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 懐かしい声に呼ばれた気がして、重く粘りつく瞼を開けた。
 途端に刺さったのは白い光で、思わず呻き、手を上げれば、オレを覗き込む顔が見えた。
 黒い、強い意志が灯る眼に、顔のど真ん中へ真横に通った鼻傷。
 記憶の中にあった顔よりも大人びた。それでも、未だに面影が残るその顔に息を飲む。
 驚くような顔をしたオレの表情を認め、目の前の懐かしい顔は目を見張り、そしてくしゃりと泣き出すような笑みを浮かべた。
「――カカシ、ちゃん?」
 細く高かった声は、低く、耳に馴染むような柔らかい声音に変わっている。それでもオレに向けるあの柔らかい感情は記憶と寸分違わずそこにあって、影を作るように額へかざしていた手を伸ばした。
「イルカ? 本当にイルカなの?」
 伸ばした手が躊躇うことなく握られる。手も大きくなった。柔らかくて温かかったそれは、骨張り、ちゃんとした男の手になろうとしている。幼少の頃は対して差はなかったが、今ではオレの手の方が大きいようだ。
「うん。うん、そうだよ、カカシちゃん。会いたかった、俺、ずっと会いたかったんだ」
 瞳を潤ませるイルカの言葉がただただ嬉しかった。体を起こし、握られた手を引き、前かがみになったイルカの背に空いた手を回す。
「オレもだよ。オレもだよ、イルカ。あぁ、夢みたい。ずっとずっとイルカのこと夢見てた。何度も何度もイルカを思い出して、オレ――」
 言葉を続けようとして止まる。いや、止まったというよりは出なかった。
 イルカに会いたかった気持ちは本物で、求めていた気持ちもある。胸を満たす狂おしいほどの感情は確かにあるというのに、今まで自分がどうしてイルカに会おうとしなかったのかが理解できなかった。何度も何度も思い出して、イルカと過ごした優しい日々にずっと助けられていたというのに、何故、オレは何もしなかったのだろうか。
 そして、気付く。ここは一体どこで、イルカに出会う前の自分は一体何をしていたのか、全く覚えていないことに。
 自覚した瞬間、頭に痛みが走った。ずくんと頭の芯から迸る痛みに思わず呻く。
「カカシちゃん!?」
 イルカが体を離してのぞき込む。まだ抱いていたかったのに、痛みがそれを許してくれない。
 視界がぶれる。赤と黒へ交互に点滅する光が警戒音のようにけたたましく目を焼く。
 鋭く痛む頭痛から嘔吐感まで覚え、前屈みに倒れそうになった体をイルカが支えてくれた。そのままゆっくりと体を横に寝かせ、オレの肩へと手を添える。
「……今は、ゆっくり寝て。絶対、離れないから」
 痛みと吐き気の中、イルカの言葉が本物か知りたくて、視線を動かせば、イルカは俺を見下ろし、しっかりと首を縦に振った。
 それを見届け安心したのか、視界が徐々に暗くなる。イルカの顔が、輪郭がぼやけてしまう。
 急速に力が抜ける四肢を叱咤して、肩に触れている手を握りしめたところで、オレの意識は今度こそ黒く塗り潰された。 


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「っは」
 息を吸って、目を見開いた。
 倦怠感がひどいばかりか、じっとりとした汗が体中を濡らしている。
 横から差す白い光に、今は朝だと見当付け、ゆっくりと周囲に視線を巡らせた。
 気配のない空間にひんやりと胸が冷える。
 ちらちらと視線が散らばる。動悸がひどい。喉が渇いた。
 せり上がるような不安に苛まれ、胸元を握りしめ、呻くような声を上げれば、ドアの開く音が聞こえた。
「……カカシさん?」
 不安げな声が耳に届く。それと同時に、窺いながらこちらを覗き込む人影を見て、緊張していた肩が緩む。あぁ、イルカだ。イルカがいる。
「……イ、ルカ」
 小さく名を呼べば、イルカは安堵したような息を吐いて駆け寄ってくれた。縮こまった背中を宥めるように撫でてくれる温かい手のひらに、落ち着きを取り戻す。
「……おはよう。オレ、どれくらい寝てた?」
 オレのかさついた声に気付いたのか、イルカはちょっと待っててと声を掛けるなり、一度ドアを出ると、水差しとコップを持ってきてくれた。
「おはよう。丸一日くらいだよ。で、これ、飲んで。すっきりするから」
 寝汗がひどいことを指しているのだろうか。
 昨日のような頭痛がないことを確かめながら、ゆっくりと体を起こし、イルカからコップに入った水を受け取る。
 一口含んで、水だけではない、爽やかな匂いと口当たりに気付いた。気怠かった体が一新されるようなのど越しの良いそれを、気付けば一気に煽って飲み干していた。
 オレがあまりにもうまそうに飲むせいか、イルカは小さな笑い声をあげる。
「おかわり、いる?」
「うん、おねが――って、イルカ! どうしたの、その頬!! 一体何が」
 寝起きのせいか、ぼんやりとして見えなかったことがはっきりと像を結ぶ。
 コップを受け取ろうとしたイルカの顔には、青黒い、誰かに殴られたような痛々しい跡が残っていた。それもまだ新しい。
 よくよく観察すれば、イルカの体中から薬草の匂いがする。切り傷や打ち身によく使われる薬草の匂いに、全身総毛立っていれば、イルカは何のことはないという顔で鼻傷を掻いた。
「あー。昨日のカカシさん、すぐ寝たから気付かなかったんだろうけど、昨日からこれだよ。ちょっと任務でしくじっちゃって、その名残」
「でも、傷は新しいよ?」
 オレの言葉に、イルカは少しだけ躊躇いを見せたが、オレの疑問に答える気になったのか、寝台に腰かけて話す姿勢を見せる。

「カカシさん、気分良さそうだから話すけど、気分悪くなったら遠慮せずに言ってよ」
 オレの具合を気にしてくれていたらしい。頷いて了解すれば、イルカが口を開いた。
「その、俺、後方支援の任務に行ってたんだけど、へまして足やられたんだ。チャクラで応急処置してもらったから歩けるけど走れなくなって、戦闘でもなったら役立たずどころか迷惑になるから一人帰されてさ。そしたら、帰る途中で盗賊に囲まれちゃって、色々と痛めつけられながらも何とか逃げ出して、ここら辺に小屋があったこと知ってたから、来てみたら」
 言葉を切って、イルカはオレを見て笑う。
 道に粗大ゴミが捨てられていると思ったら人で、よくよく見ればカカシさんだったとイルカは膝を叩いて笑った。
「汚くて臭くて、もー大変だったんだよ? まぁ、幸い、俺が治療できる程度の怪我だったからその手当して、今に至るってわけ。……怪我はひどくないけど起きなかったから、それだけが心配でさ」
 しんみりと呟かれ、胸がうずいた。
「……ごめん」
 小さく謝れば、イルカは苦笑まじりにオレの肩を軽く小突いてくる。
「カカシさんが謝る事じゃないよ。まぁ、だからさ、俺はカカシさんが何をしていたのか知らないんだ。でも、安心して。火影様には式を飛ばしておいたから、そのうち連絡がくると思う。それまでゆっくり休めばいいよ。俺が看病しますって連絡もしたし」
 ご機嫌な調子で言うイルカに、なんとなく感慨深い思いを抱く。
 どちらかといえば猪突猛進で、考えるより先に行動するイルカだったのに、里への連絡や適切な対処を自然とこなしている。
 オレが知らない間に成長したんだなぁとほんの少しの寂しさと頼もしさを覚えていたら、イルカの頬がわずかに膨らんだ。
「……カカシさん、今、俺が成長したなぁって思ってるだろ。近所のおじさんと同じ目だ」
 鋭い。
 言い当てられ笑って誤魔化したが、よほどイルカは言われ続けていたのか拗ね始める。せっかく会えたのに機嫌を損ねたくなくて、オレはとっさに話題を変える。
「そういえば、イルカ。オレのことさん付けで呼んでるよね。どうして?」
 初日は確かに『カカシちゃん』と昔と変わらぬ呼称で呼んでいてくれたのに、今日は始めからさん付け呼びだ。こちらの呼び名も新鮮だけどちょっと寂しく感じた。
 オレの指摘にイルカは言葉を詰まらせる。一文字に口を閉じるイルカを不思議に思って眺めていれば、イルカはばつが悪そうに視線を逸らした。
「……ガキっぽいから」
 思ってもみない言葉に目が見開く。すると、イルカはごにょごにょと口の中で呟くように吐き出す。
「子供扱いされたくないっていうか……。カカシさんとは同じ目線っていうか、そりゃ階級差はあるけど、それ以外では対等でいたいっていうか」
 会えなくなってからずっと思ってたとぽつりとこぼされて、そのいじらしいまでの純粋な思いに胸がいっぱいになってしまった。
「イルカー!」
 寝台に座っているイルカの腕を引き、背中から後ろへ倒れ込む体を胸の中へ抱き込んだ。
「可愛い、イルカ、可愛い!!」
 背中から覆い被さって頭を撫でれば、イルカは憤慨した声をあげる。
「だから、そういうの嫌だって言ってるだろ!? カカシさん、昔から何かっていうとそうやって俺を愛玩動物みたいに扱いやがって!!」
 腕を振りあげ抵抗してくるイルカの体を柔らかく拘束しながら、オレは失礼なと声を張った。
「イルカのこと、一度も愛玩動物だなんて思ったことないよ。イルカはオレにとって大事な大事な幼なじみで、食べちゃいたいくらい可愛い人なんだから!!」
「だから、なんで可愛いになるんだよ! 俺はカカシちゃんにかっこいいって思われたいの!! 俺、もう16だよ。子供のときは仕方ないにしても、もう可愛いっていわれる年じゃないからっ」
 つぅか、言わせねぇとイルカは断言する。頭に血が上っているせいか、懐かしい呼び名が復活している。
 イルカの隠された思いに胸がきゅんと鳴る。そういえば、イルカはいつもオレの前で無茶な悪戯や行動を率先してやっていた。小さい頃から、オレにかっこいいと思われたいがためだと知ってしまえば、ますますイルカを愛おしく思う。
 可愛いと内心で絶叫しつつ、これ以上イルカの機嫌を損ねても悪い結果しか生みそうにないので、せっかくイルカが腕の中にいることもあり、スキンシップを取ることにする。


「うんうん、わかった、わかった。確かにイルカ、大きくなったよね。ちゃんと体も鍛えているし」
 イルカの腕に手を当て、綺麗についた筋肉に沿わせて指を移動させる。少年期と青年期にさしかかった、華奢なようでいて力強くしなやかな肉体は心地良い弾力を有している。
「! わかる? 任務がある日は別だけど、鍛錬ずっと続けてるんだ」
 イルカは動きを止め、オレの手の動きを受け入れてくれた。
 イルカは木の葉の正規服の下に着るアンダーと、正規服のズボンという姿なので、触れればダイレクトに体の線がわかる。
 首から肩、ほどよく厚みを帯びてきている胸板。確かめるように触れて、ある箇所をかすめたとき、一瞬イルカの体がびくついた。
 任務中に怪我を負ったということもあり、軽く触れたつもりだったが痛みを与えてしまっただろうか。
 肩口からそっと様子を窺えば、戸惑うような表情を浮かべたイルカがいる。
 さきほど触れた箇所を思いだし、もしかしてと好奇心が芽生えた。悪戯を仕掛ける気持ちで、再び掠めるように指を這わせて素知らぬ顔で話を続ける。
「うんうん、胸もちゃんと筋肉ついてるし、このままいけばイルカ、いい男になるよ。やっぱ男は胸で服を着たりするかーらね」
 それとなく指を置き、まずは軽く叩くように触れれば、服の上からその存在を主張してくる。片方だけだと見た目のバランスが悪いのでもう片方も同じように叩いてやれば飛び出てきた。
 健気に立っている二つの突起が何となく可愛く思えて、今度は際どいところを撫でてやる。イルカはびくりと背中を波ただせ、居心地悪そうに体を動かし始めた。
「そ、そういうもの?」
 問い返すイルカの声は若干震えが混じっている。もう少し反応が見たくて、オレはそうそうと頷きながら、脇に手を添え下から上へとなで上げる。
「ここがね、張ってるとかっこいいのよ。中忍以上に支給されるベストがあるじゃない。やっぱりあれ着るにはここが必要だなってオレは思うわけ」
 突起を指の隙間に潜り込ませ、柔らかく挟んで揺さぶってやる。「ん」と小さく呻く声が漏れ聞こえ、咥内に唾液が溜まる。後ろから見えるイルカの耳たぶが微かに赤みを帯びていることに気づき、美味しそうだなと思ってしまった。そして、気付けば、口に含んでいた。
「うわ! な、なに、カカシちゃ、カカシさん!!」
 びくっと大きく震えて前に逃げようとする体を引き留め、顎を掴み固定したまま、逃げようとする耳に舌を這わせた。
 うひゃっと色気のない声があがったけれど、なんだかひどく興奮した。胸に置く手はもう性的な意味合いを持って乳首をいじっている。
 ゆだった頭で何しているんだと思ったが、止めようとは全く思わなかった。そればかりか、先へ先へと焦るように指先が踊る。
「カ、カカシさん!?」
「んー、イルカがすっごく美味しそうに見える。オレ、食べたいなぁ」
 半泣き状態のイルカの頬に口づけながら、オレは本心を口にする。
 イルカに対して好きという気持ちは前々からあったが、その好きの種類はたぶん肉欲が含まれるものだったのだろう。イルカと出会ったときはオレがガキすぎて気付かなかっただけで、きっと出会った瞬間からそういう目で見ていたに違いない。でなければ、最初は悪戯心で手を出したとはいえ、れっきとした男であるイルカに触れて、こうも箍が外れる訳がない。
「た、たべるって、どういうことっ!?」
 動揺しているのか、怖がっているのか判断がつかないが、イルカは悲鳴に近い声をあげている。その初々しい反応を楽しみながら、オレはイルカのまなじりに唇をつけたまま、アンダーを引っ張り、裾から手を入れて乳首を捻った。
「ん、そのまんまの意味だーよ」
 この行動で分かるでショと含み笑いを漏らせば、突然イルカはわーっと声を張り上げ、前かがみに縮まるなり死にそうな声を発した。


「も、ちょ、だめ! 俺、美味しくないし、それにちょっともう緊急事態ー!!」
 離れてと焦りに焦った声をあげるイルカに面食らって、ほんの少し冷静さを取り戻す。
 どうしたのと縮こまるイルカを背後から窺えば、顔といわず耳まで真っ赤にさせて、ひどく恥入っていた。
 ただならぬ様子にやりすぎたかと一瞬冷や汗をかいたが、イルカをよくよく見れば、イルカの両手は何かを死守するように押さえている。おまけにぶつぶつと何か唱えているイルカの言葉をよくよく聞けば、下忍で学ぶ忍びの心得だった。
 一般的には下忍の頃に空でも言えるようにたたき込まれるそれは、やたらと長く、古めかしい文で、暗記が苦手な忍びたちを今もなお苦しめている。
 その心得を一心不乱に唱えているイルカの様子にぴんとくる。胸に手を這わせていた両手を離し、イルカの両手が守っているものへと無遠慮に突っ込めば、イルカが変な悲鳴をあげた。
「ぴゃ!」
「あ、立ってる」
 咎める雰囲気を無視して事実を言えば、イルカは赤い顔をオレへと向けた。唇は半開きでわななき、恥ずかしさのあまり黒い瞳には涙が溜まっている。
 人によっては敏感に感じるところをかなりの時間なぶっていたのだ。しかもイルカは若いし、当然の反応だと思う。
 だがイルカはそうは思っていないようで、くしゃりと顔を歪ませて謝り始めた。
「ご、ごめ、カカシちゃ。お、俺、そんなつもり全くなくて、で、でもごめん」
 オレの視線が恐いというように目をそらせ、体を固くするイルカの様子に罪悪感が芽生える。その気になるような触れ方をしたオレが全面的に悪いのであって、イルカはちっとも悪くない。
 そう、イルカはちっとも悪くないのだけれど、ついさっき自覚した恋心を持つオレとしては願ってもないチャンスが到来したわけで、オレはイルカに悪いと思いつつも、自身にとって美味しい機会を逃すつもりはさらさらなかった。


「だーいじょうぶ、イルカ。当たり前の現象なんだから怖がらなくてもいいよ」
 すんすんと鼻をすすり始めたイルカの頭を撫でて、反対側の顔に自分の顔を寄せる。
「だ、だって、俺、気持ち悪くない? カカシちゃん、ただ単に、触っていた、だけなのに、た、立つって」
 どうやらイルカはオレのよこしまな気持ちを微塵も気付けていないらしい。かなり際どい触れ方をしたのに、何の疑問も持っていないようだ。
 オレとしては都合が良かったが、オレ以外が仕掛けても気付きそうにないイルカの無警戒振りに不安が煽られる。これは、指導が必要だな。
 後々の算段を取り決めつつ、今はひとまずイルカを言いくるめることにする。
「心配しなくていーいよ。イルカ、任務中だったんでショ? しばらく抜いてなかったんじゃない?」
 オレの質問にイルカは小さく何度も頷き返した。
「なら、しょうがないよ。イルカ、まだ若いんだしさ。人肌に触れたり、触れられているだけでもこうなるもんだよ。現に、オレだって」
 鋼の意志で押さえていた欲求を解き放てば、まだまだ若いオレの分身はあっという間に臨戦態勢だ。背中で感じたのか、イルカはびくりと肩を震わせた後、おそるおそるという感じにオレに視線を向ける。
「……カカシちゃんも、同じ?」
 オレの方がイルカより背が高いため、オレを見る時、自然にイルカは上目遣いに見るようになってしまう。
 潤んだ瞳と、不安そうな表情はそれだけで庇護欲と加虐心を問答無用でかき立てられる。
「そうだよ。だから、泣かなくてだいじょーぶ」
 イルカを怖がらせる気持ちは毛頭なくて、加虐心だけねじ伏せ、イルカの額へと口づけを送る。
 オレの態度にようやく安堵したのか、強ばっていたイルカの肩から力が抜けてやっと笑みが浮かんだ。
「良かった。俺、カカシちゃんに嫌われちゃうかと思って」
 イルカの一言に胸が射抜かれた。
 恐がっていた理由がオレに嫌われたくないって、可愛すぎでしょーがっ!
 このままで終わってもいいと思っていたオレに方向転換をさせるには十分で、オレはこのまま進むことにした。


「ね、イルカ。せっかくだし、一緒に抜きっこしない?」
「……抜き、っこ?」
 ぽかんと口を開けるイルカが可愛い。
 呆然としたイルカをその場でくるりと回し、お互い向き合うようにして様子を窺う。やがてイルカは何を言われたのか理解したのか、顔を真っ赤にさせた。
「へ!? や、え! え!?」
 動揺しまくって要領の得ない言葉ばかり出すイルカの初々しさに、これはそっち関係は手つかずだなと見当をつけて、一人悦に入る。もしかしたら、花街にも行ったことがないのかもしれない。
 顔を真っ赤に染めて、言葉を無くしたイルカへ、オレは大丈夫と笑顔を浮かべる。
「結構みんなやってることだし大丈夫だよ。ま、オレはしたことないけどイルカとだったら全然だいじょーぶ」
 恐くないよ、気持ちいいだけだよとそれとなく言い聞かせれば、イルカは迷うように視線をさまよわせたが、最後には頷いてくれた。


 結果、良かった。最高に可愛かった!!
 イルカのはまだ幼いといわんばかりのもので可愛いし、人に触られたことがないのか、すぐにいっぱいいっぱいになっちゃうところも可愛いし、オレのわがままで一緒にいきたいから我慢させるとイきたいイきたいってすぐ泣いちゃうところも可愛いし、キスしてイきたいなって訳分からなくなっているイルカに言ったら唇寄せてきて、する事といったら唇擦り寄せるだけで微笑ましいし、オレががっつり唇に食らいついたら必死になって合わせてくれるし、一緒にいった後も口づけを交わしてたらまた元気になって散々可愛がってしまった。
 本当だったらお互い口とかでやってみたかったけど、キスだけでもうメロメロになってたから、それはまたの機会を待とうと思う。だって、これから火影さまの沙汰があるまでイルカと一緒に過ごせるのだから、楽しみはとっておいた方が得策だ。
 

 ぐったりとベッドに沈むイルカの体を抱きしめ、オレは鼻歌を歌う。
 涙の跡を優しく撫でながら、オレはこれからの日々に思いを馳せた。
 これを機にイルカをオレの恋人にしよう。いや、生涯の伴侶にしてみせる!!
 記憶は全くと言っていいほど思い出せていない現状だが、ここでイルカに会えたのも運命なら、ここでじっくりと愛を育むのも運命に違いない。


 その時のオレはようやく自覚した幼い恋心と、目の前にいるイルカに夢中で、大事なことを見落としていた。
 怪我を負っていたイルカの体には打撲痕が生々しく残っていたこと。
 そして、オレに触れられる、ほんの刹那、体が緊張で強張っていたこと。
 浮かれていたオレは、イルカの小さなサインにちっとも気付いてなかった。






戻る/

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うん、力尽きました! ははは!!




飴玉の唄 1