「好きです。結婚してください」
突然、見も知らぬ、どこからどう見ても男にしか見えない男に告白かつプロポーズをされた。しかも、ギャラリーだらけの受付所で。
視線を這わせて、男を見る。
どこか夢見るように熱っぽく自分を見つめる視線。
黒い髪に、黒い目。実直そうで、単純そうで、それでも自分が定めた志は突き通す、見るからに融通の効かなそうな、どちらかといえば苦手なタイプ。
顔は特に見目が悪いでもなく良くでもなく、記憶に残るのが難しそうだ。強いていうなら、鼻を真横に切る一文字の傷が特徴的。髪を高くくくっているのが、犬の尻尾みたいでまぁ愛嬌があると言えなくもない。
そんなどこにでもいそうな男。
普段ならば、侮蔑の眼差しを差し向け、鼻であしらってやるだけだが、ここは受付所。おまけに今日から上忍師になる身の上だ。愛想良く断らなければ、後々何かと面倒そうだ。
そんなことを脳裏で素早く算段し、オレはにこりと目を細めて言った。
「ごめ〜んね、ホモはムリ」
すると、どうだろう。
公衆の面前で振られる恥辱に耐え切れられず、逃げるとばかり思っていたのに、彼の人は絶望という二文字を顔に貼り付け、そのまま失神した。
ズダーンと成人男性がもろに床に叩きつけられる音に、凍っていた周りが騒がしくなる。
一文字男の隣にいた男が「しっかりしろ、イルカ」と肩をゆする。
そこで、あぁと合点する。
これが、狐子が慕う、イルカ先生というやつかと。オレに対しては、敬意もへったくれもない、あのうちはのガキもどこか一目置いているアカデミー教師なのかと。
殺伐とした、血と裏切りが充満した古巣から追い出され、日向の臭いがする真っ当な世界へ引き出された。自分の目に適う子供を育成するとはいえ、正直途方に暮れている自分がいたのは事実だ。
生ぬるい里での生活。そこに住む平和ボケした奴らとの接触。
かつては自分も住んでいたというのに、疎外感だけが際立った。
何もかも違う。これが自分と同じ忍びなのかと苛立ちが生まれるほどに、その忍びたちが暮らす里に馴染むことはないと思えた。それに加えて、写輪眼の名に惹かれた有象無象が、砂糖に群がる蟻さながら群がってくる有様に辟易した。
サンプル カカシ視点