翠玉 序章
『イルカー。翠玉の君、だって』
昔、母ちゃんが、そう言って笑っていた。
その言葉が出るときは、必ずしわくちゃの手紙を難しそうな顔で読んでいて、読み終わったと同時にけちょんぱんに貶し、その手紙を燃やして私の名前を呼ぶのだ。
「なに、読んでるのー? なんで、笑うのー?」
母ちゃんの服を握り、訳を教えて強請るのだが、いつだって母ちゃんはその問いに答えてくれず、決まってこう言った。
『イルカー、いい? 本当のイイ男ってもんは、欲しい物を何でも買ってくれるような男じゃなくて、父ちゃんみたいな男を言うのよ。よーく覚えておきなさい。いい?』
父ちゃん大好きっ子だった私は、深く意味も考えず頷いていた。
そうすれば、大好きな父ちゃんは私を抱きしめてくれたし、母ちゃんも嬉しそうに笑って頭を撫でてくれたから。
今、思えば、あれは母ちゃんに懸想した誰かが送ったラブレターだということが想像に難くないのだけれど、あのときの幼い私は両親が笑っていることがただ嬉しくて、一歩間違えれば夫婦に亀裂が入る言葉だとも考え付かず、よく口ずさんでいた。
『翠玉の君』
その言葉は、私にとっていわば幸福の象徴ともいえたのだ。
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新しい女イルカ先生が読みたいと嬉しいリクエストが入りましたので、やっちゃいました…!!(やらかしたッ)
今回はがっつり恋愛要素を入れるぞー!!(希望…)