しくじった。
痛烈に思う。
疲弊した精神は肉体を蝕み、立つことすらままならない。
油断すれば落ちそうになる意識を奮い立たせ、相対する者たちの目的を聞き出した。
ナルト。
よりにもよってと、内心呻く。
ナルトに九尾を封じ込めている以上、遅かれ早かれ直面することではあったが、それが、今とは。
ぐらつく視界の中、牽制の意味で口を開く。
少しでも時間が稼げればいい。そうすれば、必ず。
対した片割が動く。
背後の二人が動けない以上、己が何としてでも防がなければならない。
覚悟を決めたその時。
影と共に水柱が走り、鈍い打撃音が響き渡る。
ガイ。
待ち望んでいた助っ人を視界に収め、辛うじて保っていた意識が急激に薄れていった。
目の前が暗くなり、一瞬、無音が訪れる。だが、それもすぐ消える。
暗闇の中、水が落ちる音と、遠くで誰かが話している声を聞きながら、あぁと息を吐いた。
まだ戦闘は終わっていないのに、己の部下たちに危機が迫っているのに、里を巻き込む災禍が忍び寄ってきているというのに、今、頭の大半を占めていることは、たった一つだった。
イルカ。
帰るとオレは言ったのに、待っていろと告げたのに。
全てが遠く、ぼやけている。
オレは、まだ――。
何も伝えていない。
******
気付けば、入れ替わり立ち替わり、傍らの気配が動いていた。
全ての感覚が遠い。
肉体と精神の間に見えない壁が立ちふさがっているみたいだった。
だが、時々、思い出したかのように感覚が蘇る時があった。
それは不意に、そして一瞬。
耳に届く声は、だれもが暗く、焦りを帯びている。
何も出来ない自分が歯がゆい。
だが、自分の思いとは裏腹に、意識は途切れ、浮上するように我を取り戻し、そしてまた落ちていく。
何度繰り返したことだろう。
時間も、日にちも、傍らの気配も、何一つ掴めないまま、ぽっかりと空いた穴に何度も落ちていく無為な日々を過ごしていた。
不意に目覚めた意識で、何一つ自由に動けない不自由さを忌々しく思っていれば、ふと、痛々しくも尖った気配を感じた。
「サ、ワ、ル、ナ」
聞こえた言葉と、泣きだしそうな気配に、胸が熱くなった。
イルカ。
彼女が、いる。
彼女は必死に強がって威嚇している子猫のように、怯え、逃れようとしていた。
可哀想だと思う。
彼女を傷つけるのは、彼女自身なのに。
周囲を威嚇しながら、彼女は彼女自身に牙を突き立てている。
せめて腕が動いたら。せめて、瞳が開けることができたなら。
願い、足掻いてみるが、動いてくれそうなのは、喉くらいだった。
イルカ、もう恐がらなくていいよ。オレが、側にいるから。決して、離れないから。
胸を開いて、音を出す。
彼女に届けたい言葉は、どれだけ伝わっただろう。
闇が目の前を塗りつぶす。
体が、意識が落ちていく。
未だ慣れることのない墜落感を味わいながら、あぁと息を吐く。
一体、いつになったら、この不甲斐ない体は元に戻るのだろうか。
早く、彼女に会いたい。
戻る/
35へ
-----------------------------------------
幕間 9