「場所は分かりましたから、カカシ先生は帰ってください。まだ全快ではないんでしょう?」
「え? なんで? これこそ見返りじゃないんですか?」
「あんた、ほんっとしつこいですねぇっ! ってか、ついて来れるぐらいだったら俺の部屋から出てって下さい!」
「いや、ほらまだ全快じゃないから、俺」
「帰れっ!!」
木から木へと飛び移りながらの掛け合い。イルカとカカシはさらわれたという生徒の元へと向かっていた。
イルカの同僚から、生徒が何者かにさらわれたと聞いた瞬間に、イルカは同僚の静止の声も聞かず、飛び出していた。
そんなイルカの後をすぐさまカカシが追いかけたのだが、その際にカカシは忍犬を残し、同僚から事情を聞くように配慮したのだった。
案の定、イルカは飛び出したはいいがどこに行けばいいのか分からず、あてもなく飛び回るばかりだった。それから、追いついたカカシが残した忍犬からの伝令を聞き、ようやくさらわれた生徒がいるという場所を知り、今に至る。
「ほら、これで俺が生徒助けたら、イルカ先生の見返りになるよーね? だから、こんな時のために俺を看てくれたんだよーね? ね?」
「……どーしてそこまで見返りにこだわるんですか。カカシ先生は?」
「いや、こだわるとかじゃなくってこれ自然の摂理」
「あんたの自然は間違ってる」
ぴしゃりと否定され、腑に落ちないカカシは眉間に皺を寄せた。
これこそまさに見返りにふさわしい事柄ではないだろうか? だからこそ、こうして全快ではない身体を押してイルカに着いて来ているというのに。(全快ではないのは本当の事である)
相変わらず、イルカの事が分からぬままだ。
結局、今日という日まで一体、彼が何のために自分の世話をしてくれたのか。
邪険にしつつも、どうして自分に誠実に接してくれたのか。
カカシはそれを突き止めるために、ずっとイルカとの生活を続けていたのだった。
そして、今回のこの事件。
これこそ、まさに見返りにふさわしい事柄だと喜び勇んでいたというのに、肝心の本人があろうことか自分を無視して、一人飛び出してしまったという始末。
これには、さすがのカカシも焦った。今まで一度たりともこんな事はなかった。こういう事件や任務に関しては一番にカカシの所に頼ってくる物だったからだ。
だのに、イルカはそんな自分を無視したのだ。その上、帰れという信じられない言葉を放たれてしまう。
見返りが必要ないという人間など、この世にいるのだろうか? いや、いるはずがない。
いたとしても、絶対に何か理由があって、カカシをこれまで世話してきたはずだ。
その理由が判明するまで、イルカの側から離れるつもりなどないカカシだった。
「んー。見返りが必要ないってのは……やっぱりいまいち分かんないんだけど、それでも何かの理由があって俺の世話を看てくれたんだよーね?」
「…………」
「その理由を聞かせてくれたら、帰ってもいーよ?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……このあたりか?」
「ねぇ、無視!? 無視なの!? 俺の話聞こえてたよーね? ねぇ! イルカ先生っ!」
それまで、移動していたイルカはぴたりと足を止め、周囲の気配を探った。もちろん、カカシの事などお構いなしにだ。
ちょっと、本気で涙ぐんでしまうカカシ。
「邪魔だから、本気で帰ってくれませんか、カカシ先生?」
じとりと睨まれてしまう。
確かに今までも何度か冷たい事はあったが、ここまで拒絶の態度をとられた事はなかった。
一緒に暮らし始めてから、もしかしたらそこまで嫌われてはいないのかな? なんて思ったりもしたカカシだったが、それは幻想だったのかもしれない。それほどまでに、今のイルカは殺気だっていた。
「イルカ先生? そんなに生徒が大事?」
「当たり前でしょう? 何言ってるんですか?」
「俺よりも?」
「は?」
ぽろりと出てしまった言葉にカカシは驚いた。
もちろん、言われたイルカも口をぽかんと開け驚愕しているのだが、それ以上に口にしたカカシは自分が信じられなかった。
――――何を口走ったんだ自分は! いやいや、それはあり得ないでしょう。自分よりも大事って、何を考えているんだ。そんな事言われたら、俺だって「は?」ってなるよ。「は?」って! というか、何でそんな言葉が出てくるわけ?
ぐるぐると巡る思考を整理しようとするカカシだが、それはすぐに中断された。
「っ!」
自分とイルカ以外の気配と殺気を真下に感じ、口を開けたままこちらを凝視しているイルカに目で合図を送る。
イルカもすぐにカカシの意図に気づき、自分の気配を更に洗練させて周囲に同調させた。
カカシはすでに気配を周囲にとけ込ませ、真下の殺気の正体を見極める行動に移っていた。
どうやら敵は単独犯らしい。
周りに張り巡らせておいた極微量のチャクラに引っかかった者は奴以外はいない。
となると、話は至極簡単だ。さっさと相手を伸してやればいいだけの事。
研ぎすまされるカカシの周囲の空気。
張りつめられた静かな殺気。スッと姿勢を低くし、そこから一気に相手の背後につこうと――――。
「カカシ先生」
突如、ポンと軽く肩に置かれた手。
押さえきれない殺気が肩を置いた手の主――イルカ先生を問答無用で攻撃してしまう。
置かれた手がびくりと震える。さすがにこの状況で止められてしまっては、カカシも苛立ちを感じてしまう。
「ここまで来て、やめろとか訳分からない事を言いませんよね?」
そのまま殺気をイルカに向ける。
彼の事だ。自分が全快じゃない事を蒸し返して、無茶はしないで下さいとかどうとか言う気だったのだろう。冗談じゃない。
見下すような視線を送る。
「イルカ先生だって生徒を助けたいんでしょ? だったら黙ってここで待ってて下さい。俺がさっさと片づけてきますから」
肩に置かれた手を振り払う。
これで、何も言ってこないだろうと、カカシは再度標的に狙いをしぼる……はずだった。
ガシッと、今度は力任せに捕まれた自らの肩。
驚き振り向けば、そこには静かな瞳のイルカが居た。
「俺の生徒です。俺が行きます。いえ、行かせて下さい」
それだけ言うと、頭を下げるイルカ。
まさか、こういう行動をとられるとは全くもって予想しておらず、カカシは素直に驚くばかりだった。
これこそ、何の冗談か? と言いたかったが、頭をあげたイルカの瞳は真摯だった。
本気で彼が言っている……いや、本気でお願いしているのだと伝わる。
「もちろん、この場はカカシ先生にお任せするのが最善だと分かっています。けれど、お願いします。俺に行かせて下さい」
再度頭を下げるイルカ。
相手は単独犯であるし、ここはイルカに行かせても何の問題もない。ただ、相手がちょっとしたSランクの代物を持っているかもしれないとなれば別だ。
「はぁ……。イルカ先生。確かに相手は単独犯です。ですが、あれ」
「?」
カカシはくいっと顎で少しばかり移動した犯人を指した。
気配を殺し、イルカも首を伸ばし覗く。すると、相手の額宛の模様を目にした途端、息を飲んだ。
「そ。あいつ、俺が先生にお世話になる原因となったSランクの毒を持ってた奴らと同じ額宛してるんだよーね。意味分かるよね?」
カカシの言葉に、ぐっと唇を噛みしめるイルカ。
これで、状況も分かりあきらめてくれただろうと、今度こそカカシは戦闘態勢に移ろうとした。
「っ! それでも! それでも、お願いします! カカシ先生。ここは俺に行かせて下さい。馬鹿な事を言ってるのも自分では分かっています。けれど、俺が助けたいんです!」
なおも食い下がってきたイルカに、カカシは胃がむかついた。
何故、自分の身の危険を犯してまでやろうとするのかこの男は。
「あのねえ、イルカ先生。あんたが助けたがりなのは分かったーよ。でもね、生徒を助けた所で見返りは帰って来やしないんだーよ?」
「俺は見返りが欲しくて助けたい訳じゃない。カカシ先生は、何かをしたりされたりする事に見返りを求めてるみたいですが、俺はそうじゃない。そんなもののためにやっているんじゃないんです。でも……そうですね。あなたが言う見返りとやらをするなら、今この瞬間かもしれません」
「はい?」
「カカシ先生、見返りで俺に生徒を助けに行かせてください。いえ、もう行かせていただきます!」
「は? ちょっ!!」
そう宣言した途端、有無を言わさずイルカが目の前から姿を消した。
写輪眼のカカシともあろう自分が、まさか目の前にいた中忍の行動を見逃すとは。それも、とんでもない戯れ言を吐き捨てていったイルカのせいだ。
見返りに自分を行かせろとは何事だ。そんな見返りがあるか。却下だ、却下。認めない。
それよりも、そもそも見返りのためにやっているんじゃないという言葉。
では一体何のために? カカシは頭の中がミキサーになったように感じた。
後から後から沸いて出る疑問、否定、そして先ほどからずっとムカムカしている正体不明の気持ち。
すべてがごちゃ混ぜになりカカシの脳裏に渦巻いていた。
しかし、頭の中は無茶苦茶ではあっても、身体は無意識にイルカをすかさず追っていた。
眼前では、イルカが相手の背後に迫り、手に持ったクナイを喉元めがけて突き立てようとしている。だが、相手も素直に殺られてくれるほど甘くはない。
相手に差し迫った事で、押さえきれなくなったイルカの殺気に気づく。標的が生徒を盾にした状態で、ぐるりと振り向いた。
「っ!?」
一瞬の躊躇。
それが忍にとって命取りになる事は明白だ。
ニヤリと笑う単独犯。
ドンと生徒を押し、イルカは慌てて倒れる生徒を抱き止めた。それで両腕が完全にふさがってしまう。
多い被さる影。
ハッとして仰ぎ見れば、振りあげられた刃が瞳に映った。反射的に、身体を反転させ、生徒を庇う形をとったイルカはそのまま覚悟を決めた。
――――キィィィンッ!
響く金属音。
痛みを感じない己の身体に、おそるおそるイルカは閉じた眼を開き、後ろを振り返る。
「ったく、結局こうなるんだーね」
「カカシ先生!」
イルカに向けて降りおろされた刀をカカシがクナイで受け止めていた。
イルカの叫んだ名に、相手がビクリとする。
「カカシ!? 貴様! 写輪眼のカカシかっ!」
「そうだーよ。という訳で、殺られちゃってーね?」
「くっ! がっ!?」
受け止められた刀をはじき、後ろに距離をとろうと試みる相手にすかさず足をかけ、地面に転がすとクナイを首筋にピタリとつけるカカシ。
「本当は殺っちゃってもいいんだけど、あんたには色々と聞きたい事があるから里までついてきてもらうーよ」
「ふっ……俺が素直に従うと思うのか?」
「思わないーね。だから、しばらく眠っててもらうよ」
スッと手刀をつくり、相手の首筋めがけて降ろす。
「カカシ先生っ!」
イルカの声とシュッと風を切る音が同時だった。
カカシは軽く首を傾け、横切った物を避けていたのだが、その隙をつかれてしまい、組伏せていた犯人がすり抜けてしまう。
「ちっ!」
舌打ちするも、逃げられてしまったのは仕方がないと、カカシは再度捕らえるため動きを切り替えた。
「シシャモ! どうしたんだ!」
イルカの焦る声が背後からする。
犯人に注意を向けつつ振り返れば、イルカが生徒と刃を交じあわせていた。
「やっぱり、お前幻術も使うんだーね」
視線を犯人に戻せば、相手は口端を上げていた。
「ふっ。気づいたところで遅いわ! 写輪眼のカカシと言えど、生徒には手を出せまい」
「甘いね」
「なっ!?」
瞬時にして、カカシは犯人の視界から消え失せる。そして、イルカと攻防していた生徒の背後に現れると問答無用で秘孔をついた。
ガクリと意識を失った生徒の身体を受け止め、あっけにとられているイルカに生徒を渡す。
「じゃ、後かたづけしてきますね」
目尻を下げ、覆面の下からでも笑ったのが分かる表情で、カカシは、犯人の元へ戻ろうと体勢を低くする。
「くっそぉぉぉぉっ!」
突然の叫び声とともに、犯人が手裏剣を放つ。そんな狙いじゃ当たらないとばかりに、鼻で笑うカカシ。
軽く横のステップで避ける。
それを見て、相手がニヤリとした。
「っ!」
自分の真横を過ぎ去る手裏剣。
それが、くるくるとまるでスローモーションのようにゆっくりと回転しているように見えた。それは、カカシを狙ったのではなく――――。
「イルカッ!」
後から考えれば、どうしてそんな馬鹿な行動しかとれなかったのだろうかとカカシは思う。だが、このときは頭ではなく身体が勝手に動いたのだ。
横にステップした足が地面につくと同時に、身体全体をバネにして手を伸ばす。
飛び散る鮮血。
伸ばした手からほとばしる痛み。
自分の名を叫ぶイルカの声。
無傷な手から放ったクナイが犯人の喉元に突き刺さる。
痛みから広がるしびれ。
傾ぐ己の身体と相手の身体。
「あ、殺す予定じゃなかったのに」
その言葉とともに、カカシは身体を地面に横たえた。
「カカシ先生っ!」
霞む視界の中、横になった世界から足が近づいてくる。
この声はイルカ先生だ。声の調子から、どうやら彼は無傷だったらしい。
ほっとしたせいか急速に意識が遠のくカカシ。
そういえば、ちょっと前もこれと同じ光景を経験したなあ、なんて暢気に思ってしまう。
既視感。
あの時は、絶対に助けられたくない人に助けられるぐらいなら、死んだ方がいいかも……なんて考えながら、イチャイチャパラダイスという悔いがあったなぁと思い返す。
だが、今はどうだろうか?
イルカの無事な声を聞いた途端、先生が無事なら死んでも別にいいな……と本心で思った。実際、今のカカシは満たされた気持ちでいっぱいだった。
ただ一つ。悔いがあるとするならば、イルカがなぜ自分をずっと世話しつづけてくれたのか。その理由が知りたいだけだった。
それだけが心残りだーね、なんてうっすらと思い、重くなる瞼をカカシは閉じる。
そのまま、息を引き取るかのようにカカシは安らかな表情を――――。
「させるかぁぁぁ――――っ!!」
「ぬぐぉぁっ!?」
パァァン! と周囲に響きわたる音。
右頬の鋭すぎる痛みにカカシは堪らず声をあげ、覚醒する。
駆け寄ったイルカがカカシに馬乗りになり、振りあげた張り手を今度は左頬に向かっておもいっきり下ろす。
「なっ!? ちょっ――!?」
パァァァンッ!!
「ふぐぉぁっ!!」
鋭い痛みパート2が左頬走る。
右頬は痛みだけでなく、熱を持ち始めた。
慌てて見上げれば、振りあげた張り手がその右頬にターゲットを絞っているではないか。これにはさすがのカカシも慌てふためいた。
「ちょっ! イルカ先生!」
だが、カカシの制止の声もむなしく、超スピードをもって振り下ろされた手の平は、見事標的にクリティカルヒット!
パァァァァァァァァンッ!!
「ぎぃやああああ!!!!」
違う意味で意識が遠のきかけるカカシ。
だが、ここで意識を手放す事がどれだけ危険な事かを察知し、力を振り絞って腹から声をあげた。
「イルカ先生っ! 生きてます! 生きてますから!!」
ピタリと止まるイルカの手に、カカシがホッとしたのもつかの間。
「このっ! 大馬鹿野郎ぉぉぉぉ――――っ!」
ビュンッと最大神速で振り下ろされたイルカの手の平。
「ええええっ!? ちょっ!? なんでえええええぶるぁぁぁぁぁぁっ!!!?」
今までで一番盛大な音を奏でたカカシの頬は、それは見事に赤く腫れ上がったのだった。
それでようやくイルカの地獄の張り手攻撃は収まった。
ひりひりと悲鳴をあげて痛む頬に軽く涙を流しながら、カカシはイルカを見る。その表情にカカシはギョッとなった。
「え? な、なんでイルカ先生が泣いてんの? ってか、泣きたいの俺なんですけど?」
「こ…このっ! 馬鹿やろっ……」
「え? え? え?」
「なんで、あんな馬鹿な事やったんですか! あんたは! 一度ならず、二度までもっ! あんた仮にも上忍だろっ! もっと考えて行動しろよっ!」
ボロボロとこぼれる涙はイルカの頬を伝い、カカシの頬に落ちる。
初めてだ、とカカシはぼんやりと思った。人の泣き顔を見て、こんなにも胸が締め付けられるのは。
「イルカ先生? 泣かないでください。馬鹿な事やったってのは、一番自分がわかってますから」
「もっと悪いわっ! 馬鹿ですか! あんた本物の馬鹿ですかっ! そんな馬鹿だから、きっと自分の命の事も軽く見ちゃってるんでしょう?」
「あーうん。俺は本当に馬鹿なのかもしれないです。ってか、俺の命なんてどうだっていいんですよ。それより、お願いです、イルカ先生。泣かないでくださいよ。あんたに泣かれるとなんでかすっごい苦しいんですよね。なんでか分からないんですけど……」
「どうだっていいとか言うなっ!」
「ぶぁっ!?」
今度は、問答無用で拳で殴りつけられるカカシ。
「ひ、ひどひっ! いくら馬鹿だからってグーで殴る事はっ!」
「俺に泣いて欲しくないなら、もっと自分の命を大切にしろ! この馬鹿っ!」
「へ? え? な、な、なんで?」
グズッと垂れてくる鼻水をすするとイルカは、カカシの胸ぐらを掴み、引き上げた。
「あんた、しつこいぐらい俺に見返りって言ってたけどなぁっ! 俺は見返りのためにやったんじゃねぇ! ただ、あんたに死んで欲しくなかったからやったんだ! 最初はただそれだけだった。でも、今はあんたという人間が好きだから言ってんだ! 馬鹿野郎っ!!」
――――あんたという人間が好きだから。
――――俺という人間が好きだから。
――――好きだから。
最後の方はどうも自分的な解釈になっているかもしれないが、細かい事はいい。
好きという言葉。
カカシの頭の中で反芻されるイルカの言葉。
あれだけ望み、欲しかった答えがそれだった。たったそれだけの事だったのだ。
あっけにとられ、ポカンとするカカシ。
けれど、その言葉がじりじりと身体の奥底から得体の知れない大きな何かを引き連れてくる。
こんな気持ちは初めてだ。
全身に行き渡ろうとする気持ち。
最近、イルカを見ているとずっと得体の知れないむず痒い想いを抱いていたのだが、その正体もイルカが教えてくれた。
そう……コレは――――。
******
「イルカ先生ー。今晩は筑前煮でお願いするーね♪」
「あーはいはい。ってか、今度こそ仮退院の時点で出てって下さいね!」
生徒を無事に救出したカカシとイルカ。
生徒も気を失っただけで奇跡的に無傷で生還となった。もちろんイルカも無傷。
ただ、一人カカシだけは再度同じSランクの毒によって、またしても一命だけはとりとめるが重体という事態になってしまっていた。
もちろん、医療班からも怒られたのは言うまでもないが、今回は三代目からもきついお灸を据えられるハメとなってしまった。
それから、カカシは以前と同様。イルカのお世話になっているのだ。
ただし、前回と一つだけ違うのは、今回は病院のベッドが空いていたという事実。にもかかわらず、カカシが絶対にイルカの家じゃないと治療を受けないという、とんでもないわがままを言い出したせいで結局、イルカが折れたという形となったのだった。
「ったく。どうしてわざわざ俺のところに来るんですかねぇ! カカシ先生はっ!」
夕食を食べ終え、食器を片づけたイルカは相変わらず寝転がったままのタダ飯食いのカカシの愚痴を吐き捨てながら、彼の側に腰を下ろした。
「えー。それは、イルカ先生のご飯がこの世で一番おいしいからに決まってるじゃないですか」
「っ! ちょ、調子のいい事を言ったってだめですからね! 今回はちゃんと治ったら出てってもらいます!」
ほんのりと頬を紅く染めたイルカ。
料理の腕を誉められた事が嬉しいのは、まんざらでもないようだった。
照れ隠しのためか、ちゃぶ台の上に乗っているみかんの山に手を伸ばす。
「あ、俺にもみかんくださいね」
「あーはいはい」
そっけなく答えながらも、きちんと剥いて食べさせてくれるイルカ。
口の中いっぱいに広がる甘酸っぱさは、きっとみかんのせいだけではないだろうとカカシは思う。
そう……だって――――。
「あ、そうそう」
「ん? どうしたんですか? カカシ先生?」
もきゅもきゅとみかんを頬張りながら、幸せそうな顔をするイルカ。
ああ、そんな無防備な顔を簡単に見せないで欲しい。と、カカシは懇願する。
だって、俺は――――。
「俺、どうしようもなくアンタの事が好きで好きでたまらないみたいです」
ぽろり。と、手の中にあったみかんを丸ごと落とすイルカ先生。
その顔が見る見る内に赤く染まっていき、慌てて転がるみかんを追っていく。
その後ろ姿とキュートなお尻に、カカシは自分の中の狼が起きあがるのを感じたか、今はまだ大人しくしていてくれと押さえ込む。
時間は腐る程あるのだ。それに、さっきのイルカ先生の反応で充分脈はある。
「何、アホな事言ってるんですかっ! カカシ先生、いったいどうしちゃったんです――んぅっ!?!?!?」
戻ってきたイルカにすかさず、カカシは唇を奪い、にっこりと笑う。
「だから、今はコレで我慢してあげるーよ」
完です! くっつく前の二人も大好きぃぃぃvv
牡丹に感謝っす!! ありがとう〜!
こっち関連は初なのに、よくぞ書きあげてくれたッッ。
またカカイル書いてね〜vv