に残した、忍びらしい指輪だった。
優秀であればあるほど身につける物を制限される忍びに、せめて夫婦の証は持たせてやりたいと考えられたそれ。
今では廃れた言葉でお互いの名前を刻むその指輪は、夫婦を繋ぐと言われている。
カカシの左の薬指にも同じく文字が刻まれている。
カカシの指示に従って印を組み、カカシの薬指に文字が刻まれた時、カカシは蕩けるような笑顔を浮かべて文字を見詰めていた。
「これで一人ぼっちじゃなくなった」
ありがとうと告げられ、胸が詰まった。こちらが言う言葉だと思ったが、声が出せなくて、カカシを抱きしめて、その気持ちを伝えた。
「……お前が幸せならいいか。――結婚式、呼べよ。祝いに行くから」
「私もぜひ。二人の門出を祝わせてくださいね」
笑う二人の言祝ぎに、笑顔で頷く。
カカシはと見れば、泣きそうな顔をしていた。
俺の旦那さんは涙もろくていけないなぁ。
零れ落ちそうな涙を人に見せるのはちょっと癪で、おしぼりを目元に押し当ててやった。
「もっと優しくしてよ」と憎まれ口を叩いたカカシを笑い、繋がった手を握る。
しがみつくように握り返してきたカカシの仕草に、少しため息が出る。
どうもカカシは、イルカが何も言わずどこかへ行ってしまったり、他の違う誰かを好きになるのではないかという、馬鹿馬鹿しい不安を持っているようだ。
亭主関白発言もそうだが、今、お互いに刻まれている文字の色が何よりの証拠だ。
左手の薬指に刻まれた文字。
イルカに刻まれた文字は炎が燃えるように赤く、色鮮やかな一方、カカシに刻まれた文字は青白い。
指輪を相方に送ったところで、パックンのはたけ家に伝わる講釈を聞いて、薬指に刻まれた文字は、術者の気持ちを反映すると、知った。
知った途端、カカシは火が付いたように泣き出した。イルカがカカシのことを思っていないと嘆く傍ら、イルカはあることに思い至り、顔から火が噴き出そうだった。
パックンはイルカの真意に気付いたようで、イルカを見てにやりと笑っていた。
一般的な感覚とは違い、炎の色は温度が高いほどに白さを帯びてくる。そして、さらに高くなると青になると言われている。
文字の色が色温度を示しているならば、イルカの方がカカシを詰る権利を有しているのだが、そのときは恥ずかしくて自分の考えを言い出せなかった。
それから、カカシは毎日薬指を見詰め、いつ赤くなるかと心待ちしている。
パックンと忍犬たちは、イルカの薬指の色が変わる方が早いか、カカシが色温度に気付くのが早いかと、秘蔵の骨を持ちだして賭け事をしていた。
ところが賭けが成立しなかったらしく、最後にイルカに泣きついてきた。賭け事の内容と忍犬たちの賭けた方に、イルカはため息をつきつつ、忍犬たちでいうところの大穴に賭けた。
無事に賭け事は再開され、秘蔵骨の代わりに、イルカが負けたら一週間、忍犬たちの献立のリクエストを受付け、毎日ブラッシングをし、反対にイルカが勝ったら、一週間、イルカの言うことを何でも聞くという、賭け事内容に変わった。
勝利を確信している忍犬たちを余所に、イルカはちょっとした自信がある。
カカシがイルカの手を握っている今、文字の色は鮮やかな青に染まっているのだ。
忍犬とカカシ。
どちらがそのことに早く気付くか、イルカは楽しみでならない。
どちらが早く気付くにしろ、芋づる式でイルカの勝利は決まったも同然だ。
そのときは、忍犬ともどもカカシにも、イルカの言うことを聞いてもらおうと思っている。
小さく笑ったイルカに、カカシが不思議そうな顔をする。
今は年上の風貌をした、イルカよりも八つ年下の男。
その外見になるまでには気付けよと心の中で罵りつつ、イルカはカカシに笑顔を向けるのだった。
おわり
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次は、『色温度ぷらす』。カカシ視点のお話になります。
色温度 13(完)