ふたご座の彼

「おめぇ、何だそれは」


上忍待機所で待機時間をつぶしているオレに向かって、髭熊ことアスマがぶっきらぼうに問うてくる。
言葉の端々からお前に似合わねぇという意味が練り込まれていたが、オレはあえてそれを無視して、ジュラルミンケースの内箱の緋色の生地の上の、特注台座に奉納されているものを見つめる。
ピンク色の花の冠。
小さな花に混じって四葉のクローバーも編み込まれたそれは、オレにとって神器にも等しく、心ときめかせる一品なばかりか、愛しい恋人が自ずから編んでくれた至上の贈り物でもある。
つまり、宝物だ。
未だに瑞々しい生花の色と匂いを保つそれは、もらった翌日にミナト先生の時空忍術書を片っ端から読み漁り、時止めの術をかけた成果だ。
ひと月に一回は新しく術を掛けなおさなければならないが、この宝物が色褪せないようにするための維持管理としては安いものだった。


「……オレの宝物。イルカがくれた大事なだーいじな贈り物だーよ」


300日記念日にイルカが贈ってくれた。
はにかみながら鼻傷をかき、オレの頭にのせてくれた。
生憎夜で、月が出ているとはいえ辺りは真っ暗で、ピンク色の蓮華畑は白っぽく映っていたのだけれど、そこでイルカはこう言ってくれた。
「カカシさんにはピンク色の花が似合うと思って作ったんです。夜だから分かりにくいけど、今度は日のある時にまた来ましょう。俺、カカシさんがピンク色の花に囲まれている姿が見たいです」
俺の手を握って見つめるイルカの瞳は熱っぽくて、体の芯が痺れた。
思わず抱きしめて唇を貪り、そのまま致してしまい、事が終わってイルカにこっぴどく怒られたけど、最後に「こういうことは家の中で」と恥じらいながら言われて、瞬身で帰ってからまた二度三度五度励んで、二度怒られたけど、300日記念としては最高の思い出になったと思う。
特にイルカの出したものが冠にかかり、月の光に当たって煌めく様は、まるで真珠のようで一層美しくなった。


「……おめぇは乙女なのかケダモノなのか、変態なのかはっきりしろよ」
「いやねぇ、アスマ。乙女思考なケダモノで変態なのよ、こいつ」
あぁ、なるほどと納得の声を上げたアスマと、その隣でしたり顔で頷く紅の茶々にオレは憤る。
「ちょーっと!! オレの大事な思い出を汚さないでくれる!? イルカの真心で作られた貴き御品とシチュエーションを卑しめる発言は控えてっっ」
「おめぇが一番卑しめてんだろうが」
「赤裸々なでかい独り言を言っている自覚あんの?」
どうやら興奮して、300日記念日のことを口走っていたらしい。なんてことだ。オレだけが胸に秘めておくべき一コマをよりにもよって髭熊と魔女に知られてしまうとは。
「よし、ちょっと記憶を消そうーね」
おいでと額当てを取り手招きすると、二人は他言は絶対しないと火影にかけて誓ったので見逃してやることにした。


「恩着せがましい顔してんなよ。どうせ語りたいくせによ」
腐れ縁のアスマちゃんはさすがオレの腐れ縁だけある。隠された本音をくみ取ってくれたお礼として、オレの大事な大事な300日記念日デートについて語ってあげた。
どれだけオレが感激したか、どれだけイルカがかっこよかったか、あの一時は夢のようなデートで、覚めないでほしいと願うほどだったことを。
全てを聞き終えた後、アスマは小刻みに肩を揺らし始め、紅に至ってはひどく同情的な眼差しをオレに向けていた。


「……カカシ。すごくご機嫌なところ悪いんだけど、イルカ先生って壊滅的にムード作るの下手くそだと思うわ。一般的に、300日記念日デートが知り合いの田んぼってあり得ないと思うの」
紅の言葉に、オレは首を傾げる。途端にぶはっと吹き出す音が聞こえたが無視した。
その日、オレは緊急の任務に出て、帰ったのは深夜だった。だけどイルカは俺を寝ないで待っていて、蓮華畑に連れて行ってくれた。ちょうど満月が天空にかかり、花畑とオレたちだけを照らすように淡い光を落とし、まるで二人だけしかいない世界のように閉じられていた。
そのときのことを思い返し、うっとりとしていると、紅はなおもダメ出しをくだす。
「その、任務直後の格好で花畑に行くのもムードないわー」
「まぁ、任務直後ならがっついちまってもまぁ心情的には分かるがな」
ようやく震えが治まったのか、話に参加してきたアスマの下品さに物申す。
「ちょっと、オレはあくまでもイルカが、あのイルカが蓮華畑にオレを連れて行ってくれたことに感動してるの。盛りのついた猿発言は止してーよ」
ちなみにそこで致した痕跡は上忍の技で綺麗に消去してある。蓮華が倒された跡は如何ともしようがなかったが、寝転がった程度に思えるから大丈夫だろう。
致した後、イルカが知り合いに顔向けできないと真っ赤に震えているのも非常に良かった。家でイチャイチャするときのスパイスとして有効活用できてこれまた良かった。
「だから、おめぇはよー」
アスマが呆れた顔でこちらを見るが、きっとくだらない発言なので無視しておく。
オレが思っていることを察したのか黙りこむアスマを見た後、ムードないと言い切る紅に懇切丁寧に説明した。


「あのね、紅。イルカは、本当に可愛くてキュートで時にがさつなところも魅力になる、それはそれは男らしいかっこいい男なの。記念日なんて些末事覚えてないような人で、オレの誕生日は覚えているけど自分の誕生日は真っ先に忘れて、毎日一生懸命生きている、仕事人間で真っ正直で真っ当な人なの」
そこまでは分かるよねと聞くと、まぁねと返ってきた。
前振りは理解できたようだとオレは一つ頷き、口を開く。
「でもね、ふたご座の0型でもあるの。束縛を嫌い、常に自由でいたいと思っていて、変化を好み、人と付き合うことが大好きで、人にモテまくりで、熱しやすく冷めやすいから恋人関係は長続きしないと言われる、ふたご座のO型なの。だから、オレは常にイルカといる時は変化をつけるようにして飽きさせないように、記念日作って色々と努力してきたーの。本当はもっといろいろ束縛してオレしか見ないように躾けてやりたいとか、オレのことだけ考えてオレだけ見てオレ以外の話はしないでオレだけでいっぱいになればいいのにオレだけいればいいじゃないオレだけじゃダメなのなんで他にもいるのオレはイルカだけなのに不公平じゃないねぇなんでどうしてオレだけって言ってよオレしかいらないってオレ」
「止めろ、カカシ! 頭が痛くなるだろうが!!」
「うっわードン引き。あんた、あれだけイルカとイチャコラしてるのに、中身こじらせてるわねぇ」
紅の一言に、思わず頬が染まる。
「え、そう? オレとイルカ、仲良く見える? 公認の仲?」
うんうんと頷く紅に照れる。そうか。オレとイルカはどう見ても里公認の恋人同士に見えるらしい。
「……あれだけ薄気味悪い言葉吐きながら、それだけで照れるおめぇがこえーよ」
髭熊が何か言ったがそこは華麗に無視をしておく。
少々熱が入ってしまったと謝罪し、本題に戻す。


「ま、とにかくイルカは星座の性格判断上、オレという何の面白みもない恋人では物足りなくなる可能性があるわーけ。だからこそ似合いもしないスーツ来てイルカをデートに誘ったり、記念日毎に贈り物したり、イルカがオレに夢中になってくれるように日ごろから努力をしまくってるの。オレとしては、イルカがオレのこと思ってくれるだけでよかったーの。でもね、でも……」
じわっと瞳に湿り気が帯び、喉元に熱い塊がこみ上げ、思わず顔を両手で覆う。


脳裏に浮かぶのは、オレが血眼になって記念日作りに邁進していたある日のことだ。ちょうどイルカと付き合ってから300日が目前にあると気付き、今度はどういった趣向でイルカを驚かせるかと胸を躍らせて計画を練っていた。
寝転がっているイルカの横に座り、それとなく体を寄り添わせ、テレビを見るふりして考え込んでいた時、腕辺りに軽い違和感を覚えた。
視線を下に落とせば、イルカがオレの腕あたりの服を抓むように引っ張り、あどけない顔でオレを見上げていた。
どばっと唾液が出るような興奮と、混じりけのない真っ黒に澄んだ眼がオレを見つめる幸福感、思わず食べちゃいたいくらいの可愛さを覚え、頭の中では三者三様のイルカ推し合戦が始まり、常勝の獣カカシが勝ちをおさめたところで、イルカはこう言った。
「カカシさん、今度の記念日は俺に祝わせてください。俺もカカシさんが喜ぶ顔が見たいです」
ふわりと面映ゆそうに笑った顔に、獣カカシの足元で倒れていた溺愛カカシと理性カカシがにわかに力を取り戻したが、獣は強かった。さすが常勝なだけはある。
嬉しい、イルカが祝ってくれるなんて夢みたいと人から愛される愛玩獣らしく可愛い言葉を返しつつ、腕にはイルカを、足は寝室へ颯爽と向かっていた。
そこから始まる狂乱に、さしもの溺愛と理性もメロメロになって一丸となって協力し合い、その場にはいなかったものたちも我こそは我こそはとがっついてしまったことは、もう致し方ないことだろう。あのときのイルカもほんに良きものだった。


「いい加減こっちに戻ってこい、駄カカシ」
「顔を覆うなり鼻息荒くしてんじゃないわよ、変態」
再び獣カカシが表面上に浮かび上がってしまったことに気付き、オレは反省する。本当にイルカってば罪作りだーねー。鋼の理性を持つ上忍をこうも容易く狂わせるとは本当に何て甘美な存在なんだろう。
二度目の謝罪をし、再び口を開く。
「イルカが初めて記念日を自分からお祝いしたいって言ってくれたーの。こんなこと初めてで、イルカがオレに初めて執着心を見せてくれたんだよ。分かる? この人類史上歴史的初の偉大なる第一歩が!! この世に神が降り立ったと言わんばかりの神々しい奇跡が!!」
拳を握りしめ、思いの丈を吐き出す。
オレを見つめる二人は呆気にとられた阿保面を晒してオレの言葉に全面的に同意している。わかるか、そうか、分かるだろう。後に人類が初めて神を感じた日として永久に語り継がれていくに違いない。
イルカは生きとし生けるものを狂わし、熱狂される運命を背負わされた神なる子なのだ。そんな神の子と付き合えているオレは何て罪深く、平凡極まる存在か。いつか、天から神から降りてきて、オレの不甲斐なさに業を煮やして連れて行ってしまいそうで恐い。
あぁ、もうなんでイルカはあんなにもキラキラして綺麗で可愛くてキュートでラブリーでふぇいばりっとで男前で漢なんだろうか。
イルカと比較して自分の矮小さがひどく悲しくなってきた。
鼻から下りてきた液体がうっとおしくて啜っていると。


「あいつヤバい薬でもやってんじゃねぇか?」
「ちょっとここまでイッちゃってるなんて予想外よ。だいたいイルカ先生って淡白なふりして、カカシに群がるくノ一に笑顔で牽制しまくってるのよ。立派にカカシに執着してるってのに」
「比較の問題だろ。あいつの執着心に比べたら、イルカの執着なんざ羽のように軽い」
「あぁ……」
こそこそと髭と魔女が話し合い、残念なものでも見るようにオレに視線を向けてくる。
身の丈に合った同士で付き合っているお手軽カップルには分かるまい。オレとイルカは誰の目から見ても明らかな貴い身分、いや魂の差があるのだから。……辛い。


オレの心の声が聞こえたのか、魔女こと紅が一瞬顔を赤面させ、直後に口を開こうとしたが、それを隣の熊ことアスマが制す。けっ、何とまぁ仲のよろしいことで、オレに対するあてつけかな? あてつけなのかな??
「なんで、おめぇはやさぐれてんだ。そもそもな。どうして、星占い?か。んな胡散くせぇもんでイルカを決めつける。お前が相手してんのは不確かな当て推量と統計で出来たもんなのか? ちげぇだろ、おめぇの目の前にいる、おめぇが触れられることのできる、大事な恋人だろうが」
本質見誤ってんじゃねぇよとぶっきらぼうに吐いてきた言葉に、落ちていた視線が上にあがった。
「……アスマ」
隣にいる紅もアスマの言葉に何か感じるものがあったのか、優しい目を向けていた。
柄にでもないことを言ったことが恥ずかしくなったのか、アスマは大げさに頭を掻くと、まぁなんだと言葉を続けながらオレに言った。
「だからよぉ、おめぇもくだらねぇ情報に躍らされ」
「責任とれるの?」
アスマの言葉を途中で遮る形で突っ込む。
まさか止められるとは思っていなかったのか、アスマは少し目を大きくさせ、オレを見た。
それに対してオレはアスマを真っすぐに見つめて言葉を吐き出す。


「ねぇ、だからアスマが責任とってくれるの? くだらない情報でも胡散臭い当てずっぽうの推量でももし万が一、いや億が一でもイルカの趣味嗜好考え本能欲望魔が差した思いに掠るものがあって、オレが何もしない間にイルカを掻っ攫われたら、アスマはどういう責任をとってくれるの?」
「いや、そのな、カカ」
「アスマの命でイルカを返してくれるように説得してくれるの? そもそもアスマが死んでもイルカはオレの元に帰ってくる保障あるの? アスマの命一つで足りる? ねぇ、どうするのアスマが命をなげうっても帰ってこないことだってあるよね何を根拠にそんなこと言えるの絶対って言えるんじゃなきゃ意味ないでショ軽々しくよくそんな不確かなこと言えるよねオレがどんな気持ちでイルカと付き合っているか分かる顔を見るだけでも幸福感で焼き切れそうで毎日毎日いっぱいっぱいの生活送っているのにもしイルカがいなくなったらオレどうなるか分からないよイルカはどうなのかなオレ見て幸せになってくれてるのかなイルカはそもそもオレのことどれだけ思ってくれてるオレみたいに頭のてっぺんからつま先までみっしりと詰まっているかな詰まっているよねじゃないとおかしいと思わないこれほどまでにオレはイルカのこと思ってるのにどうしてイルカは他の人に笑いかけるの話しかけるの時はオレよりも優先して」
「だぁぁぁあぁぁぁぁあぁ!!! 悪かった、すまなかった、おれが不用意な言葉を言った! 本当にすまなかったこの通りだ」
突然奇声をあげてアスマはオレに向かって真っ直角に腰を曲げて頭を下げた。
肩透かしを食らった気分になってつい言葉を止まる。
それでも何となくもやっとしたものが腹の中に残っているから、オレは一言追加で言った。
「アスマもさ、少しは星占いやら星座性格判断を見た方がいーよ。世の中に絶対っていうことはないんだからーね」
己の発言の正当さを噛みしめ頷いていると、アスマと紅がぼそぼそと呟いていた。
「……ひでぇ目に遭った」
「今度からカカシにイルカ先生のことで意見するのは止めておくわ」
二人の言い分はオレからちっとも理解できないが、何かを悟ったならそれはそれでいいのだろう。


と、そのとき。
第六感から肌の毛穴から、あらとあらゆるものが鳴動してある一点に向かって集中した。
待機所の戸の前。
限りなく気配を薄くしているがそこにいるのは。


「イルカ」
喜色にあふれた声で名を呼べば、オレを窺っていたらしいイルカが少し悔しがるような顔をして戸から顔を出した。そして失礼しますと綺麗なお辞儀をすると、オレの方へと真っすぐ歩いてくる。
「アスマ先生、紅先生、お疲れ様です。カカシさん、今日は珍しく仕事早く終わったんで、俺から迎えにきました。サプライズです」
礼儀正しいイルカは上忍待機所にいる有象無象にいちいち挨拶しつつ、あと一歩のところでまた髭熊と魔女に挨拶して、ようやくオレに視線を向けてくれた。
サプライズ。確かに驚いたけど、驚いたし嬉しかったけど、なんで真っすぐオレのところに来てくれないの! オレは火影さまが目の前にいても見ない振りしてイルカの元に行くのに!!
「うん、嬉しいよ。イルカからオレを迎えに来てくれて、本当に嬉しい」
でも、イルカの前ではいい子でいたいオレは一切不満を口に出さずに嬉しい感情だけを伝える。
イルカはオレの言葉に仕方ねぇなみたいな苦笑を零して、大きな手のひらでオレの頭を撫でてくれた。わ、わ、イルカが撫でてくれた、嬉しい、嬉しい、嬉しい!!


オレの使役している忍犬だったら、ばさばさと尻尾を横に振りまくっていることだろう。
そそそとイルカへ近付いて、ほんの少し体を寄せてイルカを体中で感じつつ、情報収集を行う。うん、今日のお昼はうどんだーね。本当に麺類が好きなんだから。あ、また幼年クラスのあのクソガキにまとわりつかれてたな。しかもあのこまっしゃくれた女狐と手を繋いでる。む、またあの同僚といたのか。ま、まぁ職場が同じだし、席も隣り合ってるから致し方ないとはいえ気分は良くない。く、真っ先に釘を刺しているから安全確保はできていると思うが……。


オレがいなかった時間に会った人物たちにもんもんと嫉妬心を募らせていると、不意にイルカがアスマたちへ口を開いた。
「先ほどのカカシさんとの会話が偶然耳に入ってきたんですけど、アスマ先生と紅先生も勘違いしていらっしゃいますよ」
オレがいるのに、どうして他人に話しかけるのと嫉妬の鬼であるヤンデレカカシがきぃきぃと胸の奥で喚きたてたが、座っているオレの頭を懐で抱きしめてくれるようにぎゅっと抱きしめてくれたからヤンデレカカシは親指を立て笑顔で消えていった。
アスマと紅はイルカの言葉に何を言われたか分からない顔をしている。イルカは慌てず騒がず静かに訂正した。


「カカシさん、星占い好きだから、否定されるようなこと言われて剥きになっちゃったんだと思います。ね、そうでしょ、カカシさん」
引き付けられるように顔を上げて、菩薩のような天女のような優しい慈愛に満ちた眼差しと出くわして、思わず言葉に詰まる。というか、まんまと本心を言い当てられ、恥ずかしくてイルカの胸に抱き着いて顔を隠した。
「あ、やっぱり? 俺のカカシさんって本当可愛らしいんだから。もう、そんなに照れなくてもいいじゃないですか」
いやいやと言う態で、思う存分イルカを堪能するオレ。
だが、忍服のベストが邪魔をして非常にもどかしい。こうなればチャックを開けて素早くイルカの胸元に顔を押しつけるべきかと思い悩む。
「いやー、本当、俺のカカシさん可愛いですね。ね、アスマ先生、紅先生。お・れ・のカカシさん、非常に愛らしくて可愛くて目に入れても痛くないくらいです。あくまで、お・れ・のカカシさんですけどね」
何度もイルカがオレを自分のものだと主張してくれる。嬉しい。三日前に引き続き、今日は大安かな? オレの今年の運勢、大吉で天晴日和で運命の輪と太陽が正位置で乱舞しているに違いない。
ぎゅっと抱きしめてくれる力は強すぎて痛いくらいだけど、またそれも良し。オレが本気で抱きしめるとあばらの骨がダース単位でいかれるので自重しているが、いつか全身全霊を込めてイルカを抱いてみたいと思っている。
うっとりと夢見心地で堪能していると、イルカに声を掛けられた二人は諾々と返事をしていた。
「そうだな。カカシがイルカの恋人だってことは里中認めている」
「そ、そうね。うん、お似合いの二人だわ」
しばし、そのまま無言が続き、イルカの手から力が抜ける。引き寄せられた腕の感触が亡くなったことが寂しくて、つい顔を上げると、イルカはオレに手を差し出した。


「帰りましょう、カカシさん。俺たちの、俺たちだけの家に」
「うん」
紳士のように差し出された手をとり、促されるまま立ち上がる。
そのときこれは忘れてはならぬと宝物をジュラルミンケースに大事に入れ、それを持つ。
イルカは紳士の鑑を身をもって示すようにオレの手からケースを持とうとしたが、これはオレの宝物だからオレが絶対持つのだと胸に抱きかかえると、優しい目をしてそれを許してくれた。


オレの一歩前を行き、イルカが腰に手を軽く置き、エスコートしてくれる。
いつものことだけど、イルカ、素敵。かっこいい。紳士!!
上忍待機所で失礼しましたとにこやかに頭を下げた後、イルカはオレだけを見つめながら家に帰った。普段なら商店街は混むからと手を繋いで帰るだけなのに、今日は腰に手を置くエスコート続行のまま帰宅だ。
おかげで商店街のイルカと親しいおじちゃん、おばちゃんから今日は随分仲いいねぇと声を掛けられ、囃し立てられた。そうだ、もっとやれと胸の内で思いつつ、お上品に笑うに留めた。


あぁ、今日もいい一日だった。
朝の占いでも、今日のおとめ座の対人関係は五点中四点をたたき出すほどのラッキーデーだった。やはり未来からの幸福の使者、マンドリンウィッキー先生の腕は確かだと言えよう。


「あ、そういえば、今日はカカシさんが毎月買っている占い雑誌の発売日でしたね。本屋に寄っていきます?」
「うん、ぜひっ」
オレの趣味を把握してくれるイルカ先生の男ぶりに胸を高鳴らせ、オレは共に本屋へと向かうのだった。


占いって、最高!!







おわり



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カカシ先生、何かよく分からないヒトになってごめんなさい。
乙女なカカシ先生が書きたかったんです。