「…私、ですか?」
寝耳に水とはこのことだ。里を代表する三人が集まって、俺に用事だという。
一体、何のことだと考え、元生徒たちのことかなと、期待に胸が高鳴る。もしかすると、色々、近況を聞けるかもしれない!
「残念だが、ちげーよ。ガキどもの話じゃねぇ。用件はこいつだ、こいつ」
差し出された奴に、一歩後ずさる。
なんで、こいつが俺に用件なんてもんがあるんだ。まさか、あれか。上忍さまの制裁ってやつか! アスマ兄ちゃん、俺を売ったのか?!
きっと眦を上げて、アスマ兄ちゃんをねめつければ、アスマ兄ちゃんは幼少の頃からの口癖を呟き、髪を掻き毟った。
「ちげーよ、面倒くせぇ。あのなぁ、これでもオレはオメーのこと弟分だと思ってんだぞ、そんな真似するか」
「…アスマ兄ちゃん」
滅多に言わないアスマ兄ちゃんの本音に、不覚にも胸がときめいた。
兄ちゃん。兄ちゃん呼んでいたのは、伊達じゃなかったんだね。これから、アスマ兄ちゃんって、時々呼ばせてもらうよ。
懐かしい遠きあの日のことを思い馳せていれば、目の前の奴が俺とアスマ兄ちゃんの視線の間に割り込みやがった。
何だよ、てめー、邪魔だろうがッ! せっかく、兄弟の絆を確かめ合ってんのに、何、妨害してんだよ、このバカカシがっ。
心の中で悪態つきつつ、表面は冷静さを取り戻し、不機嫌ながらも奴と対峙する。あのときは負けそうだったが、今は負けん。なぜなら、アスマ兄ちゃんがいるからっ。
他力本願な心強さを胸に、やるかっと気炎をあげていれば、奴はふんふんと鼻を鳴らし、頭を下げるなり、俺が持っていた一パック、三百両のお刺身特盛を一口で食べた。
「っっ!!」
何、勝手に食ってやがんだ、上忍! と反射的に手が出そうになった直前、大げさな声が二つもあがった。
「食いやがった…!」
「はぁ、よかった。ったく、面倒臭いッ」
俺の代わりに紅先生の平手が飛ぶ。だが、奴は平然な顔をしてひょいと軽く避けた。そればかりか、今度は俺の持つ右手の酒を口で咥えるなり、くいっと煽った。
ぐびぐびと飲み干す音が聞こえる中、アスマ兄ちゃんと紅先生がやれやれと安堵に似た息を漏らしている。二人が安堵する理由は分からないが、これは……。
最後の一滴まで飲み干し、口から瓶が離れる頃には、もう口布がある。
どうやって飲み食いしたんだと疑問は尽きないが、あまりに無体な行動に我慢ならず、心の赴くまま声を張り上げた。
「あんた、何やってんですか! 仮にも上忍ともあろう人が、人様のものを勝手に食べるなんて、失礼を通り過ぎて無礼です!! 謝りなさいッ」
ずばんと言い切り、奴を睨みつけた。
刺身と酒を横取りされた恨みじゃないぞ。そんな狭い了見で、俺の上司ともいえる上忍を叱れるわけがない。
これは、ナルトたちの模範となる人がこういう行いをしていては駄目だと思ったわけで、決して積もり積もって重なった怒りをこれ幸いとぶつけてるんじゃないんだ。本当に…!!
ぴしゃんと言い放てば、当てられたのはアスマ兄ちゃんだった。
呻きながら両耳を押さえると同時に、首根っこをつかまえられていた奴が落ちた。
小さくキャンと鳴いて、怯えた眼差しで、ぷるぷると震えながら俺を見上げている様は、性質の悪い幻術にでも掛かってしまったのかと思ったほどだ。
「…解」
一応とばかりに、解術の印を組んで一言呟く。
視線を下げれば、まだいる。あれー、おかしいなぁとばかりにもう一度。それでも解けずにもう一度。
「おい、イルカ。幻術じゃねぇよ。カカシのヤローはマジだ」
ぜいはぁと息が上がる頃に、ようやくアスマ兄ちゃんの声がかかる。
一体、どうなってんの? と向けた視線に応えてくれたのは、紅先生だった。
「詳しくは言えないけど、ある任務でどうしても犬にならなくちゃいけなくて、カカシ、自分を犬だと思い込んじゃっているのよ」
ふぅと大きく息を吐き、本当にまいったわと紅先生はやや疲労に満ちた声で続けた。
「怪我の有無も確認させてくれないし、こちらが用意する食事は一切口につけてくれなくて、ほとほと困ってたのよ」
その言葉に、ようやくカカシ先生の有様に気がついた。
忍服はぼろぼろで、血の匂いがしていた。唯一見える瞳はどこかぼんやりとしていて、肌は血色が悪い。
受付任務だってやっているのに、こんなことも気づかないなんて…。
ちくりと胸を刺す痛みに、顔が歪んだ。
びくびくと怯えた様子でこちらの様子を窺うカカシ先生に申し訳なくて、おどかさないようにゆっくりとしゃがみ込む。
「すいません、カカシ先生。急に怒鳴ってしまって、ごめんなさい」
軽く手を握って、カカシ先生に手の甲を差し出す。
まだ怯えるようなら、すぐ手を引っ込めるつもりで、動向を見守った。
カカシ先生はびくりと一度は身を震わせたが、しばらくすると鼻先を近づけて俺の手を嗅ぎ始める。
好きなだけ嗅いで安心したのか、体の震えが治まったのを見計らって、そっと耳の後ろ辺りを撫でた。
気持ちいいのか、くんくん言って、顔を胸に押し付けてきたので、それを抱きとめてやりながら、好きなだけ掻いてやる。
「驚かせてすいません。もう大丈夫ですからね」
ぽんぽんと背中をあやすように叩いてやれば、急に力が抜けて、凭れ掛かってきた。
よほど張り詰めていたのか、安心して気が抜けたらしい。
優しく労わるように背中を撫で、顔を上げれば、思いのほか近くにある、紅先生の目とかち合った。
「ッ」
思わずあげそうになった声を手で封じられた。
しぃーと人差し指を唇に当てる紅先生にこくこくと頷けば、ようやく手を離してもらえる。去り際に花のような甘くいい香りが鼻をくすぐった。
やっぱり女性はいいなぁとにやけてしまう顔を懸命に引き締めようとしてれば、紅先生が感心した声をあげた。
「やっぱり、最後はイルカ先生ねぇ。今までの苦労がバカみたいだわ」
は?
妙に含みのある言葉に、眉根が寄る。アスマ兄ちゃんを窺い見れば、何とも言えない顔をして、「マジだったとはな」と呟いた。
事の次第を聞き質したいのは山々だったが、もたれかかるカカシ先生の息は荒く、体も熱い。
後で絶対聞きだしてやると、アスマ兄ちゃんに目で宣言をして、ひとまずカカシ先生の手当てを優先させた。
「カカシ先生、今から触りますけど大丈夫ですからね。手当てをするだけですからね。大人しくしてくださいね」
体を凭れかせたままゆっくりと声をかけながら、カカシ先生のベストに手をかける。瞬間、うーと低い唸り声が聞こえたが、焦らずゆっくりとジッパーを引き下ろした。
出てきたのは、綻びのひとつもないアンダー服。
出血した跡がないことから、かすかに臭う血臭は返り血だと判断する。ひとまずほっと息を吐けば、横から声があがった。
「…あら、生意気。傷一つないって、こいつどんだけ悪運強いのよ」
「さすがに里の誉れはちげーってか。これなら大丈夫だろ。いいもん食わせて寝かせときゃ、元通りになるわな」
良かった良かったと妙に一本調子で相槌を打ち合う二人に、何か嫌な予感がしてくる。
一声かけて、カカシ先生のベストを閉め、気持ちよさそうにもたれ掛かっている体を引き離す。途端に不満げなうなり声をあげられたが、無視。里の同胞として怪我の心配はするが、それ以上のことはするつもりもない。
縋るような眼差しを真っ向から拒否し、ぽんぽんと体を軽く払い、立ち上がる。
「カカシ先生がご無事でなによりです。それでは、私はここで失礼させていただきます」
深々と一礼した後、コンマ0秒のスタートダッシュをしかける。が、それよりも早く首が締まった。
「うげっ」
「イルカー、里の誉れの一大事を見ておいて、このまま帰れると思うなよ」
おどろおどろしい声とともに、ぶっとい腕が俺の喉に絡みつく。
「後生だから見逃してッ、アスマ兄ちゃん! この流れはマズイっ、何かヤバいって第六感が告げてる!」
持てる力を逃げるために費やすが、所詮、中忍の実力は上忍に勝てないのか。じたばたと足掻く俺に、アスマ兄ちゃんは容赦なく足払いをしかけてきた。
側面から強か地面に投げつけられ、一瞬息が詰まる。
くっそ、昔からアスマ兄ちゃんってば、最後は力技で黙らせるんだから! そんな粗暴もんだから彼女できないんだッ。
げほげほと咳をしながら見上げれば、アスマ兄ちゃんは煙草をくわえたまま、ひきつった笑みを浮かべていた。
「イルカ、くだらねぇこと考えてると次はコレが落ちるぞ」
ぐぎゅと血管が浮かび上がった拳を見て、昔の古傷が痛み出す。
ぶんぶん顔を横に振って正座をすれば、ようやくアスマ兄ちゃんは拳を収めてくれた。
反省するようにうなだれていると、カカシ先生がふんふんと鼻を慣らし近づいてくる。あっちに行けと念じたが効果はなく、膝に鼻を寄せた後、正座している足に顔を乗せてきた。
あーん? と、心の中でメンチを切り、さりげなく膝を移動させる。
テメェーに貸す膝はねぇ! つか、俺が可愛い彼女にやってもらいたいことを俺に求めてくんなッ。
ぎっと八つ当たり気味にカカシ先生を睨みつけるが、カカシ先生はどこ吹く風で再び俺の膝に頭を乗せようとしてくる。
あんだ、この野郎ッと、ここから逃げ出せない鬱憤と、日頃の恨みも相まって、膝貸しの攻防を繰り広げていれば、この真剣勝負には似つかわしくない、笑い声が響いた。
一瞬、気を取られた隙に、膝へ重みが加わる。くっそぉ、無駄に上忍しやがって…!!
満足げなため息を吐き出す、銀色の頭をどつきたくて拳を震わせていれば、柔らかな感触が手を包む。
驚きと共に顔をあげると、先ほどの甘い匂いが鼻をくすぐった。
「イルカ先生」
真摯な声で至近距離から見つめられ、顔に熱が集まる。
「く、紅先生?」
美貌の紅先生のしっとりとした黒い瞳は、潤むようにきらめいていた。何だ、これ。何のフラグ? もしかして、もしかするのか!?
早くも頭の中では、リンゴーンと祝福の鐘が鳴り響く。
どきどきと胸を高鳴らせ、美しすぎる顔を見つめていれば、紅先生は微笑み、印を組んだ。
「え…」
真正面でしかも、ばっちり瞳を合わせた俺は、まんまとくらってしまった。
ばちりと目前で大きな音がたち、とっさに顔を背ける。目の奥がちかちかと点滅し、騒がしいことこの上ない。
「な、何したんです?!」
対人用の幻術だろうことは想像ついたが、何のために幻術をかけられたのか、全くわからない。
紅先生は幻術のエキスパートとして名高い。どちらかといえば幻術は苦手な部類に入る俺に、紅先生の掛けた術を解除できるとは思えなかった。
やっぱり上忍ひでー、くの一コエーと目を擦り、突然の不運を嘆いていれば紅先生は小さく笑った。
「そんなに悲壮な顔しないでよ。イルカ先生にプレゼントがあるから、目、開けて」
弾むように言われ、ドキリと鼓動が高鳴る。もしかして、この幻術も俺を喜ばせるためのちょっとしたドッキリだったのだろうか。
早とちりしちゃったなぁと照れつつ、目を開ける。そこにはとびきりの笑顔を浮かべた紅先生と、その後ろには微妙な顔をしているアスマ兄ちゃんがいる。
俺へのプレゼントはどこかなと、視線を下に向けて驚いた。思わず息を飲み、口を押さえる。
俺の膝に、大きな犬がいる。しかも、白くてでっかくて、引き締まった体躯をした、額宛を巻いた立派な忍犬が!!
「紅先生!」
先刻、俺が飼いたいと言っていた犬そのままの存在に、感謝と感動と、喜びが体中から溢れ出す。
膝の上で寝ている犬の頬を持って、わしわしと撫でれば、その犬は嬉しそうにわふんと息を吐いた。
おおおお、俺とこいつ、ぜってぇ気が合うッ。今日からお前は、俺の子だ!
名前は何がいいかなと犬に顔を寄せ、もぶりつくように体を撫で回していれば、アスマ兄ちゃんが「あー」と変な声をあげてきた。
「アスマ兄ちゃん。こいつ、俺のだからね。絶対、絶対、誰にも渡さないからなッ」
こんなすばらしいやつはどこにもいないと首に抱きついて、俺は絶対離すものかと力を入れる。
可愛いわんこは、俺の抱擁が気に入ったのか、少し興奮したように体を起きあがらせると、俺の頬を大きな舌で嘗めてきた。
うおお、可愛い! もうなんだよ、この人なっつこい愛い奴めぇぇ!!
俺以外の奴にこんな気安い態度取るなよーと、きゃっきゃっとじゃれ合っていれば、アスマ兄ちゃんはもう一度「あー」と変な声を上げ、俺の名を呼んだ。
「イルカ。カカシはどこ行ったか、分かるか?」
聞きたくもない名前が耳に入り、口が歪む。
「知りませんよ。高名な忍びさまですから、俺が気付かない間に帰ったんじゃないですか?」
なーと、わんこに抱きつき、首筋に顔を寄せる。
俺と同じくらい大きい体格だから、抱き付き甲斐があって、非常によろしい。
俺の家、ボロアパートだけど、俺の忍犬ってことでごり押しして一緒に住んでやろう。なぁに、こんなに利発そうで可愛いわんこならば、家主さんだって一目見て気に入るに違いねぇ。もし渋るようなら、ご高齢の一人暮らし大家さんに、番犬っていいですよねと、警備面から攻めていけばヤれる。
これからの俺とわんこの生活に思いを馳せていれば、アスマ兄ちゃんが「あー」とまた変な声を上げた。
もう、何だよ。俺とわんこのわんだふるライフ設計を邪魔しないでくれよ。
咎める視線を向ければ、アスマ兄ちゃんは視線を逸らし、非常に言いにくそうに口を開いた。
「イルカ。カカシはどこにも行ってねぇ。そこにずっといる」
ぷっかーと夜気へと白い煙を吐き出させ、煙草を持った指が俺を指し示す。
つられてアスマ兄ちゃんの指差す方を見れば、そこには俺の可愛いわんこがいる。
ふりふりと大きく振れる尻尾を見詰め、はっはと口を開けて、こっちを一心に見詰めてくる忠犬振りに、心の中で良い子だと頷き、アスマ兄ちゃんの顔を見た。
「はい?」
一体何言ってんのと、心に忍び寄る不安を振り払いつつ、わんこの後ろ首を撫でる。
きゅんきゅん言って喜びながら、お腹を晒してきたわんこに、そうかそうか、俺が好きかと腹を摩って、俺とわんこの仲の良さをアピールしていたのに、アスマ兄ちゃんは無情にも言い切った。
「オメーもいい加減、気付いてるだろ。それが、カカシだ」
ずばんと言われ、俺は固まる。
もっと撫でてもっと撫でてと俺にアピールしてくる白いわんこが、俺の敵対関係にある、奴、だと? 確かに白い毛並みは、奴の銀色の髪に似ているし、少し垂れた目と、左目へ斜めに当てるようにつけられた額当ては、まぁ奴の特徴が見えないこともない。だけど。
「きゅーん、きゅーん」
両手両足を宙に伸ばし、背中でいざなり、俺の膝に乗り上げて全幅の信頼を寄せるこの可愛いわんこが、あの俺に対して辛辣な態度と、敵愾心も露わに睨みつけていた奴だとは、とても思えない。
……うん。分かった、よし、分かった。
「イルカ?」
わんこの喉を撫でつつ、俺は決心する。
「分かったよ、アスマ兄ちゃん。確かに、幻術に掛かった俺には犬に見えるけど、実はカカシ先生なんだという可能性はものすごく高い」
「いや、カカシだ。間違いなく、カカシだぞ」
大人しく認めろよと呟くアスマ兄ちゃんの言葉を無視し、俺は晴れ渡る星空を見詰め、ぐっと拳を握った。
「これは、カッシーです。今日から、俺の愛犬カッシーなんです」
一瞬、その場に沈黙が下りる。二人とも呆けたような顔で俺を見詰め、そして「結果、オーライ?」「まぁ、いいんじゃねぇか」などと、俺に背を向けて密談した後、「イルカ先生、素敵! じゃ、カカじゃなくて、カッシーを任してもいいのね!?」と、大げさに両手を合わせて、喜びの声をあげる紅先生に続き、「よし、よく言った、イルカ。お前になら任せられるぞ」と、アスマ兄ちゃんは大根役者も驚きの、棒読み台詞を吐き、はっはっはと平坦な笑い声をあげた。
……何、この人達。
目の前の二人の、見られたものじゃない芝居を突然見せつけられ、不審感が募るが、俺とカッシーの障害にはなっていないようなので、ひとまず注意程度に止めておく。
即断はせずに、様子見せよ。これが中忍として細長く、しぶとく生きる秘訣だ。
カッシーに寄り添い、二人の行動を油断なく見つめていれば、アスマ兄ちゃんは懐から一枚の紙を取り出した。そして、俺に手渡しながら、言った。
「カカシの面倒を見るなら、今日から火影邸で暮らせ」
その紙は、火影邸に出入りできる許可証だった。別に俺のアパートでもいいのにと思っていれば、アスマ兄ちゃんはあのなぁとため息を吐く。
「オメーにゃ、カッシーだろうが、オレ達から見りゃ、写輪眼のカカシだ。火影邸から逃げたカカシを捕まえてこいってのが、今のオレ達の任務でな。身辺警護並びに、秘匿措置で、カカシが元に戻るまで、しばらく火影邸に隔離って決まってんだ」
思っていたより大事のようだ。
「……俺、カッシーと暮らせる?」
引き離されたくなくて、ぐっとカッシーの首を引き寄せれば、アスマ兄ちゃんは気安く手を振った。
「今更だな。言っとくが、なんでオレたちがオメ―を引き止めたと思ってんだ」
「カカじゃなくて、カッシーは誰かを探そうとして、火影邸を脱走したみたいなの。で、カッシーの後をついていけば、そこにイルカ先生がいたのよね。その懐き方といい、火影邸に止め置くにしても、イルカ先生が面倒みてくれるのが一番いいの」
上が何か言ってきたら私たちが証言するわと、心強いお言葉をもらい、俺の心は晴れやぐ。そして、二人の下手な芝居は、俺にカッシーを任せることこそが目的なのだと理解した。
うん、大丈夫。俺の中忍センサーがこの二人は味方だと今、決めた。共通利益。何て素晴らしい言葉だろう。利益、嘘つかない。目的同じなら、皆、仲間。
俺たちの暮らしはうまくいきそうだぞと頭を撫でてやれば、カッシーに気持ちが伝わったのか、綺麗でふさふさな長い尻尾がぶんぶんと振られ、くんくんと嬉しそうに鳴いた。
「……きも」
可愛いなぁと相好を崩す俺の前で、紅先生がとんでもない言葉を言い放ってきた。ぱっと顔を上げて、何て事をとカッシーを抱きよせる。
「ひどいです、紅先生!! カッシーに聞こえでもして、傷ついたらどうするんですか!!」
運よく、カッシーは俺の手に夢中で紅先生の言葉を聞き逃していたが、賢いカッシーのことだ。人の言葉を完全に理解しているに違いない。ということは、心ない人の言葉に、人知れず心を痛めることが容易に想像できた。
カッシー、可愛いカッシー、俺がお前を守ってやる! それが、お前の飼い主としての使命であり、責務だっ。
きゅんきゅん言って、俺の肩に顎を乗せるカッシーに頬を染め、可愛いと意識せずに言葉が零れ出る。
「帰ったら、一緒に写真撮ろうなぁ〜。んで、一緒に寝ようなー」
ぱたぱたと振られる尻尾を見詰めつつ、可愛い可愛いと背中を撫でた。
「典型的なバカ飼い主だな」
アスマ兄ちゃんの言葉を華麗に無視し、俺は鬨の声をあげる。
「善は急げです。カッシーと俺の生活のためにも、今すぐ三代目に会いに行きましょう!!」
「わんわん!」
俺の言葉に援護するように吠えてくれるカッシーを、良い子と頭を撫で、俺たちは移動した。
無邪気な犬カカシ先生。