幕間 4
「ようやくこっちに戻ってきやがったか」
重箱を横に置き、何となしに時計を見つめていれば、声を掛けられた。
視線を向ければ、煙をくゆらせ肩を震わせているアスマがいる。
何がそんなにおかしいのか、こちらを見て笑い続ける様が不思議だった。
「ちょっと、カカシ。それ、作りすぎじゃないの?」
アスマの隣にいた紅も、さもおかしそうに口を挟む。
二人で食べるのだからちょうどいいだろうと答えたオレに、二人は一緒になって笑った。何が二人を笑わせているのかが、よく分からない。
かちりと長針が真上に指した音を聞き付け、席を立つ。
屋上にいるからと声をかけたオレに、アスマは目を細めた。
「大事にしろよ」
里長を彷彿とさせる表情を浮かべたアスマ。
隣にいる紅も、静かに微笑んでいた。
彼女を迎えに行く道すがら、そういえばと思い出す。
アスマの顔を、紅の顔を認識したのはいつくらい振りなのか。
今、見える場所を、踏みしめる感覚を感じたのは、どのくらい久しぶりなのだろう。
今朝別れたばかりの気配を感じ、顔を上げた。
廊下を歩く先に、背中を丸めている彼女の背を見つける。
胸に灯ったのは小さな温もり。
失くしていた何かが埋まる。そんな予感を覚えた。
歩き出そうとする彼女の前に現れ、驚く彼女の顔を見ながらその手を取る。
触れられる彼女の存在。
確かにいる彼女。
そのことがやけに嬉しくて、その背に手を回したいと思った己の感情に驚いた。
戻る/
幕間5へ
---------------------------------------