手を繋いで 22

「……つまり、九尾関連で里の者に恨まれたアンタを思いやって、三代目が火影邸に下宿を持ちかけたけど、三代目に悪い風聞が立つからと嫌がったアンタのわがままで一般のアパート借りたものの、アパート周辺の住民にまで被害が及ぶような嫌がらせをされたから、三代目が目くらましの結界を張ったのよーね。結界解除の鍵が、アンタ自身と、この家の鍵っていうこと…?」
お皿に盛られた芋けんぴがなくなったのを機に、疲れきったカカシが私の回答をまとめた。
「はいはい、そうですよー。ごちそうさまでしたv」
芋けんぴを全部食いたいがために、カカシの質問を煙に巻いた甲斐があった。
満足と大喜びしている腹を撫でつつ、ふと時計を見やれば6時を示している。芋けんぴを全部食べるために、1時間も費やしてしまったのか……。



芋けんぴのおかげでお腹は満たされた。
アカデミーへ行く準備でもするかと、立ち上がり、今日が何日かカカシに尋ねる。
「カカシ、せ、せんせい、今日は何日ですか?」
危うく呼び捨てしそうになりつつ、何とか体裁を整えて呼べば、カカシはちゃぶ台に突っ伏していた顔を上げ、前髪を後ろに撫でつけた。
「今日は13日。ーー兎面の後輩に感謝なさいよね。アンタが倒れて真っ先に駆けつけたのは、彼女なんだから。医療忍術で応急処置施してくれたおかげで、入院一日ですんだところも大きいのよ」
カカシの言葉に目が見開く。あの、うさちゃんが…?!



超売れっ子暗部が何故に中忍が倒れただけで駆けつけてくるのだ。
怖い! やっぱり暗部って仕置き人説が正しいんじゃないの?! つぅか、どこかで今も見張ってるとか?!
私に安息の地はないのかと、きょろきょろと周りを見回せば、カカシはため息を吐き、言葉を足した。
「一体、いつの間にあいつと友達になってんのよ…。アンタって本当訳分かんない」
無茶苦茶だと呟くカカシに、私が無茶苦茶だと叫びたかった。私への認識がまさか友達の枠に入れられていたなんて
。
うさちゃん、そんな簡単に友達決めちゃっていいわけ?!



頭の中で「イルちゃ〜ん」と手を振るうさちゃんは当然ながら何も答えてはくれない。
いずれガチで話し合わねばなるまいと、ひそかに決心を固めながら、ひとまず出勤支度に取りかかることにする。
「さて、と…。私、出勤しますけど、カカシ先生どうされますか?」
お茶も飲んだし、こちらとしてはもう用はない。このまま帰ってくれないかなと動向を窺った。
すると、カカシはこちらをやけに鋭い眼差しを向けてきた。む、なんだ、やる気か?



初対面以来の攻防戦かと、ちょっとうきうきしていたのに、カカシはホルダーから巻物を抜き取るなり、親指を噛みきった。あ、もしかして。
「口寄せの術」
カカシの声と同時に、ぼふんと白い煙が上がる。
「遅かったのぅ」と白い煙の中から現れたのはーー。



「パックン先輩っ!!」
「おう、嫁。久しぶりじゃの。元気にしておったか?」
いつか見た景色と重なる。
現れたパックン先輩は口に青いお買い物袋、通称エコバックをくわえ、右前足をあげ、私に挨拶してくれた。
「もちろんですよ! パックン先輩もお元気そ」
「はいはいはい、パックン、ありがとうね〜。もう帰っていいよー?」
パックン先輩に駆け寄ろうとした私の前に、背中が割って入ってきた。
そして、こともあろうか、カカシはパックン先輩から荷物を受け取るなり、術を解いた。
「……大人げないのぅ」
ばふんと音が鳴り、パックン先輩の声と白煙を残して、姿が消えた。
あぁぁぁぁぁぁ、馬が! 癒しがぁぁぁ!!!



何故、帰したと恨ましげに見上げれば、カカシは私よりも不機嫌な目でこちらを見下ろす。そして、大きなため息を吐いた。
「アンタ、自分で言ったこと忘れてるでしょ。ほら、材料は買ってきてやったから、ちゃっちゃっと作る」
エコバッグを私に押しつけ、台所に追い立てられた。いや、ちょっと。
今からアカデミーに行く準備をするのだと抗議するより早く、カカシはどこから出したか知れぬ白いエプロンを私に装着させると、指を振りながら命令してきた。
「いーい、アンタは弁当作りをすること。仕方ないから、俺はアンタの出勤準備でもしてあげるーよ」
全く手がかかると、勝手に室内を漁ろうときびすを返すカカシに度肝を抜かれた。乙女のタンスを無断で開けようとは、何を考えているのだ?!
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!」
もしかして私の母親になるつもりかと、悲鳴をあげれば、カカシはビッと私を指さした。
「それ」
「え、は?!」
思わず一歩後ずさる。カカシは向けた指を引き戻すなり、息を吐いた。
「アンタの部屋に入れなかったおかげで、わざわざ買ったんだーよ。…ま、こういうことも今後はないとも言い切れないし? アンタの部屋を知った者としては、アンタの持ち物を把握する必要があるのよ」
仕方ないじゃないと腕を組みながら、こくこくと頷くカカシを呆然と見つめた。
買った? これを、支給服セットを?!
「ちょ……!!」
忍の支給服は、あらゆる意味で高性能を歌うだけあって、普段着の服に比べればしこたま高い。
外勤ならば任務手当の一つとして、無料で支給されるが、内勤従事者である私は当然買い取りだ。
給料日まであと何日残っているのだと、目眩が起きる。残業追加しないと生活が危うい!


深夜手当が入る、深夜の受付に入るしかないと、己の睡眠時間を削る覚悟を決めた時、カカシは実にあっけらかんとして言った。
「ま、その服は、オレからのプレゼントでいいですよ。金ないんでしょーから」
急な出費はかなりの痛手でショと、まるで出来た女房のような言に、感動してしまう。
ふるふると震えて、カカシへ感謝の眼差しを送っていれば、「だから」とカカシは言葉を継ぎ足した。
「貧乏人のアンタの懐事情も考えてのことなんだからね。感謝なさいよ」
と、再び乙女のタンスへと進軍し始めたではないか。
慌ててカカシの前方に立ちふさがり、両手を広げて阻止する。感謝はするが、タンスを解放する気は一切ない。
「だから、待ってくださいよ! カカシ先生のお気持ちはわかりましたけど、だからといって乙女の秘密満載のタンスに手を出させるつもりは毛頭ありませんよッッ」
バックに炎を燃やし、ずばりと言い放つ。すると、カカシは眉根をひくりと波たたせ言った。



「15,000両」
突然言われた巨額の値に、動揺が走り抜ける。
「な、なななななんですか!!」
そんなお金、ここにはないと諸手を上げれば、カカシは再び私へ、正確にいえばアンダーを指さし言った。
「アンタが今、着てるそれの値段。貧乏臭いアンタに、毎回毎回払える訳?」
カカシの衝撃発言に、己が着ているそれを凝視する。やたらとフリルがついたエプロンがかなり邪魔だが、よくよく思い起こせば、肌触りやフィット感がいつも着ているそれとは違うような気がする。
布地の光沢感にゴージャス感を覚え、まさかとばかりに声を上げた。



「こ、これが噂に名高い、上忍でないと破産宣告に追い込む忍服?!!」
アサリたちが忍具カタログを見ながら、いいなぁとぼやいていたのを思い出す。
アンダーはどれもが一定の品質を保証されてはいるが、良い物をと思えば、それこそ青天井並価格の代物がごろごろ存在する。
「何言ってんの? これは、オレが着ている物よりちょっと落ちる位だーよ。オレと同じでも良かったんだけど、貧乏で慣れてるアンタには重荷でショ」
消耗品の忍服で一万五千両って、それより上をいく服って!!
気を抜けば崩れ落ちてしまいそうになる。恐ろしい…。
いくら身を守るといったって、服は服でしかない。刃物でばっさりやられれば切られる代物なのだ。



「か、勘弁してくださいよッッ! 忍服ごときで一万五千ってっ。私を殺す気ですか?!」
涙混じりに切れれば、カカシの気配が変わった。
「ごとき? ーーアンタ、本気で言ってんの?」
きんと耳鳴りがした。ぶるりと体が震える。カカシの周りの温度が一、二度が下がった気がした。
カカシのバックに青白い炎が見える。
静かな怒りを見せるカカシに妙なプレッシャーを感じつつも、だってと口を開こうとすれば、超ド級の雷が落ちた。



「ふざけるなッ。金と命、どっちが大事だと思ってんだ!!」



青筋立てて本気で怒るカカシに身が竦む。
いつものおねぇ言葉もどこかへぶっ飛び、カカシは低い声で唸った。
「傷一つの有無が命に関わることくらい、その身で知ってるだろう。ましてや忍は毒を多用する。身を守りすぎて悪いことなんて一つもない。アンタは、任務へ行く教え子に何て教えている?」
恐い表情で、問いを投げかけられた。
萎縮した体を踏ん張って、まっすぐに注がれた色違いの瞳を受け止める。
「じゅ、準備は周到に、確認は怠るな。しすぎて悪いことはない。今自分ができる最大の用意をしろ、です」
俯きそうになる顔を押しとどめ、カカシの顔を根性で見続けた。
アカデミー時代、恐いと評判の先生に叱られたときだって、ここまで打ちのめされなかった。
なんだか泣きそうだ。



いつまたさらなる叱責を受けるかと、ビビる私の意に反して、次の瞬間、カカシの顔が柔らかくほころんだ。
張りつめていた空気が突如緩む。



カカシはこんなこと言わせるなと、まるで親しい誰かを見つめるように、私に眼差しをくれる。
戸惑う。
困惑する。
でも、それより。
「分かってんじゃない。アンタだって同じでショ。金ないなりに、もっと自分のことーー、ちょ!!」



カカシの目が大きく見開く。
その顔が歪むのを眺めながら、私は漏れでそうになる声を必死で押さえた。
カカシは挙動不審にも程があるほど慌てながら、左右を見回し、やがて私に視線を合わせると、ひきつらせた笑みを向けた。
「…あ、あのね。いきなり泣かなくてもね?」
「泣いてまへん!!」
吸える液体は全て吸い、吸えない液体は腕でこする。
「いや、泣いてるでショ? ほら、強く擦らなーいの。赤くなっちゃうでしょうが」
呆れた調子で言うカカシに悔しさがこみ上げて、腕をつかんできた手をぶんぶん振り落とそうと頑張る。
「な、泣いてまへん!! これは汗です! 涎です! そこら辺の水がかかっただけなんですッ」
ひぃっくとしゃっくりまで出てきて、ますます悔しくなってくる。
壊れたみたいにぼろぼろと出てくる液体が不本意で、コントロールできなくて、両手で顔を覆い隠した。



自分でも訳が分からない。
カカシに叱られた後、微笑みかけられただけだっていうのに、どうしてこんなにも泣けてくるのだ。



「あー。……何なの、アンタは!!!」
それはこっちの台詞だと顔をあげた瞬間、取られた腕を引き寄せられた。そのまま頭と、背中に腕が回り、顔に厚い胸板が押しつけられる。
突然のことにびくりと体を跳ねさせれば、宥めるように手が動き、ゆっくりと頭を撫でてくれた。
「胸、貸してあげるから、泣き止みなさいよね。写輪眼カカシの胸よ! こんなこと滅多にないんだからねッ」
横柄に言った言葉が頭にきたのに、こちらに触れる手は、馬鹿みたいに小刻みに震えているから、胸が詰まった。



無理しやがってと唇を噛む。
ぶれる手で撫でるから時々痛いし、胸の鼓動は上忍とは思えないほど暴れ狂っている。


慣れてない手つきで、私を泣き止ませようとするカカシの不器用な優しさに、別の意味で泣けてきた。









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現作品中、このカカシが一番、男らしいかもしれないと初めて思った回でした。
��(口=)ヒ゛ックリ