足取り軽く、受付所へと進む。
今日の夕飯は何にするっかなーと考えながらも、結局先生は俺の好物である魚料理にするんだろうなと予想がつく。
今日こそはお肉にしなきゃ。あ、でも、どうせなら二人焼き肉なんてのもいいかもしれない。
来るべき日に向けて精をつけて欲しいから、にんにくのホイル焼きもつけちゃおうかと、上機嫌で受付所前へたどり着く。
かわゆい先生の顔を拝見と、戸を開けるより先に、ドアが開いた。あ。
「カカシ先生」
俺が声を掛けるよりも早く、イルカ先生がにっこり笑って名を呼んでくれた。
愛し合う二人は時の運までもが味方をしてくれるんだーねと、世界の理を確信する。
「? どうかしました?」
しばし、見惚れていたらしい。
のぞき込むように俺を見つめてきた先生に、どきどきと胸が高鳴る。何でもないと言おうとすれば、
「イルカー、邪魔だぞ。イチャつくなら、家帰ってからしろ」
「そうだそうだー!」
受付所内から揶揄する声が飛んできた。声からして、いつもの二人組だろう。
先生は「イチャついてねーよ!」と顔を赤くして後ろへ怒鳴り、俺の方を向いて「行きましょうか」と、はにかんだ笑みを浮かべた。
うん。やっぱり先生、可愛い。
先生の言葉に異論もなく、こくこくと頷き、俺は先生の後について行った。






先生が俺を見つけてくれ、俺は先生と一緒に木の葉へ帰ることができた。
里に着いた途端、即入院となってしまったが、いつもならつまらない入院生活も、毎日先生がお見舞いに来てくれたおかげで、過去にないほど充実した入院生活となった。
しかも、自宅療養になった時点で、先生は有無を言わさず俺を引き取ると、そのままイルカ先生の家に住むことになった。
先生ってば大胆と喜んだのも束の間、先生は自宅の玄関前で耳を疑うことを言った。
「俺の部屋狭いんで、ここにいる間はビジンでいてくださいね」
冗談うまいんだからと笑った俺に、先生は満面の笑みの中、目だけはちっとも笑っていない表情で俺を見据え、こう言った。
「おしおき、です」
有言実行。
このときばかりは、先生の生真面目さが痛かった。






と、いうわけで、先生と俺は、すべてが分かった今もなお、同じ部屋で寝起きしている。
結構な日数が経ったというのに、先生はまだ俺に猫から人へと昇格してくれない。
先生の風呂上がりとか、寝乱れた姿とか、列挙に暇ないほどに俺の欲情ポイントはそこら中に溢れているのだけれど、俺が猫の姿をしている時点で襲いかかることもできず、一番近い所にいられて嬉しい反面、悶々とした日々を送っていた。






「まだ日が高いですねぇ。こんなに早く帰れるなんて久しぶりです」
外へ出ると同時に、先生は天に向かって大きく伸びをした。
夕暮れより早い時間帯。
空はまだ青く、日中の日差しを残している。
太陽を仰いで、ぐーんと伸びをする仕草に、らしいなぁと和んでしまう。
ビジンの時にはよくする伸びだが、はたけカカシとしてはしたことがない。
無防備すぎる体勢が忌避する原因だが、家の中ならいいだろうか。今度、先生の家でやってみようかな。それにはまず俺の人間復帰が前提だが……。
どうやったら先生の怒りが解けるのだろうと、ついため息を吐けば、伸びをし終わった先生が俺の一歩前に出た。
「せっかくだし、買い物の前にちょっと散歩しませんか?」
言われてみれば、夕飯の準備にはまだ早い時間だ。
先生は「今日は驚くほど順調でしたからねー」とご機嫌な様子で、俺をどこかに連れて行ってくれる様子だ。これは!!






先を行く先生の隣に並んで、手を握る。見開かれる目を見つめて、笑みを向けた。
「先生からデートのお誘いなんて、嬉しいな〜」
鈍ちんの先生のことだから含みなんて何もないのだろうけど、そう思いたいんだから、そういうことにしてもらおう。
鼻歌を歌いながら上機嫌に歩いていれば、先生は隣でうーっと顔を覆った後、繋いでる手をぐいっと引っ張ってきた。
体が先生寄りに傾く。
何だろうと顔を向けた先で、先生は顔を真っ赤にして挑むように俺を睨んだ。
「お、俺も! あんたとデートができて、嬉しいです!!」
言い切った後、ますます顔を赤らめて、先生はずんずんと歩き出す。
引きずられるように歩きながら、ふわっと浮き上がるように胸のあたりが熱くなった。
「うん」
小走りに歩いて、先生の隣に並ぶ。
鼓動が跳ねるように波打つ。繋いでる手は温かくて、真正面を向いている先生の耳は真っ赤で、笑みがこぼれ出た。






「ねぇ、先生。今日、待機所で先生の話を聞いたよ」
黙ったまんま二人で手を繋いでるのもいいんだけど、今日はちょっと話したい気分だ。
「俺の、ですか?」
まだ顔を赤らめている先生に頷いて、ゲンマから聞いた話をした。
先生は全く知らなかったようで、俺の話に「えー」やら「そんな馬鹿な」やら、笑いの混じった相槌を返してくる。
全く信じてない先生に、俺はちょっとだけむきになる。
「先生自身気付いてないだけで、本当に幸運背負ってるのかもよ?」
俺のこともあるしと付け加えれば、先生は眉を潜めた。
「そこは思いの強さとか、言って欲しかったですね」
咎めるような視線を投げかけてきた先生に、心臓が飛び跳ねる。
わっ、何、先生! 今日の先生はえらく大胆じゃないっ!!
カーッと全身が燃え立つような感覚に陥る。なのに先生は、俺に特大の一撃を食らわしたなんて思いもしないようで、平然と話を続けた。もう、先生の鈍ちん!!
「だって、俺にそんな力があるなら、あんなひどい任務になるわけないじゃないですか」
先生の言葉にあぁと思う。俺も思ったことだ。
俺と先生が初めて出会った任務だけど、悲惨としか言いようのないものだった。
「そう思って下さるのは、有難いことですけどね。そんな力、俺にはありませんよ」
ちょっと陰りのある笑みを浮かべた先生に、言葉が返せなかった。
人の言葉というものは、何て無責任なんだろうと思う。本人の知らないところで噂される言葉は、特に。
こんなこと言うんじゃなかったと、先生の気持ちを考えなかった自分を罵っていると、「でも」と先生は一転して明るい声をあげた。






「身に覚えがない訳じゃないんですよ」
悪戯小僧の笑みを浮かべて、先生は俺を見つめる。まるで俺はその理由を知っているという風に。
「え?」
動揺する俺に、先生は「いかんなぁ」とぼやくと、難しい顔をして指を一本突き出した。
「ヒント、その一。俺の幸運は、たぶんカカシ先生と出会った後に起こっているはずです」
え?
ぽかんと口を開ける俺に、先生はますます顔を険しくさせ、「その二」と指を二本突き出した。
「カカシ先生が俺に何かを言ったことと関係してます」
先生の幸運と俺が関係してる? 何それ、ゲンマたちはそんなこと何一つ言わなかったーよ?!
肝心な時は鈍いのに、こういう時に限って鋭い先生は、俺が全く思いつかないことを正確に悟ると、頬を引きつらせながら三本目の指を立てた。
「…その三。カカシ先生は、そのことを四代目から聞いたと言ってました」
四代目? 先生が?
顎に手を置いて、空を見上げた直後に閃くものがあった。






思わず、「あ」と声があがる。
もしかして、先生ってば俺が教えた呪文を、あのときから今の今まで大声で言っていたの? 俺自身、一度だって実行したことのないあの呪文を!?
本当にと驚愕の眼差しを送れば、先生は目を半眼にして俺を非難がましく見つめていた。
一瞬怯んで言い訳をしようと頭を回転させたけど、俺を見つめる視線の強さに言葉が出なくなる。
「――ごめんなさい」
全面降伏とばかりに、頭を下げた。
言った本人が全く口にしてない呪文を信じてくれた先生へ、すまない気持ちが沸き上がる。
窺うように視線を上げれば、思わぬことに先生は満面の笑みを浮かべていた。
はい?
一体どこに先生が笑う要素があったと、軽く混乱してしまう。
先生は俺の様子を気にもしないで、それはもう嬉しそうに俺の顔を見てもう一度笑うと、繋いだ手をぶんぶんと大きく振った。
「その様子だと、少しは俺のこと、覚えてくれてるみたいですね」
嬉しいなとはにかむ先生に、自分が肝心なことを伝えていないことに気付いた。






イルカ先生を失いたくて、忘れるよう術を施していたこと。でも、その術は解除され、しっかりとあのときのことを覚えていること。






ばつが悪い。
先生の笑顔を直視できずに、視線をそらしてしまう。
真っ当な俺は、今までのことを全部言うべきだと主張してくるけど、弱気な俺は、それを言ったら俺のこと先生嫌っちゃうんじゃないのと囁いてくる。
思ったものとは違うけど、せっかく堂々と暮らせるようになったのに、これがきっかけで仲違いするのは、絶対嫌だ。
でも、かなり迷惑をかけたというか、先生がずっと俺を思ってくれたことを知っているだけに、言わないのは卑怯だし。
でも、俺のしたことって、情けないを通り越して身勝手だし、先生の気持ちなんて何一つ考えていない最低行為だし……。






悶々と一人頭を悩ませていると、先生が「あ」と小さく声を上げて、俺の手を掴んだまま走り始めた。引かれるように、俺も走る。
「カカシ先生、後少しですよ」
前を行く先生が俺を振り返る。
だいぶ歩いたと思っていたが、それも当然。
先生が連れてきてくれたところは、火影岩のふもとで、里が一望できる小高い丘だった。
ここは方角的に東にあたるため、日が傾き始めている今、一番奥の空は夜の色合いが滲みだしている。
「本当だったら、朝に一緒に来たかったんですけどね。ここから見る朝日、俺、大好きなんです」
崖の際に立ててある柵にもたれ、先生はこの場所の良さを語る。今度休みが重なったら一緒に朝日を見に行きませんかと、早朝デートのお誘いをしてくれる先生の言葉に胸がときめいた。
「ぜひ」と勢い込んで答えると、先生は良かったと小さく笑って、目の前の景色に視線を飛ばした。
空は赤く染まることもなく、静かに闇夜へと移り変わっていく。ぽつぽつと里に火が灯る様を、言葉もなく二人で見つめながら、俺はある決意を固める。
やっぱり、全部言おう。今までのこと、俺が思っていたこと、全部、包み隠さず、先生に話そう。それで先生が俺を嫌っても、俺は先生のことが好きだから、好かれる努力をしていこう。また先生の隣に並べるように、頑張ればいいだけだ。






よしっと、小さく息を吐いて覚悟を決める。
話があると、口を開こうとした直前、先生が大きく息を吸う音が聞こえた。
その直後、
「カカシさーん! 共に白髪になるまで、一生側にいてください!! 俺、大事にしますっ」
突然の告白に、目が見開く。
一瞬何を言われているのか分からなくて、先生の顔を見れば、先生は里をまっすぐ見つめたまま、ぎゅっと俺の手を握った。
「だから、俺の伴侶になってくれーーーっっ」
絶叫するように迸った声は、周囲に響き、こだまとなって消えていく。
その頃には、俺は何て言われたのか頭に入ってきて、全身がかっかと燃え上がるように熱くなっていた。
答えは勿論イエスしかないんだけど、心臓が痛いほど高鳴って、はんぱなく血液をどんどん送り出すものだから、パンク寸前の俺は声が出せない。
ぱくぱくと口布の下で開閉する俺に顔を向け、先生は暗い所でも分かるくらいに顔を真っ赤にしたまま、それでも言い切った清々しさを漂わせて、俺の心臓に指先を突きつけた。
「言っておきますけど、拒否権は認めません」
俺の答えなんて知っていると、見透かしたように笑った先生はべらぼうに男前で、あぁ、もう、なんだ。
「……俺にも言わせてくださいよ」
顔を押さえて呻くしかできなかった。
「嫌ですよ。カカシ先生が言ったら、決まり過ぎて面白くないじゃないですか。それに、俺はここでプロポーズするって、子供の時から決めてたんです」
俺の夢の成就を邪魔しないでくださいと、胸を張る先生が愛しくて仕方なかった。
俺は我慢できなくなって、先生を後ろから抱き込む。
「ちょ、これも俺がしたかったんです!! カカシ先生、変わってくださいッ」
胸に抱き込んだ先生がじたばたと暴れたけど、そこはきっちりと抱き込む。
「先生のわがまま聞くんだから、俺のも聞いてくださいよ」
「え? 俺、わがまま言いましたか!?」
「えぇ、そりゃもう、たくさん言われました」
振り返って驚愕の表情を浮かべる先生に、俺は笑う。






先生は本当にわがままだ。
いつ死ぬかも分からない忍びの癖に、白髪になるまで生きるつもりで、しかもそれを俺にまで求めてくる。
叶わぬ理想だと、綺麗ごとだなんて思いもしないで、当然とばかりに言ってくる。
まっすぐ前を向いて、苦しみも悲しみも辛さも、全部知った上で、それでも諦めない、強い人。
俺を照らしてくれる、お日さまのような人。
だから。







思いっきり息を吸った。
この思いが、気持ちが届くように。
願いは叶うものだと、言い切った言葉は真実になるのだと、一切の迷いを切り捨て、喉を開く。
先生、今、言うよ。
今まで言えなかった分を全てこの言葉に込めて、俺の一番の願い事を言う。
だから、見守っていて。






「俺は、イルカ先生と共に生きる! あらゆるものがこの身を切り裂いても、苦しみがこの身を襲おうとも、俺は生きて、生きて、生き抜く。そして、先生と一緒にじいさんになって、大往生する!!」






音は空気を振るわせ、言葉を生み、言葉は響き、力となる。
奥歯を噛みしめ、自分の願いを刻みつける。
先生は、きっと俺に生きて欲しかったのだと、自分の思いを見つけて欲しかったのだと、このときになってようやく気づいた。
自分というものがなかった俺に、何かの寄せ集めで成り立っていた俺を心配して、先生は俺にあの呪文を託した。






遅すぎるってことはないですよね、先生。
今は亡き恩師に呼びかけた。だって、俺は最高にわがままな人を見つけたから、俺はひとりぼっちじゃなくなったから。






先生の声は聞こえないけど、俺の中にあったうろの奥底で、誰かが笑った気がした。
懐かしさがこみ上げる。
恐怖しか感じなかったうろを、そう、思えた。






感傷的になった自身に気づいて、気を取り直すように先生を見れば、先生は目が落ちるんじゃないかというほど見開いていたが、やがて俺の言葉の意味を知ったのか、憤慨してきた。
「俺のプロポーズが霞んだッ! 一世一代の告白に何てことしてくれたんだ!!」
綿密に立てた計画が台無しだと叫んだ先生に、思わず吹いた。
もしかして、俺をずっと猫の姿にしてたのも、関係ある?
「気が散るから、ビジンの姿でいてもらったのに! プロポーズするまではって、願掛けて禁欲してたのに!! 俺の苦労が水の泡だぁぁぁっ」
頭を抱えて嘆く先生の言葉を聞いて、もうダメだった。笑いがこみ上がってきて、先生を抱き込んだまま大笑いしてしまう。
「笑い事じゃねぇっ!! この後、カカシ先生に新居案内する手筈だったんですよ! そこで二人っきりでいいムード作って、イチャツく予定だったんですからッ」
わー、先生ってば大胆っ。新居に連れ込んで、イチャツくって、……新居?






重要キーワードに耳が大きくなる。
何、その聞き捨てならない、トキメキ発言は!!
笑いを止めて、まじまじと見返せば、先生は拗ねた表情でベストの胸ポケットから何かを取り出した。そして、身を捩って、俺の鼻先に突きつけてくる。
「これ、カカシ先生の分です。キーホルダー買うのはカカシ先生の仕事ですからね。俺のと、カカシ先生の、二つちゃんと買ってください」
「ん」と、受け取れと催促する先生に従って、手の平を差し出せば、ぽとんと堅い感触が落ちてくる。
聞きたい事も、言いたい事もいっぱいあった。
あの勤務体制で探す時間がよくあったねとか、一体いつ探しに行ったのとか、お金はどうしたのとか、俺も呼んでくれれば良かったのに、一緒に間取りとか見たかったとか、嬉しさとか悔しさとかごちゃまぜになる。だけど、一番強い気持ちはやっぱり嬉しさで。
「先生…」
もらった鍵を強く握りしめる。
先生は、ちょっと気まずそうに視線を逸らしながら、気まずそうに口を開いた。
「その…。勝手に決めるのは行き過ぎとも思ったんですけど…。俺がどうにも我慢できなくて……。き、気に入らなかったら、変えるのもオッケーです! ひとまずは、ということで、仮の新居として、その!!」
俺を見つめる瞳は必死で、額に汗を掻きながら言い訳する姿は、微笑ましさしか感じなくて。
それでも、黙って先生を見ていれば、先生はうわーと乱暴に髪をかき混ぜて、きっと俺を睨んだ。






「つべこべ言わずに、あんたを感じさせろって言ってんですよ!! 俺はとにかく限界なんですッ」
男なら分かれよと、胸ぐら掴んできた先生に破顔した。
先生も、だったの?
けらけら再び笑いだした俺に、先生は「どうせ俺は未熟者ですよ! 何ですかッ、あんたいっつも一人で飄々として、俺だけ悶々しててバカみたいじゃないですかッ」と涙目で責めてくる。
飄々として見えたのは、単に性欲を押さえていただけなんど、手の内を明かすのはつまらないから黙っておく。
「あー、もう先生ってば、最高〜。喧嘩腰で口説いてきた人なんて、初めてだーよ」
「何ですか、それはモテ自慢ですか!!」
ヒートアップする先生を真正面から抱き込んだ。







先生の声を聞きながら、目の前の里を眺める。
俺の世界は、これからもどんどん大きく広がるだろう。
見知らぬ誰かと出会い、別れ、それでも広がることは止めることはない。
そして、その世界の中心には、俺と先生がいる。
世界が変わっても、ずっと変わらず、色褪せることなくそこに生き続ける。






きゃんきゃん吠える先生の背中を強く抱いて、温もりと匂いを思う存分感じる。
手の中にある確かな物は先生の気持ちであり、これから共に生きようという証でもあり、俺に強さを与えてくれる。







「ねぇ、先生。話があるんだ。ちょっと長くなるけど聞いてくれる?」
そっと切り出せば、今までわめいていたのが嘘のようにぴたりと止んだ。
あいも変わらず、俺の気持ちに敏感な先生に、敵わないなと思う。それこそ腹を曝け出して、全面降伏したい気分だ。
何だと、顔を上げて問うてきた先生に、俺は頷いて口を開いた。
俺の後悔だらけの過去を、バカな行いを、それでもイルカ先生と出会えて嬉しかったこと、一度諦めたけどやっぱり諦めきれなかったこと。
全部。
俺の歪だった世界を先生に伝えよう。






ねぇ、イルカ先生。
俺、思うんだ。
イルカ先生と出会えて、光が満ちた。世界は輝き、俺は生きる意味を知ったって。
イルカ先生の存在が、俺を生かしてくれた。
先生はきっと否定するだろうけど、それは俺にとって紛れもない真実なんだ。






俺の世界には当たり前のようにイルカ先生がいて、そして、きっとイルカ先生の世界にも俺はいる。






これからもずっと、君がいる世界に。
















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長い間、読んでいただき、ありがとうございました!!



君がいる世界 31(完)