手を繋いで 9
「ちょっとあんた、どういうつもり?!」
やけに感情ぶった声が間近に落ちた。
非常に気分の良い気持ちで顔を上げれば、銀髪の、無駄に色男オーラをまき散らす男が、仁王立ちでこちらを見下ろしている。
「どーちら様でしょうかー。ガイ先生のおしりあいですカ?」
酔った頭を横に倒し、隣で豪快に笑い声をあげているガイ先生に尋ねてみた。
「む。おぉー、マイ、ライヴァルー! ん、んー、宿命で運命のライヴァルと定められたオレたち二人の間には、約束はいらんということだなッゥ! ナイスだ、カカシィ、いざ、勝負ッゥ」
とうっと叫び、一回転後方ひねりを入れて着地をしたガイ先生は、カカシと呼ばれた男の前で、かっこいいポーズを披露した。
「ガイせんせっ、がんばってくださーい!!」
任しとけとこちらに親指を立て、ばっちーんと音が出そうなほど大きく瞬きしたガイ先生に、胸がきゅーっと引き絞られる。
か、かっこいいっv あぁ、私、一生、ガイ先生についていきますぅぅぅ!!
「うっさい、ガイ。お前の相手してる暇ないのッ。ちょっと、あんた、こっち来なさいッッ」
色男はガイ先生の華麗に素敵なポージングを無視するなり、私の首根っこを掴んできた。
「わー、ガイ先生、私浮かんでますよー」
「ハッハッハッハ、カカシは顔に似合わず力持ちさんだからなッッ」
持ち上げられ、どこかに運ばれる私を見送るガイ先生に手を振り、私は色男に連れ去られる。
障子を開け、内廊下から外廊下へ。
季節の花木を植えてある中庭に沿うように、男はずんずん進んでいく。
途中、仲居さんや女将さんらしき人が深々とお辞儀をして、男へ道を空ける様子からして、この料亭のお得意さんだと見てとれた。
さすがガイ先生のライバルと、にやけていれば、突如体が落ちた。
「ーーーい、いったー!!」
酒に酔った体では本能は働かないのか。無様に床へ打ちつけたお尻をさすっていれば、後頭部を鷲掴みされた。
酔った頭でも、さすがにこの先に起こることは嫌なものだと分かる。
「あ、あの、何されるつもりですか…?」
一気に覚醒する頭で場所を確認する。右手には厠が、そして私の目の前には手洗いができるように、水が溜められた丸い石が置いてある。
色男はあろうことか、前に押し出し、私をその水溜に近づけようとしてた。
ま、待て、いくらチョロチョロと水が流れて外に流れていようとも、用を足した後に洗う(主に男専用)水だろう?! ちょ、ま、まっ
「ま、ぶがががががごっごっっご」
私の制止の声は伝わることなく、水に沈められた。
「説明していただきましょうーかね、イルカ先生? オレは一人で、ここに。たった一人で、ここに、と伝えたはずですが?」
色男の前に正座させられ、私はうなだれる。隣では、何故かガイ先生まで正座させられていた。
面倒ごとに巻き込んですいませんと、視線を送れば、ガイ先生は力強く親指を突き立て、これも青春だと私を励ましてくれた。ガ、ガイ先生…!!!
「ちょっと、あんた! 今はオレと話してんでしょーがッ、よそ見しないの、よそ見は!!」
見つめ合う男女の中に入るたぁ、なんて無粋な野郎だ。
ちぃっと内心舌打ちをつき、表面は萎れた様をとり繕い、おずおずと尋ねた。
「あの…すいません……」
んと、不機嫌な目を向ける色男に、へらりと笑いかけ、ずっと思っていたことを口に出す。
「どちら様でしょうか?」
「………ッッ!!」
色男の顔が瞬時に赤く変わる。まずい、地雷踏んだ?!
泡食って、とっさに耳を覆う。その直後、超ド級の雷が落ちた。
「どこまで性悪なんだッ、この凶暴女ーーーーーっっ!!!!!」
ひぃぃいぃぃぃ。
耳を押さえても、びんびん鼓膜を揺さぶる音量に、心持ち後ずさる。
色男は憤慨した様を隠さず、私に指を突きつけた。
「あんた、いい訳にしても、いい加減するでしょう?! こっちは任務を急いで終わらせて直行で来てやってんのに、なに、ガイと飲んで酔っぱらってワケ?! もぉー、本当信じらんないッ。こんな尻軽女、子供たちにどんな悪影響を及ぼしてんだか、わかんないねっっ」
一気にまくしたてる言葉の羅列と、どこかで聞いたおねぇ言葉に、引っかかる。
そういえば、銀髪って木の葉じゃ珍しい色だ。
じーと見つめていれば、色男はちょっと怯んだが、すぐさま尊大な表情でこちらを見下ろしてくる。その態度も知っている気がしてならない。
色男は左目を髪で隠している。隠している目はどうやら昔大きな傷を負ったらしく、見えるのかどうかさえ危ぶまれる。
鼻筋は通り、唇は薄い。しかも色白。生徒たちと一緒に外で走り回る私の肌と比べ物にならないほど、綺麗で染み一つない。
どこの角度から見ても、色男だ。
町を歩けば、たいていの女性は振り返って見るに違いない。ひょっとしたら女性よりも美人さんかもしれない。
やっかみを込めて目を細めていれば、「おお」と隣のガイ先生が手を叩いた。
「そういえば、イルカはカカシの素顔を見るのは初めてだったな。紹介しよう。はたけカカシ。オレの生涯のライヴァルにして、親友のナイスガイだッッ」
一瞬で色男の隣に立つなり、その肩に手を回し、ガイ先生は私に親指を立てた。
色男は鼻で一つ息を吐き、ガイ先生からそっぽを向いて腕を組んだ。
………ちょっと頭が追いつかない。
「…はたけ、上忍?」
試しに名を呼んでみる。すると、色男はちらりとこちらを一瞥したきり、明後日の方向へ視線を飛ばせた。「何を照れておるのだ」とガイ先生は笑っているが、私はどうも信じられない。
ナルトたちの情報によると、はたけカカシはたらこ唇の、顎が割れた美形男なのだ。髭も濃くて、男臭さが漂う顔立ちという触れ込みだ。
決して優男系の、華奢で儚い顔立ちの美人さんではない。
「はたけ上忍?」
信じられなくてもう一度呼べば、ガイ先生にせっつかれた色男は不機嫌そうに返事を返した。
「はい」
「はたけ、上忍?」
「だから、何です」
「はたけ上忍?」
「そうだと言ってるでしょッ。アンタ、耳おかしいんですか!?」
ちりちりと変な音を上げて、体中にチャクラを纏う色男。まぁまぁと押さえるガイ先生と揉め合う様を見ながら、私は唇を突き出す。
「話と違う……」
ぼそりと呟いた声に、色男は顔を赤くし、ガイ先生は白い歯を見せ、胸を叩いた。
「任せろッ、イルカ。華麗に証明してみせようッッ」
「お願いしますッ、ガイ先生ッッ」
頼もしい言葉に拍手で声援すれば、ガイ先生は頭に巻いた手ぬぐいを取るなり、色男の左目に斜めに巻き、顎下で丸まっているアンダーを引き上げた。
一瞬にして、ここ最近何かと顔を合わす、銀髪の覆面忍者がそこにいた。
「イルカッッ、カカシだ!!」
ガイ先生の見事な手腕に、感動で胸がいっぱいになる。さすがガイ先生っ、私の疑問を一刀両断、快刀乱麻に解決してくれたッ。
「はい、はたけ上忍に間違いないですっっ。これが私の知る、胡散臭くて、高慢ちきでエロ本常備の節操なしのはたけ上忍、その人ですっ」
「はっはっは、そうだろう。そうだろう。ちなみに、読む用、保存用、飾る用、貸す用、万が一のため用と用意周到な一面もあるのだぞッッ」
「うわー、どん引いちゃいますっvv」
あははははと二人で笑い合う。
分かり合えた空気が、どことなく甘く感じるのは乙女の恋心の為せる技なのかしら……v
「そこの、二人……」
笑い合う二人の間に、不穏な声音が落ちた。
へ? と声がした方向を向けば、はたけ上忍が俯き加減にぷるぷる震えている。
お腹でも痛いのだろうかとぼけーと見ていれば、青筋を立て、青白いチャクラをバチバチさせているはたけ上忍が、凶悪な眼差しを私に向けた。
え、え、私、何かした? 私、何かしちゃいましたか?
おたつく私に、はたけ上忍はにっこりと笑い、不可解な発言をかました。
「千年殺しミックスで勘弁してやーるよ」
しゅーしゅー煙を立てる両手をわきわきしながら、残忍な笑みを浮かべた、はたけ上忍が私の目の前に迫ってくる。
恐い、何故かものすごく恐いっ。
訳の分からぬ恐怖に囚われ、動けなくなる私に、はたけ上忍は………
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
由緒ある高級料亭の雅な空間を、私の絶叫が切り裂いた。
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………えっと、イルカ先生やられちゃいましたっvv
今さらですが、カカシ先生ファンの方、申し訳ありません……!!