手を繋いで 37

「――おめでとうだってばよ!」
背が高くなり、幾分たくましくなったナルトが、一瞬の沈黙の後に、満面の笑みを浮かべた。
それに対し、「ありがとう」と私は笑う。
長く里を空けていたナルトにようやく報告することができた。
サクラに言った時も、ナルトのように一瞬何を言われたか分からないような顔をして、直後に金きり声をあげて祝ってくれた。
もしかしてと思ったけど、本当にそうなるなんて。どっちから告白したんですか? プロポーズの言葉はと、根掘り葉掘り聞かれて、大変だった記憶がある。
その点、ナルトはありがたい。
祝いの言葉だけで、何か聞きたそうな素振りは全く見せなかった。
代わりにナルトは、そっかーと大きく息を吐いて、おれの知らない間にちょっとずつ変わってんだなーと、感慨深げな台詞を吐いてきて、こっちが驚いた。
「成長したねー」と、頭を撫でてやれば、子ども扱いすんなとむくれてしまったけど、その後にナルトはこう言った。
「おれ、サスケの奴を絶対連れ戻してみせるってば。そのときは、7班全員でもう一回お祝いするから、楽しみにしてくれな」
瞳を輝かせ言い切ったナルトの強さが、頼もしかった。



その後は、お決まりの一楽に行って、ナルトの話を聞いた。
身振り手振りを交えてのナルトの大活躍話を微笑ましく聞きながら、私は感慨深い思いを抱く。
今、木の葉の里は、ナルトを中心に動き出そうとしている。
里を引っ張る新たな若い力として、そして火影の次期候補者として、里はナルトに多分の期待を掛けている。
けれど、里に取り込まれようとするナルトを前にしても、私の気持ちは平静でいられた。
ナルトと私を裂く要素として、一番危惧していたことだったのに、強く大きくなるナルトの背中を、行って来いと押せる気すらした。
そうやって、私を変えてくれたのは……。



「ちぇっ。つっまんねーの。先生、おれの話、ちゃんと聞いてる? さっきから、そればっかイジっちゃってさ」
「え」
言われて、我に返った。
ナルトが恨みがましく見つめている先には、カカシさんからもらった指輪がある。
忍びの性で指につけることを嫌った私たちは、首から掛けることで良しとした。
たまにつけるくらいでいいよねと言った私に、カカシさんは既婚者としての義務でしょと、肌身離さずつけることを強要された。
「あ、ご、ごめん。もう触らない、もう触らないから」
慌てて手を離し、胸元に指輪を押し込む。
あー、だから肌身離さずつけるってのは嫌なのに。
カカシさんてば、つけないってことは浮気するつもりなんだと激しく勘違いして、いらない悋気燃やすし、困った人だなぁ…。
そんなことを思いつつ、いつでもカカシさんを思いながら指輪を無意識で触る自分のイカレ具合を目の当たりにして、顔が火照ってくる。
暑いね!と、ごまかし笑いをしながら、手で煽いでいると、ナルトは唇を突出し、こちらを責める様な眼差しを向けてきた。
「どーせ、カカシ先生のこと思い出していたんだろ」
うっっ、成長したのは体だけでなく、感情の機微もか!!



カカシさんの大好きで趣味でもあるイチャパラ原作者に師事しただけあって、昔では到底分からなかったであろう、男女の機微すらも察知できるようになったナルトを空恐ろしく思う。
ちっとも分からなくて、サクラにド突かれていた昔のナルトに、懐かしささえ感じた。
「あ、あはははははっは!! テ、テウチさん! ナルトにもう一杯ラーメン追加で! もちろん、私の奢りっ」
薄給中忍の誠意を見ろとばかりに告げれば、ナルトのしかめっ面が笑みに変わった。
「やった! イルカ先生、大好きっ」
おれ、特製チャーシュー麺と、勢いよく叫んだナルトに、笑みが浮かぶ。
羨望と畏怖と、欲望と、焦燥。
ナルトに対して、思うことは色々とある。でも、それを抜きにして、やっぱり私はナルトのことが好きだなと思う。
二杯目が出来るまでに一杯目を食べきろうと、勢いよく麺を啜り始めたナルトの頬に青ネギがついていることに気付き、取ってやる。
そのまま自分の口に持っていけば、ナルトはぎょっとした目で私を見た。
? 何か変なことしたっけ?
小さい時から、いつもやっていたことなのに。尋ねようとしたところで、背後から出現したおどろおどろしい気配にその理由を知った。



「――帰りが遅いから心配で寄ってみたら……。若いツバメといちゃいちゃしてるなんて、アンタ新妻として自覚皆無ですかぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
耳を塞ぐ間もなくきた音の衝撃波に、鼓膜がキーンと嫌な音を立てる。
こんなバカ発言するのは、一人しかいない。
前にいるナルトはちゃっかりしたもので、しっかりと両耳を塞いでいた。
ひどい、ナルトっ。私の耳も助けてくれても罰は当たらないはず!!
ぐわんぐわんする頭を押さえ、涙目で振り返れば、案の定、カカシさんがいた。
いきなり何するんだと息を吸い込めば、それより早く、カカシさんの口が開いた。
「今日はナルトと久しぶりに会うって言うから、しぶしぶ、しぶしぶですけど譲ってやりましたけど、オレだって今日はやっと取れた休日なんですよ。アンタとあの新居で暮らしたの何日だと思ってんですか! たったの三日ですよ、三日! しかも全部夜中呼び出しの、実質、一日半! 今日はオレを呼ぶんじゃねぇっと手を回して回して、今日こそは完全休日を得たってのに、アンタはどーして、早く帰ってこないのッ。新妻の責務として、そこは裸エプロンなり、『あなた、ご飯にします? お風呂にします? それとも、わ、た、し?』って、潤んだ目でオレを誘うのが筋でしょー?! それなのに、今、ここにいるアンタは『お弁当つけてるぞv』なんて、新妻の特権をここぞとばかりに、亭主のオレではない、ひよっこのガキに対して何、かましてんですかぁぁぁぁッッ」
ひどいひどい、アンタに良心はないのか、親の顔が見てみたいもんだよと、一楽のカウンターに突っ伏したカカシさんに、私は言葉を失う。
色々と言いたいことはある。言いたいことはあるんだが……。



いくらなんでも、ナルトの前でそういう発言かますのって、一体どうなってんの!!?



元担任兼、保護者ならびに、上司の私生活暴露。
よりにもよって夜関係を仄めかしてきた、ド腐れ外道を前に、私はどう対応していいかわからなかった。
ここは、カカシさんを一発殴って、今の言葉すべて冗談ですよねと脅す方がいいのか。それとも、お金を置いて、ナルトと共に外に出て、今あったことは性質の悪い幻術か何かだったのだと、一切スルーするべきなのか。
わんわん泣くカカシさんと、固まる私。
次の手が出せないと進退窮まった私の背後から、大きなため息が聞こえてきた。
「……カカシ先生、キャラ違いすぎだってば。おれたちに見せてたあれって、何だったの。すんげーダッセー」
二杯目のラーメンを受け取りながら、ナルトが辛辣な物言いをしてきた。
うわ、カカシさん、もっと泣いちゃう。と、カカシさんに視線を転じれば、そこには体を起こし、呆れた目でナルトを見つめるカカシさんの姿があった。
「あのねー。お前、上司に対してその言い方はないでしょ。ま、お前の心中察して、お咎めしないでいてやるけど、お前らとイルカに対して態度違うのはトーゼン。イルカは俺の奥さんだからーね」
今までのは嘘泣きだったのかと問い詰めたくなるほどの、ふてぶてしい表情を浮かべ、カカシさんは私の腕を引き寄せると抱き寄せた。
そして、口布のまま、ちゅっと頬に唇を寄せてくる。



「っっ!!」
人前で、しかもナルトの前で何てことをと距離を取ろうとする私の動きを封じ、背後から抱きしめるなり、カカシさんは笑った。
「これもオレの一面。それと、お前らが見てた面も、間違いなくオレの一面ってことだーよ。イルカがこの場にいて良かったな。オレのことをより深く知ることができた」
穏やかなカカシさんの声音に、ナルトが舌打ちを打つ。
ナルトがサスケのように忌々しそうに舌を打つ様なんて初めて見た! 荒んでる?!
衝撃場面を目撃し、動揺する私に、ナルトは一つ息を吐くと、私に視線を合わせ、昔と変わらない笑顔を向けた。
「イルカ先生、今日はありがとうってばよ。カカシ先生も来たことだし、そのまま帰ったらいいってば」
思わぬ言葉に、目が見開く。
おしゃべり好きなナルトは、私に話を聞いてもらうことを楽しみの一つにしている節がある。
今日はナルトの気が済むまで話を聞くつもりだったのに。
「いや、でも」
まだ半分も話してないだろうと言いかけて、後ろからぐいっとより深く抱き込まれた。
「ほら、ナルトもああ言っていることだし、オレたちはお言葉に甘えて帰りましょ」
「で、でも、カカシさん」
カカシさんはお金をカウンターに置き、「ごちそうさま」とテウチさんに声を掛ける。
テウチさんの威勢のいい掛け声を背に受けながら、カカシさんは私の手を掴み、一楽の暖簾を勝手にくぐり抜けた。
「ナルト! また時間できたら、教えて。そのとき、今日聞けなかった話、聞かせてね」
先に行くカカシさんに引きずられながら、ばいばいと手を振った。
暖簾が落ち、ナルトの顔が見えなくなる寸前、
「カカシ先生。イルカ先生に花嫁衣装着せられないなら、おれが着せてやろうか?」
そんな言葉がこちらに飛んだ。
途端に、カカシさんの足が止まる。
急に止まったカカシさんの背中に、もろに顔をぶつけ呻いていると、カカシさんはキッと一楽へ視線を向け、唸るように告げた。
「お生憎さま。結婚式は近々やるんだーよ。お前みたいな尻の青いガキに心配される謂れはなーいね」
「あっそ。そりゃ、残念。イルカ先生、じゃーな! カカシ先生に愛想尽きたら、おれのところに来いってば」
さしずめナルトは私の実家になってくれるつもりなのだろうか。
大人になったなぁと、ナルトの成長をひしひしと感じ入っていれば、カカシさんが思い切り引っ張ってきた。
為されるがままに引っ張られ、あっという間に一楽は見えなくなる。



「ちょ、ちょっと!」
あれから自宅への道を二人で歩いているのだが、カカシさんはちっとも歩調を緩めてくれない。
前かがみの姿勢で引きずられるのはきついものがある。それに、握られている手が痛い。
大通りを過ぎ、人気のない川沿いの道に入ったところで、ひとまず止まれと言おうとした瞬間、前触れもなくカカシさんが止まった。
「ぐっ」
再び顔が背中に激突し、呻き声が出た。
カカシさんだって、額当てしている私のおでことぶつかるのは痛かろうに。
急に何度も止まるなと文句を言いかけた私の声と、カカシさんの声が聞こえたのは同時だった。



「ちょっと」
「子供作ろう」
………は?
耳を疑う言葉に、文句が消し飛ぶ。
代わりに脳裏を埋め尽くしたのは、クエスションマークで。
「……はい?」
疑問符を交えて聞き返した言葉に、カカシさんは「よし!」と声をあげて喜んだ。
「イルカも? イルカも実は欲しかった? よかった!! やっぱり、オレとイルカは以心伝心、相思相愛のぶっちぎりの仲だよ〜ねっ」
振り返って、私の両手を握ってはしゃぐカカシさんに呆然とする。
だったら、イルカの排卵日からしてやっぱり今日が理想だよね、オレ、この日のためにイルカの健康管理ばっちり整えてきたから、十月十日(とつきとうか)後には玉のような可愛い子供が生まれるよと、有頂天に語りだすカカシさんに、どん引きした。
おい、お前、もしかしなくても私の生理日誌つけてやがったのか、それとも早朝知らぬ間に基礎体温つけていたのか? 引く以前にどん引きだっつぅか、私に内緒で明るい家族計画を立てていやがったのか?! いやいやいや、それよりも、だ!
「よかったぁ。イルカがその気なら、善は急げだよね。スケジュールは分刻みだから急がなきゃ。イルカに着てもらいたい浴衣も用意してあ――」
「落ち着け、変態!!」
綺麗に踵落としを決め、地面に沈んだカカシさんの前に腕を組んで立った。
痛いと頭に手を置くカカシさんに指を突きつけ、私は叫ぶ。
「話飛び過ぎで、意味分かんないでしょうがっ! とにかく今後のことは落ち着いて」
話し合おうと続けようとして、カカシさんがぽつりと言った。
「落ち着いてるよ」
一体どこがと非難を滲ませて睨めば、カカシさんは地面の上で胡坐をかき、小さく息を吐いた。
「――前から言おうとは思っていた。でも、断られたら凹むから、言う勇気がなくて。ナルトの言葉に乗っちゃったのもあるけど、ずっと思ってた」
カカシさんは右目を細めて笑う。
私は返す言葉なくて、口を噤んだ。



所在無げに立ち尽くす私に、カカシさんは手招きをする。
近寄れば、カカシさんは私の手を握って、見上げてきた。
「イルカが、子供を作りたくない理由は何となく分かってるつもり。まだ自分が信じられないからでショ? 子供を巻き込みたくないからでショ?」
核心に触れられ、視線が彷徨う。
無意識に後ずされば、カカシさんは握った手に力を込めた。
「いいじゃない。そうそう自分なんて変われなーいよ。ただ、オレは今のイルカの思いを聞きたい。義務や責務じゃなくて、イルカの望みが聞きたい」
強く握られた手に惹かれるように、視線がカカシさんへと向く。
カカシさんは微笑んで、私を見つめてくれている。
思ったのは、本当に言ってもいいのかと迷う気持ちで、それでも言葉に出す勇気が持てなくて。
歪む視界の中にカカシさんの姿を収めていれば、カカシさんは仕方ないなぁと口布を下げて、口を広げ大きく笑った。
「オレとの子供が欲しいって、イルカも思ってるでショ。これって、オレの勘違い?」
勘違いじゃないよねと、後押ししてくれた言葉に、顔を俯け、小さく頷いた。



「まーったく、イルカは真面目だねぇ。もしもの時を考えるのは悪いことじゃないけど、相手はオレとイルカの子供だよ。そんなの心配しなくても大丈夫。オレたちの子なら分かってくれーるよ」
手を引っ張られて、胸の中に抱き込まれた。落ちる涙が、カカシのベストを濡らす。
カカシの言葉は安堵をもたらすのと同時に無責任なもので、私は喉が詰まる。
「……子供の心配しない、親なんていない!」
しゃくりあげながら胸を叩けば、「まぁね」と軽い言葉が返ってきた。
男と女の違いを見せつけられた気がして、悲しくなる。
言い返す気力もなくて、頬を伝う雫を擦っていれば、カカシはでもさと息を吸った。
「力になる。オレとイルカの子供は、オレたちの力になるって、そう思わない?」
思わぬ言葉に顔を上げる。カカシは幸せそうな顔で私を見ていた。
「考えてもみてよ。オレとイルカの子供。きっと可愛いよ。アンタがいっつも生徒が可愛いってバカみたいに言うけど、それよりずーっと可愛くて、手がかかって、小生意気で、時々ものすごく腹立つだろうけど、すごく愛しい。……ねぇ、それって間違いなく力になるでショ。その子の笑顔見るだけで優しくなれる、泣いた顔は見たくないって思う。とても温かくて強い感情。今のオレたちに必要なのは、そういうものじゃないかな」
ねっと、瞳を覗き込まれた。
流れる涙をカカシは指先で拭いながら、静かに言う。
「オレは、イルカの子供が欲しいよ。それに、イルカにオレの子供を産んで欲しい」
唯一見える、青灰色の瞳が揺れる。
期待と、不安を滲ませて、私を見つめる。
それに対して、私の言うべき言葉はたった一つだった。



「……私も、カカシさんの子供が欲しい」
カカシさんは私の言葉に、嬉しそうに笑って、思い切り抱きしめてきた。
痛いくらい胸に顔を押し付けられて悲鳴が出そうだったけど、カカシさんの体は微かに震えていて、馬鹿みたいに「うん」て繰り返すから、胸が詰まって何も言えなくなる。
だから、お互い強く抱き合った。
二人は同じ思いを抱いているのだと言葉以外で感じられるように、強く抱き合う。



川の流れる音を聞きながら、触れた体からカカシさんの鼓動を感じていれば、不意にカカシさんが言った。
「名前、決めてるんだ」
気の早い話に驚いて、思わず顔を上げる。
それを待っていたように、カカシさんは満面の笑顔で告げた。
「カイ。男でも、女でもカイ」
普通というか平凡というか、いまいち反応の取り辛い命名に瞬きをする。
もしかして、カカシとイルカでカイとか?
思い立った安直な名前に、それはどうだろうと反論しかけたとき、カカシさんは見透かしたように「ちがーうよ」と小さく笑った。



「オレの生家に、小さな畑があるの。誰も手入れしていない、荒れた畑だったんだけど、小さい時は忍犬と一緒にそこを掘り返しては遊んでいたんだ。そのときにね、見つけた」
何だと思うと楽しそうに尋ねるカカシさんに、私は首を傾げる。
先ほどの話が繋がっているならば、答えは一つしかない。
けれど、それと何が関係しているのかが分からなくて言い淀む私に、カカシさんは合ってるよと頷いた。
「カイ。貝の抜け殻があったの。砕けたものや、そのままの形が残っている小さなものまで、いろんな種類の貝殻を見つけた」
カカシさんは遠い目をして語る。
「オレ、よく分からなくて。どうして畑でこんなものが見つかるのか見当もつかなくて、忍犬たちにも聞いたけど、知ってる奴もいなくて…。だけど、ある人が教えてくれた。『遠い昔、ここは海だったんだよ』って」
そこでようやく何が言いたいか、見えた気がした。
カカシさんは遠い面影から視線を逸らし、目の前の私を見つめると、照れくさそうに笑った。
「小さいガキのオレは、それを聞いて感動したの。貝は、畑と海を繋げてくれる。あの大きな海と、自分の家のちっぽけな畑を繋げてくれたんだって。……それでね、思ったんですよ。オレの名字が『はたけ』なら、きっと何かの『うみ』に通じるって。貝っていうまんまの存在ではないにしろ、きっとオレたちを結び付けてくれるって。正直、アンタの名前を聞いた時、少し驚いたんですよ。うみのイルカ。海に通じる名前だって、柄にもなく緊張しました。これって、運命なのかも知れないってね」
小さな秘密を明かすように、楽しそうに笑うカカシさんに、胸が熱くなった。



遠い昔、木の葉一帯が海底だったなら、どこを掘っても貝殻は見つかるはずだ。
理性的な頭では分かっている。
それは不思議なことでも、運命的なものを感じることでもない、過去に何があったかを示す証拠以外の何物でもない。
でも、それでも。
カカシさんが小さい時に感じた何かを、今までずっと大事に持っていて、それを私に繋がるものとして見てくれたことに、嬉しさがこみ上げた。
不思議でもない、運命でもない。
カカシさんが私を認識する一つの理由になった、運命的な何かと感じるものを結び付けてくれたこと自体が、運命だと言ってもいいと思った。



何だかまた泣けてきそうで、カカシさんの胸に抱きついた。
「くさかった?」って言うんじゃなかったとでも言いそうな気配に、私は首を振る。
鼻から鼻水が下りてきて、あまり言葉を紡げそうにないから、「いい名前だね」って小さく告げた。



カイ。
はたけとうみを繋ぐもの。
カカシさんと私をしっかりと結んでくれるもの。



まだ見ぬあなたに伝えたい。
あなたは私の希望だと。
あなたはカカシさんの光だと。
私にできないことがあなたにはきっとできる、と。



だから、思う。
あなたは色んなものを繋ぐだろうと。
人や里、森や川。
あなたは全てに繋がっていく。
その一番近くには、カカシさんと私がいて、きっと笑顔を浮かべているんだろう。



見えなかった未来。
想像もしなかった、救い。



カカシさん。
ありがとう。



私を選んでくれて、ありがとう。
私に希望をくれて、ありがとう。



私を生かしてくれて、ありがとう。
できるなら、このまま――。



ずっと、私の手を繋いでいて。








戻る





---------------------------------------

ひとまず、終わりです! 長い間、ありがとうございました!!m(_ _)m