色温度 6
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「何してるの?」
イルカ的、危険で厄介な路地裏を、こそこそ歩き回っていると、何故かよく声をかけられた。
始めこそ、濡れ場を出刃亀しにきた変態と間違えられ、喧嘩腰で来られたが、カカシの痕跡を探すため場所を変えていく内に、何故だかとっても気さくな方たちと遭遇することとなった。
挨拶は当たり前で、今イルカが何をしているのかを聞いてきたり、手伝いを申し出られたりなど、初対面のイルカに対して過剰なまでにお節介を焼いてくれようとする。
さすがに縁も所縁もない方々に面倒をかけることはできず、イルカの後についてきてまで親切心を働かせてくれる方々を忍びの技で撒いてきた。
今までは一般の人だったので、穏便に去ることができたが、この度はそうもいかないらしい。
イルカの進路方向に立つ男を見つめ、内心、困ったなとため息を吐いた。
「お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫ですから」
一応、口頭で断りの言葉を出してみるが、男は気さくな笑みを浮かべてイルカの間合いの内に滑り込んだ。
「遠慮することないじゃない。あなた、すごく困った顔してるし、おれに手伝えることがあるなら言って」
離れる暇もなく、至近距離で顔を近づけた男に、一瞬冷やりとしたものを感じる。
初見通り、男はイルカと同じ同業者のようだ。しかも身のこなし具合からして、イルカよりも上。もしかしたら上忍なのかもしれない。
受付を兼任するイルカの記憶に、目の前の男と合致する顔はないが、ここは歓楽街だ。一夜の享楽を求め、身分を隠し変装することは、自然なこと。
かくいうイルカも、場所が場所なだけに少し格好を変えている。
とはいっても、いつもは高く結っている髪を解いて、額宛を腕に巻き、ベストの前を開けただけだが、普段のイルカは真面目な堅物で通っているので、トレードマークのちょんまげを解いて服を着崩せば、印象が様変わりする。
さきほども受付の同僚とすれ違ったのだが、声を掛けられる事もなく、そのまま通り過ぎることができた。
改めて目の前の男を見る。男はイルカの視線を感じ取り、柔和な笑みを浮かべた。
全体的に線の細い、細目の黒髪の男。見た目はイルカと同い年くらいだろうか。だが、上忍ともなると肌の質感からチャクラまで変えてくるため、判別は不可能に近い。
男を見つめながら、イルカはどうしようかと考える。
歓楽街に足を踏み入れて、小一時間は経つというのに、全くカカシの手がかりは見つからなかった。上忍ならば、イルカの知らない何かしらの情報を持っているかもしれない。だったらここはこの人を頼ってみるのも手だ。
「あの、人を探しているんですが…」
向こうから声を掛けてくれたとはいえ、見知らぬ格上の相手に、お願い事をすることも気が引け、ぼやかして聞いてみる。
すると男は細い目を線にして屈託なく笑った。おお、好感触だ。
「探しているのは、もしかして。仕事がよく出来て、普段は顔を隠してるけど、脱いだら顔も体もいい男?」
軽やかに笑いながら言った言葉に、目が見開く。一言もカカシのことは言っていないのに、どうして分かったのだろうか。
「なんで、分かるんですか?!」
上忍は読心術でもマスターしているのかと驚けば、男は気さくな態度でイルカの肩に手を回してきた。
「だいたい分かるもんだよ。それより、あなたみたいな人がここに来るなんて驚いた。ねぇ、受付係のうみのイルカさん」
耳元で小さく名前を呼ばれ、愕然とする。
目的ばかりか本名まで言い当てられ、イルカは驚く一方だ。こんな変装では、上忍の目を誤魔化しきれなかったか。
同僚にはバレなかったんだけどなぁと肩を落としていれば、男は励ますように口を開いた。
「そんなに落ち込まないでよ。おれが気付いたのは、あなたと話をしたからだよ。二言三言じゃ、あなただって全然気付かなかった。そうやって髪下ろしてると別人に見える」
イルカが髪を下ろしていることが物珍しいのか、肩にかかる髪の毛先を指に絡めて遊ばれた。時折、首に指先が触れるのがこそばゆく、体を竦めて笑ってしまう。
「すいません、くすぐったいです。えっと、急で申し訳ありませんが、その人のことを教えていただけませんか?」
男の指先から逃げて見詰めれば、男は快く頷いてくれた。
「急ぐんだ。いいよ。おれもそっちの方が助かる。ついておいで」
歩き出す男の後ろについて、イルカはスキップしたい気分だった。まさかこうも快く、イルカのお願いに手を貸してくれる上忍がいるとは。
中忍として、上忍はとかく恐ろしい存在として認識されているが、今日の一件で改めざるを得ない。
最近は人に冷たい世の中になったと嘆かれるが、今日は善意の目白押しだった。世の中捨てたもんじゃないなぁ。
前回訪れた時との雲泥の差に、思わず涙ぐむ。
そうこうしている間に、男は雑居ビルが立ち並ぶ、コンクリート造りの建物の前で止まった。
「はい、入って」
わざわざドアを開いて、イルカを先に入れてくれる男に一礼する。「お邪魔します」と足を踏み入れれば、暗がりの中、事務所の態を為した内装に出迎えられた。
「ここ、おれの隠れ家の一つ。適当に座ってて」
パチンと背後で音が鳴ると同時に、電球が一、二度瞬いて、部屋を照らし出す。
広い一室を衝立で間仕切りして部屋を作っている。イルカが通された部屋は観葉植物や、絵が飾られ、応接間のような雰囲気を感じた。
ひとまず来客用のためであろう長ソファに座り、男を待つ。
「イルカさん、コーヒーはブラックでいい?」
出し抜けに声を掛けられ、驚いて立ち上がる。声がした方を見れば、衝立の向こうで男がコーヒーメーカーを動かしていた。
こぽこぽという音と共に、ふくよかなコーヒーの匂いが部屋中に漂う。
「あ、お、俺がしますよ!」
上忍にコーヒーを淹れさせる訳にはいかないと向かおうとして、やんわり断られた。
「いいから、座ってて。夜は長いんだし、ちょっとだけ話しよう。で、ブラックでいいよね? ほら、座った座った」
「す、すいません。ありがとうございます」
男に追い返され、しおしおとソファに座れば、ぷっと笑われた。
どうしたんだろうと視線を向ければ、男はくすくすと笑いながらイルカを見つめている。
「もしかして、緊張してる? ひょっとすると、こういうの初めて?」
男の言葉にひたすら恐縮してしまう。格上の相手にお茶を淹れてもらうなんて今までなかった。
「え、それは、その、初めて、です。す、すいません。俺なんかのために、その……」
言葉が見つからずに、頭を掻いていれば、男は声を弾ませた。
「そっかぁ。初めてか。うん、いつもなら面倒だって思うけど、イルカさんならいいよ。大丈夫、初めてでも優しくしてあげるし、おれ、いい物持ってるから」
「そうだ。もうコーヒーに入れとくね。話している内にたぶん良い具合になるはずだから」と付け加えられ、イルカは曖昧に頷いた。
良い具合になるとは、一体どういい具合になるのだろうか。
コーヒーの淹れ方に、上忍の作法というものがあるのかなと、考えつつ、コーヒーを持ってきてくれた男に礼を言う。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。どうぞ、遠慮しないで飲んで」
湯気の立つ熱いカップを受け取り、「いただきます」と言って一口含んだ。途端に香る、インスタントでは到底出すことの出来ない、コーヒー豆の芳醇な香りと切れ味鋭い酸味に体が震えた。
「お、おいしいっっ! 何ですか、これッッ」
なんじゃこりゃぁとカップの中でたゆたう黒い液体を凝視する。香りが申し訳程度の、味の薄いコーヒーが常だったためか、舌が感激で打ち震えている。
「あ、分かる? おれ、ちょっとコーヒーにはうるさくて、特注の豆を自分でブレンドしてんだ。本当だったら、ドリップで淹れたかったし、混ぜ物はなしにしたかったんだけどね」
「イルカさん、急いでいたし」と微笑まれ、イルカはなんてええ人やと男を見つめた。格下のイルカの都合を優先させてくれるとは、上忍とは実はとんでもなく心の広い人たちの集団なのかもしれない。
うまいコーヒーと優しい上忍に出会えたことをひたすら感謝していれば、男はコーヒーを一気に飲むと、おもむろに立ち上がった。
「それじゃ、準備してくるから、イルカさんはそこで待ってて。たぶん、直に効いてくるよ」
もしやカカシをここに連れてきてくれるのかと、イルカは感激のあまり失神するかと思った。去ろうとする男を引きとめ、勢いよく立ち上がる。
「あ、あの、本当にありがとうございます! 俺、どれだけ感謝すればいいか……。このお礼は必ずしますッ」
振り返った男に真直角に腰を折る。
軽く息を飲む声に顔を上げれば、額に柔らかい感触を受けた。
「…どうしよう。ちょっと嵌りそうで恐いや」
いつの間に距離を縮めたのか、目と鼻の先にいる男の距離の近さに体が固まる。硬直するイルカの頬に唇を寄せ、男は嫣然と微笑んだ。
「お互い、楽しい夜にしようね」
去り際にするりと首を撫でられ、ぞぞっと背中に震えが走る。
茫然と男を見ていると、奥に引っ込む寸前、男は振り返り、固まっているイルカに向けて、片方の目を閉じ去っていった。
男の姿が消えた途端、へなへなと体がソファに落ち込む。
男はイルカに何かを伝えたかったようだが、何を言いたいのか理解できなかった。
一連の出来事に、バクバクと心臓が暴れている。
さきほどのあれは一体何だったのか。男はイルカの額と頬に唇を押し付けたような気がする。それに、あの男は、やけに体を触ってくるような……。
まさか、あの人は、そういう目で?
そこまで考えて、イルカはははははーと笑う。いやいや考え過ぎだ。どうしてあの人が俺なんかに? 俺はもさい男だぞ。
きっと外回りの任務が長くて、そういう習慣が日常茶飯事のところにいたのだと己を納得させ、イルカはおいしいコーヒーを心置きなく味わう。
こんなうまいコーヒーはもう二度と飲めないかもしれない。これをドリップで淹れたら、この倍、いやいや千倍うまかっただろうなぁと夢想する。
ゆっくりと味わいつつ、最後の一口を飲もうとしたところで、体が固まった。
あれ? おかしい。動悸が治まらない。そればかりか、どんどん早くなっている。そして、明らかに異変を起こしている部分に気が付いた。
一口分残ったコーヒーから目を離し、体の中心に近い場所へ視線を向ける。机で隠れるそこから、少し体を離して確認。
………うん。
カーテンが閉められている窓際に視線を向け、その下に置いてある観葉植物の青々とした葉の色に目を和ませ、そしてもう一度、体を離して机の下を見た。
…………………………あっれー。
手に持つコップを机に置き、代わりに頭を抱えた。
なんでだ。どうしてだ。俺は今一体何を見た何を感じたどこにそういう要素があったもしかしてアレか巷で流行の無機物萌えかいやそんなまさか俺なんかに高度過ぎてお空の天辺まで上り詰めてとうとう孤高な雲の上の仙人しか持ち得ない特殊千里眼とやらを体得できるはずもなくまさかアパート消失跡にあったあのでろでろに溶けた秘蔵エロビデオ『おにゃんとレオタード』の幻影を見てしまったが故の日照り続きの欲求不満子どもと姑に囲まれて一人になる時間がなかったからその目がない場所にきての発動疲れマラ現象でもそれならそれでどうして今ここでこんな見知らぬ相手の超絶いい人な格上の隠れ家の一室で俺は一人悶々と頭を抱えてい――
「イルカさん」
気配もなく後ろから声を掛けられ、驚きのあまり体が跳ね上がる。
これは違うんですと半泣きで振り返って、イルカは声を失くした。
イルカの背後には、白いプロテクターと、白い面を着けた、暗い方面の方が立っていた。
これは何かの幻影かと一瞬呆けるイルカの目に、剥き出しになった右腕に、火影の手でしか描けない刺青が飛び込んできた。
ほんまもんの暗部だ。
「ふぅおあおあおあおあおあおおおおお――っ」
立ち上がろうとして、己の張り出した股間に気付き、机に張り付き体を縮込めた。恐怖と焦りと羞恥心で、体は汗でびっしょりだ。
よもや気さくな上忍が、暗部だと誰が思おうか。そんな暗部な方の隠れ家でおっ立てている自分に眩暈を感じる。バレたら殺される。間違いなくイルカの身はここでジ・エンドだ。
逃げることもできずに、ただひたすらに身を縮込ませていれば、男はくすりと笑った。
「イルカさん。どーしておれを見てくれないの? 明るいと、恥ずかしい?」
「え、や、明るいとかそうじゃなくて!!」
本気で泣きそうだ。
虎の面をつけた暗部な男は、空気の揺れさえ感じさせずにイルカの肩に手を置き、腕に向かって手の平を這わせた。
「っっぁ」
途端に走る痺れにも似た快感に、小さく声が漏れ出てしまう。まずいと股間を押さえていた手の片方で口を塞ぎ、イルカは恐怖に近い瞳で後ろの虎面を見つめる。
「ふふ、涙目でかーわい。おれの姿、よっぽど気に入ってくれたみたいだね。目も頬も、項まで真っ赤にさせちゃって、本当、おいしそう」
上から見下ろし、悪戯に指を這わせる虎面にイルカはパニックに陥っていた。
どうしてこんなことになったのか、全く理解できない。それにどうしてこの人はイルカをかわいいだの、おいしそうだの言っているのだ。これは夢か、夢なのか。
虎面が触るたびに、押さえた股間のものがびくびくと震える。その度に、歯を食いしばって我慢しているのだが、いつまでも持つか見当がつかない。
まずい。視界がちらついてきた。呼吸をしているはずなのに、息苦しくて仕方ない。
「苦しい? なら、手を退けて」
体中から力が抜ける。虎面に手を取られ、息と一緒に声が零れ出た。
「はっ、あ」
何だこれと思う。虎面に手首を取られただけで零れ出た、己の声とも思えぬ高い声に耳を疑った。
「な、んで、…れ」
何かの冗談だろうと叫ぼうとして、舌が回らないことに気付く。まるで悪い酒にでも酔っ払ったような気分だった。
嫌な予感しか覚えない中、虎面は全く変わらぬ調子で笑う。
「大丈夫、恐くないよ。暗部で使う媚薬をほんの少し混ぜただけだから。とびっきりの夢を見せてあげるよ」
ソファ越しに後ろから抱きしめられ、耳たぶを噛まれた。
イルカは絶叫したかった。どうしてこんな状況に陥ったのか分からない。もしかしなくてもこの状況は……。
掘られる?!
ぞっと血の気が引く感覚に襲われるが、それも一瞬のことですぐさま血は体を巡り、逆に熱くさせた。
「いい匂い。お日様の匂いだ」
すーはーと耳裏に鼻を突っ込まれ、男の声がダイレクトに耳へ響く。だが、それだけではない体の疼きを覚えて、イルカは絶望した。
媚薬。暗部の媚薬のせいか。
回らない頭で弾き出した答えに、胸の内で絶叫した。
勘弁して勘弁して勘弁して勘弁してくださーい! これはあれです、何かの間違いです。俺はカカシ先生を探しにきたんです。まかり間違っても男とほにゃにゃらするために、ここにやってきたわけではないんですっていうか、聞いて下さいってんだよ、この野郎! 俺はホモでもなけりゃ、暗部の服見て喜ぶような変態でもなくて女性の暗部なら吝かでもないけどあんたは男で一物持ってる野郎で、とにかく止めろ、止めて、お願いだからッ。
唯一自由が利く眼に力を込めて虎面を見ていると、それに気付いた虎面はなるほどと頷いた。
「あ、もしかして顔を見せてくれないと本気になれないタイプ? イルカさん、そういうところは潔癖っぽいもんね。うーん、どうしようかな。一応こういう立場だから、身分隠さないといけないんだけど。……イルカさん、おれと秘密共有してくれる? おれの物になってくれる?」
と、何を勘違いしたのか、とんでもないことを言い出してきた。必死に首を振ろうとするが、頑として体が言うことを利いてくれない。
嫌です、いいです。見たくないですと、半泣きで訴えれば、虎面は「イルカさん、情熱的。そんなにおれのこと気に入ってくれたんだ」と不可解発言をかましてきた。
長い指が虎面の面にかかる。うっそだろ、おい、冗談だろ。
「おれの素顔見たら、イルカさんはおれのものだからね。おれ、こう見えても嫉妬深いから、余所見したら殺すね」
変わらぬ口調で断言する虎面に本気を感じて、いっそこのまま卒倒してしまいたかった。だが、このまま気を失ったら、間違いなくイルカの貞操は奪われるばかりか、嫉妬深い暗部な彼氏が出来る訳で。
「久しぶりの恋人だ。イルカさんはどのくらい持つかなぁ。前の恋人は一日も持たなかったんだよね。おれが恐いって言ってさ」
物騒な言葉を吐きつつ、男の手がゆっくりと面を外していく。
煌々とした明かりの中、黒い短髪が見え、額が現れ、細い眉が見え、耐え切れず目を閉じた瞬間。
「ストーップ。これ、オレが先に拾ったんだから、手、出さないでーよね」
と、聞き覚えのある声が降ってきた。それと同時に離れた場所からワンワンと犬の声が聞こえてくる。
あの声は、ウーヘイか?
おそるおそる目を開く。落ちるはずだった面をしかと持ち、虎面の顔に押し付け、睥睨している覆面の男こそ、イルカが探し続けていた男だった。
カカシ先生!
感極まってぼろぼろと涙が零れ落ちる。
救われた。俺は救われた、掘られることはなくなったんだと、むせび泣いていれば、虎面の男が不機嫌な声を出した。
「そりゃないですよ、先輩っ。あとちょっとで恋人できるところだったのに。もうちょっと遅く…はいはい、すいません。口答えしません。分かってます」
着けろと仮面を押し付けられ、しぶしぶ頭の後ろに紐を結び始めた虎面にほっと息をつく。これで、暗部な男の恋人を持つ可能性もなくなった。
安心したのが悪かったのか、前にも増して体が熱くなってきた。目の前がぼやける。鼓動が早すぎて、息をするのも苦しくなってきた。
「カ、シ、んせ」
もたつく舌を動かし、カカシを呼ぶ。カカシは虎面よりもかなり不機嫌になっていたが、イルカの呼びかけに応えてくれた。
「なに?」と近づけてくれた耳に、最後の力を振り絞って言葉を紡いだ。
「……『おうみ、やの、きょ、にゅうで、目の大きい、おんなの子でおねがい、します』って、はぁ?」
不審な目を向けるカカシに、渾身の笑みを浮かべる。通じた。これでイルカは真に救われた。
あとはお任せ、ベルトコンベアーだ。マグロなイルカをきっと彼女は優しく手ほどきをしてくれるだろう。男として滑稽なことこの上ないが、未知なる媚薬に犯されているのだ。きっと同情してくれるはずだ。
カカシには本当に申し訳ないが、イルカの廓代を肩代わりしてもらおう。
不甲斐ない親候補で、ごめんな。
今では二重に見えるカカシ向かって、心の中で謝罪する。
そうこうしている間に、耳も遠くなってきた。だんだんとカカシが遠くにフェードアウトするのを眺めながら、イルカは意識を失った。
その直前、カカシの怒りの咆哮が聞こえた気がしたが、イルカの聞き間違いに違いない。なぜなら、カカシはこう言ったのだから。
「あんたがその気なら、体に思い知らせてやーるからねッ」
って、まさか、な。
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鈍いが故の事件発生。カカシ先生の苦労が忍ばれます。