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 居間のカーペットの上に座り、イルカの帰りを今か今かと待つ。
思い思いの場所で腹を曝け出している忍犬たちも、カカシと同様にイルカの帰りを待ち侘びているのだろう。玄関から聞こえてくる物音に時折耳を立たせては、違うと分かると耳を寝かせている。
忍犬たちの様子を横目で見ながら、カカシは正座をして息を整えた。
 今日からカカシは変わる。イルカに子供扱いされないためにも、自立ある一人の男として見てもらうためにも、カカシは変わってみせる。
 カッチカッチと秒針が時を刻む。まんじりとせず、その音を聞いていれば、時計の長針がカチリと鳴った瞬間、玄関の戸が開いた。
「ただいま帰りました」
 わっと、忍犬たちが玄関先に殺到する。一緒に駆けつけたい気持ちを押し殺し、大人の貫禄というものを見せねばならぬとゆっくり玄関へ歩みを進めた。
 玄関先では、忍犬たちがイルカに向かってジャンプを繰り返してはその顔を舐めたり、イルカの体に足をかけては顔を舐めたり、靴を脱ぐために腰を下ろしたイルカの顔を舐めたり、とにかく顔を舐めていた。


「……お、かえり」
 初めて知った忍犬たちのイルカの出迎え方に、こめかみを引きつらせつつも、カカシは何とか笑みを浮かべた。
 忍犬たちには後ほどたっぷり説教してやろうと心に決めていれば、イルカは驚いた顔でカカシを見上げた。
「た、ただいまです。珍しいですね。カカシ先生が出迎えてくれるなんて」
 鼻傷を掻きながら、イルカがはにかむ。鼻傷を掻く仕草は、イルカが照れた時に見せる癖だ。
 イルカがカカシに反応してくれたことを、ひどく嬉しく思う。それと同時に、構ってくれないと拗ねていた、過去の自分が馬鹿に思えた。
「……うん。まぁね」
 何と言っていいか分からず濁せば、イルカは鼻傷を掻きながら、視線を彷徨わせた。カカシもそれ以上言葉が思い浮かばずに、頭を掻く。
お互い意識している空気が照れ臭くもあり、くすぐったい。このままでいたいような、この空気を吹き飛ばしたいような、不思議な感覚だった。
「えっと…あ、今日は何か食べたい料理とかありますか? 魚はないんですけど、茄子は買い置きしたものがありますよ」
 そうだと顔を上げ、尋ねてきたイルカの言葉に、カカシは唇を引き結ぶ。イルカの関心はちっともカカシに向いていないと思っていた。だが、それは違う。


「――ねぇ、イルカ先生。オレの好物、いつから知ってたの?」
 歩き出したイルカの後を、忍犬たちと共に追いかけ尋ねる。
 洗面台に寄り、顔と手を洗ったイルカは、不思議そうな顔をカカシに見せた。
「この家に来てからですよ。パックンさんに、聞いたんですけど、どうかしました?」
 首を傾げるイルカに、何でもないとカカシは笑う。
今までイルカが作ってくれた料理は、週に三度の割合で魚が出ていた。そして、茄子を使った料理が必ず一品はあったことに、今更ながら気付いた。
カカシは肉よりも魚が好きで、茄子も大好物だ。
「……ごめんね」
 イルカには聞こえないほどの小さな声で、謝る。
イルカはきちんとカカシのことを考えてくれていた。カカシはそれに気付くことが出来なくて、一人で暴走し、イルカを傷付けてしまった。


 あの日、料亭の宿で、媚薬に侵されたイルカを抱いた。
 今までの鬱憤を晴らすようにイルカの体に全てぶつけ、意識を取り戻したイルカを泣かせてしまった。
 家を出ると言い、カカシの手を跳ね付けたイルカに、カカシは嘘をついた。
 せいぜい一夜苦しむ程度の媚薬を、特別製だと偽り、七日間体を重ねて解毒しなくてはいけないと、相手役には媚薬と対処法の知識を有した者を選ばなければ狂い死にしてしまうと、イルカに告げた。
 庇護すべき子供としてカカシを見ていたイルカは、始めカカシを頼ろうとはしなかった。それでも必死に説得すれば、最後には頷いてくれたが、カカシとイルカの距離の遠さに静かに凹んだ。
 イルカを惚れさせる以前の問題なのだと、そのときになってようやく知った。
 けれど、それは、無理のないことなのかもしれない。
 今まで、カカシはイルカに対して何度も嘘をついた。自分の都合の悪いことを隠し、事実をねじ曲げ、カカシが言っていることこそが真実だと思い込ませた。
 そして、外堀を埋めるように、気付いた時には逃れられないように包囲網を狭め、イルカを閉じ込めようとしている。
 絶対に逃がしたくないから。次はないと、知っているから。
 このまま堕ちるようにカカシへ依存することを、カカシは願って止まない。
 真正面から気持ちを伝える度胸もなく、イルカが去る恐怖に怯え、姑息な手段ばかりを使って、イルカの気を引こうとしている。
 そんな卑怯者を、イルカは同じ目線で見てくれるだろうか。


「? どうしたんですか?」
 イルカが振り返る。疾しいことを考えていたせいで、足が止まっていたようだ。
「…ううん、何でもない」
 止まったイルカと肩を並べて、歩き出す。忍犬たちは遠慮というものを覚えたのか、カカシとイルカの間に割り込むようなことはせず、尻尾を振って周りを取り囲んでいた。
 横に並ぶと、イルカの視線はカカシより少し高い。いずれ届く距離とはいえ、今、同じ目線でないことが悔しい。同じ高さで物が見えていたら、今とは違った物の見方もできたかもしれない。
 だけどと、カカシは思う。
カカシは変わると決めたのだ。
 今はてんでガキ臭くて、嘘を撤回する勇気もない弱虫野郎だが、少しでもイルカの目線に近付けるよう、大人だと認めてもらえるように、カカシは行動しようと決めた。
 努力は惜しまない。
 カカシにできることは、思いつくことは、全てやってみよう。
「ねぇ、イルカ先生。今から洗濯物取り込むんでショ?」
「あ。いけね、危うく忘れるところだった」
 踵を返して玄関に戻ろうとするイルカを引き留め、カカシは言う。
「オレが取り込むからさ。後で、畳み方を教えてくれる?」
 カカシの一言に、イルカの目が見開き、周囲の忍犬たちは息を飲む。「な、何を言うとるのじゃ、カカシ?! 気は確かか」と、パックンは声を震わせた。
「うん、正気。オレもやってみたい」
 始めは、小さくていい。欲張って大きく踏み出せば、またイルカを泣かせてしまいそうだから、小さな一歩を踏み出す。
 どうなのと、カカシがイルカに視線を向ければ、イルカは驚愕に固まらせた顔を徐々にほころばせ、カカシの大好きな笑顔で頷いてくれた。
「もちろん、いいですよ」
 カカシがありがとうと言う前に、異論を唱えてきたのは、育ての親のパックンだった。
「ならーんッ。何を言うとるのじゃっ。カカシははたけ家の当主じゃぞっ。そんな下働きをさせる訳には…。な、なんじゃカカシ! こら、離さんかっ」
 イルカに食ってかかるパックンを胸に抱き、カカシは含み笑いを漏らす。
「オレがしたいって言うからいーいの。イルカ先生に当たるのはお門違いだーよ。鬼姑〜」
「何をぅ?!」
「ブッ」
 茶化して言えば、パックンは憤り、イルカは吹き出した。
「なんじゃ小童! 拙者を愚弄するつもりかッ」
「い、いえ、そういう訳じゃ、ないんですけど、ぷっ」
 ツボに入ったようで、イルカは腹を抱えてわなわなと震えている。
「鬼姑?」「うぉん?」「鬼姑」「鬼姑だ」「誰が鬼姑じゃっ」「パックンが」「わふん」「ばう」と、忍犬たちがはしゃぎだし、否定するパックンと会話が繰り返される。
その会話を聞き、けたけたと笑いだしたイルカを見て、カカシはほっと息を吐く。
 自分の疾しさが十分分かっているから、イルカの笑顔がたくさん見たい。
 これからもイルカに対して、嘘をつかない自信はない。だからせめて、イルカが笑ってくれるようなことをしてあげたいと、カカシは思った。
 イルカに洗濯物を畳む手順を教わり、カカシが洗濯物を畳んでいる間に、イルカは料理を作り、こまごまとした家事をこなした。
 皆で一緒に食事を食べ、食器を洗うのを手伝って、交代で風呂に入り、忍犬たちと別れ二人で寝室に入った時、イルカは嬉しそうにカカシに告げた。


「今日はカカシ先生が手伝ってくれたおかげで、楽、出来ました。ありがとうございます」
 にかっと笑って寝台に上るイルカの言葉に、イルカが買って欲しいと頼み込んだ目覚まし時計を見やれば、いつもよりも一時間早く寝床に上がり込むことができていることに気がついた。
 続いてイルカに視線を向ければ、いつもは寝台に入るなり眠り込んでいたイルカは起きており、余力のある顔で布団に潜り込んでいる。
 なるほどと、カカシは己の為すべきことを悟った。そして、今にもおやすみなさいと言い出しそうなイルカの手を掴み、にっこり笑って釘を刺した。
「イルカ先生。忘れてる訳じゃないよーね? 媚薬の解毒、早速しましょうか?」
 嘘をついたのならば、最後まで貫き通す。
それに、カカシは性欲旺盛な十代なのだ。好きな人が隣にいて、しかも堂々と抱けるこの機会を、みすみす逃すつもりはない。
布団を剥いで床に落とせば、びくっと体を震わせ、イルカは乾いた笑みをカカシに向けた。


「えっと、その、あの」
「イルカ先生、治療だよ? 先生の体のためだってこと、忘れないでよ?」
 恩着せがましく言えば、イルカは情けない顔を晒す。駄目押しで、逃がさないよと微笑めば、イルカは顔を引きつらせた。
「だ、だって、俺、今何ともないですし、このままでも大――」
 言葉半ばでイルカの唇を奪い、濃厚な口付けを施した。
 驚いたのか、勢いよく殴りかかってきた手を掴み、そのまま寝台に押さえつける。舌を差し入れ、口内を丹念に擽り、舌を絡ませた。
 熱心に舌を這わせていると、抵抗が弱まると同時に、イルカの表情がぼんやりしてきた。
徐々に閉じていく瞼を可愛いと思いつつ、上顎を擽れば、睫毛がぴくぴくと震える。
戸惑うように触れてきた舌を自分の口内に招き入れれば、イルカの肉厚な舌がおっかなびっくり触れてくる。乗ってきたイルカにほっとしながら、競うように口付けを交わした。
「ん、ぅ」
 苦しそうに小さく鼻で鳴いたのを機に、口付けを解く。どちらともしれない唾液の糸が引き、切れた。
 荒い呼吸を繰り返す、赤く染まった頬を撫でれば、イルカは瞳を開け、視線をさ迷わせた。


「お、俺…。やっぱり、媚薬が抜けて、ない、みたいです…」
 もじもじと太ももを擦り合わせるイルカに、よっしと心の中で拳を振り上げた。
口付けだけでその気にさせた己の腕を褒め称えると共に、あまりそちらの経験が豊かでないイルカの生き方に感謝した。
「だから、言ったでショ。オレに全部任せてくれていいから。イルカ先生は、素直に感じていて」
「で、でも!」
 早速、寝巻のボタンを外していれば、イルカが慌ててカカシの手を押さえる。
 快楽への期待で瞳は潤んでいるのに、その奥には理性の光が強情なまでに佇んでいた。
 胸元を押さえ、真っ赤な顔で眉根を寄せるイルカに煽られる。寝巻を引き千切りたい欲望に駆られながらも、傷つけたくない一心でカカシはお願いをしてみた。
「…先生。手、退けてくれない?」
 怖がらせないように笑みを浮かべてみたが、イルカは首を縦に振らなかった。それどころか、カカシを睨むように見つめ続けている。
 やっぱり嫌だと跳ね付けられたらどうしよう。
 沸き上がってくる悪い予感を否定しながらも、イルカの次の反応を待っていれば、イルカは不意に視線を外した。


「――自分で、脱ぎます」
 目元を染め、恥ずかしさを隠すためか、拗ねるように言った言葉に、くらりと眩暈を覚えた。
 背筋に震えが起こり、かーっと頭が茹だる。
 イルカは今、自らの意志を持ってカカシに身を預けようとしている。媚薬の解毒のためと分かっているが、無理矢理に犯したあのときとは状況が全く違うことに、カカシはどうしようもなく興奮した。
「駄目。オレが脱がす」
「そ、そうですよ。俺、男ですし自分で――。へ?」
 聞き返したイルカの手を跳ねのけ、寝巻を掴むなり左右に開いた。ぶちぶちと音がして、外していなかったボタンがどこかへ弾け飛んだ。
 呆気にとられた顔をしたイルカの下、暗闇の中、小麦色をした肌が艶やかな光を放って現れる。
味わおうと顔を近付けた瞬間、脳天に衝撃が走った。


「ッッた!」
 上からの衝撃で、広い胸に鼻がぶつかる。ぐわんぐわん響く頭と鼻を押さえ、視線を上げれば、耳まで真っ赤にし口を引き結んだイルカの顔があった。
「ば、馬鹿じゃないですか! 何てことしてくれるんですかッ。おかげで、ボタンつけなくちゃいけなくなったじゃないですかッッ」
 ボタン探索に起き上がろうとするイルカに、そうはさせるかと腰の上に乗りあげる。
「っ、ちょっと、カカシ先生!」
 途端に非難の声が上がったが、無視する。それに、カカシはイルカの変化を見逃していない。
 曝け出した喉から胸元にかけて、人差し指を這わす。ひっと小さく息を飲んだイルカの顔を至近距離で見つめながら、早鐘のように鼓動を打つ心臓の上に手の平を押し当てた。
「…すっごい早いーね。もしかして、興奮した?」
 密着させた下半身に、故意に自分のものをぶつけてやれば、芯を持ったイルカのものはより一層硬くなる。
「、ち、違いますッ」
 視線を逸らし、ぶっきらぼうに否定するイルカは、本当に嘘が下手だと思う。
 素直じゃないと笑いながら、手の平に触れる微かなしこりを指先で弄った。文句を言われる前に、空いている方にも指を這わせ、くにくにと独特な感触を楽しむ。
「っ、いた! カカシ先生、痛いですってっ」
 初めて抱いた時、いたく乳首で感じ入ってくれたが、通常時でも敏感なところらしい。
カカシの肩を押して抵抗してきたイルカに、それならばと顔を近付けて、胸の頂きに舌を這わせた。
「ちょ、ちょっとカカシ先生?!」
 素っ頓狂な声を上げ、髪を引っ張ったり、肩を叩いたりしてきたが、構わず舌を動かした。
 唾液で十分濡れたことを見届けた後、指先に変えて、今度は優しく触れた。徐々に固くなり、芯の通るそこを優しく抓めば、びくりとイルカの体が震える。
「っ、ま、待ってください、マジで待ってくださいってば!! ちょっ」
 焦りが滲んできた声に手応えを覚えながら、空いている乳首にも同様に吸いつき舌で転がす。


「あっ」
 声が濡れる。押し返すためにカカシの肩にかけた手が震え、縋りつくように握りしめられた。
 どうせなら素肌に触れてもらいたいと、舌の動きは止めずに、寝巻を脱ぐ。イルカの手を掻い潜り、後ろ手で服を投げ捨て、彷徨うイルカの手を首に回させた。
 少し荒れた指先が肌に縋りつく。それだけのことに胸が高鳴る。軽く開いた唇に噛みつき、執拗に乳首への愛撫を行った。
 軽く引っ張ると、イルカの体は跳ねるように震え、唇から熱い吐息が零れ出る。少し強めの方が感じるらしい。
 後から噛みついてやろうと思いつつ、唇を外し、喉に吸いつく。ぴくりと反応を返す様が楽しい。
 首筋を伝うように啄ばんで移動し、反応があったところは舌を這わせた。
 広い肩を齧り、鎖骨をくすぐる。イルカの体を味わうように舌を動かしていると、イルカが身を捩じり非難の声をあげた。
「っ、カ、カカシ先生っ、もういいですからっ」
 瞳に涙を溜めて、口を結んでいる。絶えず太ももを動かしているのは、直接的な快楽が欲しくなったのだろうと想像がついた。
 だが、そこで素直に応じてやるのも、つまらない。
 弄り過ぎて真っ赤になった乳首に、ふっと息を吹きつけて、堪えるように唇を噛み、首を晒すイルカの耳に問いかけた。
「何がもういいーの?」
「そういうことですよっ! 俺、もう限界で、出したいんですッ。ひとまず俺だけ先に出させて下さいッ」
 予想と違い、男らしい主張を繰り返すイルカの態度に少し落胆する。ここは、「そんなこと言えない」とか、「いいからお願い」とか、意地悪されて泣きそうな顔をするとか、色々な反応のとり方があると思う。


「っ、カカシ先生。俺、自分でしますから、そこ退いてくださいッ」
 切羽詰まった声があがり、イルカが暴れ始めた。
 身体を捻ってカカシを落とそうとしたり、縋っていた手で肩を押し退けたりと、容赦なくカカシを邪魔者扱いしてくる。
 さっきまで喘いでいたのが嘘のような態度に一度落ち込み、イルカの手がカカシの顔を突っぱねるに至って、腹の底から沸々と炎が燃え上がる。
カカシにとっては、仕切り直しの意味もあり、恋人のような甘い空気の中、思う存分いちゃいちゃしたかった。だが、イルカがそういう態度ならば考えがある。
「……許してって言っても、許さないかーらね」
 今晩は寝かせない。今まで培った経験と技で腰砕けにしてやる。カカシの本気に火をつけた代償はとってもらおう。
 手を突っ張り、足をばたつかせるイルカをうっそりと笑い、行動を開始した。
 マウントポジションを維持したまま、太ももへと腰を移動させ、しっかりと足を固定させる。
 ぎゃーぎゃー叫ぶイルカの声を聞きながら、寝巻のズボンを押し上げているそこに思い切り食らいついてやった。
「っ」
 頭上から息を飲む声が聞こえ、動揺する気配を感じる。構わずに、ズボンの開きに鼻を突っ込み、舌を使ってイルカのものに近付いた。
「っっ、カ、カカシ先生ッッ?!」
 アンタ正気ですかと叫んだ直後、思わずといった具合に、イルカの感じ入った声が零れ出た。唇を噛んで、すぐに途切れたが、もっと溺れさせてやると鼻を擦りつけ、舌を伸ばし、ズボンの上から揉んで、刺激を与える。
「ちょ、止めてくださいって! で、出る、あッ」
 起き上がりかけたイルカの体が中途半端な位置で止まり、びくりと太ももが跳ねた。直後に、ものを握りしめていた手がじんわりと湿ってくる。
「……だから、止めろって、言ったのに」
 強張っていた体から力が抜け、イルカは顔を覆ってうめいた。
 ぷんと香る特有の匂いと、黒い染みが滲むズボンを見て、惜しいとカカシは思った。
そういう行為を蔑んでいた自分を棚に上げ、飲んでみたかったと悪びれなく思う。というより、早速飲んでみよう。
すんすん鼻を啜って、恨み事を言うイルカの言葉を聞き流し、ズボンに手を掛けて下着ごと一気に引きずり下ろし、寝台の下に投げ捨てる。


「わ、」
「よいしょっと」
 腰に枕を当て、足を開かせた中に、体をいれ込む。じたばたとイルカはもがいたが、無視して股間に顔を近付けた。
間近で見る、イルカのものは今ではくったりと力を失くし、黒い草の中に埋もれている。拾い上げて、じゃれるように玉と一緒に揉みこめば、イルカが跳ね起きた。
「――カカシ先生?!」
 何してんですかと小さく叫び、股間を隠そうとする手を掴む。上半身を起こしたイルカの目には、戸惑いと期待の感情が交互に浮かんでいた。
「な、何するつもり、ですか…?」
 分かっている癖に再び聞いてくるイルカを笑った。
「さぁ、何でしょうかねぇ?」
 口を大きく開き、見せつけるようにそれを口に含む。
直前に吐き出しただけに、咥えた途端、生臭い匂いが口内を満たす。思わず眉根が寄ったが、途端に上がった声は背筋を震わせた。
「ぅあ」
 味覚的には決して美味しいとはいえないが、切ない声をあげるイルカに、もっと喘がせてやりたいという欲求が強くなる。
 竿にまんべんなく舌を這わせ、時折、小穴を舌先で擽れば、イルカは短い声をあげて善がった。口の中で大きくなっていくものに感動さえ覚え、もっと大きくさせようと、顎を上下に動かし、思い切り吸いつく。
「う、あっ」
 びくりと身体が跳ね、太ももがカカシの頬を一瞬、強く挟み、弛緩していく。その後に、どろりとしたものが口内に入ってきた。
 びりりと舌を痺れさせる液体に、これがそれなのかと妙に感心してしまった。もたつく感触に苦労したが、ごくりと飲み下し、口を拭う。
 それにしても随分早かったなと、拘束していた手を離す。顔を上げれば、肘をついて何とか身体を起き上がらせているイルカが、目が合うなり顔を背け謝ってきた。


「…す、すいません。我慢できませんで、その…。き、気持ち良かったんで、つい……すいませんでした…」
 口の中に出してしまったことの罪悪感と、羞恥で、イルカの顔は真っ赤だ。
 もごもごと言い訳を口にし、カカシの下唇に指を伸ばして汚れを拭いとってくれた。
 真っ赤に染まった目元と伏し目がちな眼差しが、色っぽい。イルカの優しい気遣いも、カカシの胸を疼かせる。
 もう我慢も限界だ。
 痛いほど張り詰める己のものに、奥歯を噛みしめ、もう少し我慢しろと言い聞かせる。
 そろそろこちらの準備をさせてもらわなければ、先走ってしまいそうだ。
 枕の脇に置いてあった軟膏を手に取り、指に纏わりつかせる。難しい顔をして何か煩悶しているイルカの尻に、そっと手を這わせれば、ぱっとイルカの顔がこちらへ向いた。
「や、やるんですか?」
「やりますよ」
 やらなくてどうするんですか。
 微妙に複雑な顔色をイルカは見せたが、深く息を吐くと、覚悟を決めたように体を寝台に寝かせる。
「……お、お願いします」
「はい、任されました」
 顔を横に傾け、口元に手を当て、イルカは堪えるような表情で目を瞑っている。上半身へ中途半端にまとわりついている寝巻が、そういう行為をしているのだと物語っていて、顔がにやけてしまう。
「イルカ先生、足立たせてくれる?」
 う、と何か呻く声が聞こえたが、素直に応じてくれた。
 カカシに向かってM字に足が開く。全て曝け出すような格好に、興奮もさきほどの比ではないほどに高まってきた。
 始めこそ暴れられたが、これならトントン拍子に事が進むなと浮かれていたカカシは、それは間違いだと、直後気付くこととなった。


戻る /8


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次回、結構エロ!(当サイトにしては! ……たぶん)





色温度ぷらす 7