「ハナさんじゃないですか?! むさ苦しくてすいませんが、どうぞ、どうぞ」
アパートに帰ってきたら、家主のような顔をして鋭角顔が俺たちを出迎えた。
「ホタテー、ここ俺の部屋ー」
「金を出したのは誰だ」
『ホタテ様です』
中忍の間では、金を出した奴が偉いらしい。
家主である先生は、丸顔と一緒に平伏して財布を持ち主へと返していた。丸顔の手には、ワンカップの酒から焼酎、裂きイカ、するめと酒とそのつまみがぱんぱんに詰まったビニール袋が二袋握られている。
部屋についてようやく解放された俺は、居間に一時避難して、毛づくろいに専念した。
先生の腕の中は好きだが、毛並みが乱れるのが難点だ。
俺の猫としての生活も板についてきたもので、今では銀色の毛並みが整列されていないと座りが悪くて仕方ない。ちなみに、猫になってから知ったが、この毛づくろいというのは中々に気持ちのよい作業だった。






一生懸命、逆立った毛を整えていれば、お盆にコップを載せた先生が居間へと入ってきた。そして、毛づくろいをしている俺の前に正座するなり、じーっと俺を観察し始める。
いつものことだと放っておけば、先生はぽつりと言った。
「…あ、ほんとにある」
ついでにつんつんと突いてきたから、仰天するどころの騒ぎじゃなかった。
「にゃ、うにゃにゃ?!」
ちょ、ちょっと何すんの?!
不埒な指先目掛けて爪を繰り出せば、それよりも早く先生の魔性の手が俺の腹をさする。な、なんて卑怯なっっ。
ふにゃーと力の抜ける俺を笑い、先生は指先で抓むなりふにふにと触り始めた。
あ、も、な……?!
撫でられる心地よさと、腰に痺れる重い快感が綯い交ぜに体を襲う。こ、こんな明るい場所で、しかも台所には人がいるっていうのに…!!
先生の魔性の手は上忍の鋼の精神力をも堕落させるのか、一向に体の自由が利かない。
閉じかける目を薄らと開けば、俺の顔を見詰め微笑んでいる先生の顔が見えた。ちょ、その顔、何よ! いやらしい手つきの癖にどうしてそんな仏の顔してるわけ? 気持ち良くなってる俺が場違いみたい。っていうか、一人で盛っている俺がアホみたいでしょう?!
「…!」
びくりと体が勝手に跳ねる。それが気持ちいいということを知ったのか、先生はますます手を速めた。
口から勝手に声が出そうだ。歯を食いしばって我慢するが、時間の問題のような気もしてくる。あ、も、もうどうしよう、いやぁぁ。声、出ちゃう、声出ちゃうからっっ。止めてぇぇぇぇ!!!





「なーに気色悪いことしてんだ、おめーはッ」
「っ」
バカンと強烈な音が立つと同時に、疼くような快感が止んだ。
はっと我に帰り周りを見回せば、蔑むような視線を先生に送る鋭角顔と、羨ましそうな顔で俺を見詰める丸顔と、無表情な顔で俺をじっと見詰めている犬塚の顔が並んでいた。
………っっ!!
「うにゃぁぁぁ!!!!」
先生のバカぁぁぁ!!!
ぐわっと顔に熱が集まり、毛が総毛立つ。
「あ、ビジン!!」
先生の声を振り切り、寝室へと逃げ込んだ。
わずかに開いている襖をチャクラを使って閉め、暗い部屋の中で頭を抱える。
わー、わーわーわーわーわーわーわーわーわー!!! もうちょっと本当に何なの、あり得ない、本気で有り得ないから!!!
心臓が荒れ狂ったように鼓動を刻む。
他人の前で、よりにもよって正体知っている奴の前であんな無防備に喘ぎそうになるなんて、あり得ない!! 写輪眼カカシの名に顔向けできないッ。俺って本当に上忍なのーーー?!
他人の目に晒されたこともショックだったが、一番衝撃的だったのは、先生の手技だ。恐ろしいことに、過去寝た玄人女性の誰よりもうまかった。
あと10秒され続けていたら、声を押さえ切れないばかりか、逐情していたかもしれない。
あの快感を思い出し、顔が火照ると同時に、手慣れたそれに腹の中がごうっと燃える。胸もムカムカし始め、気分が下降してくる。







泣き虫の寂しがりで頼りなくて抜けてて馬鹿で、ナルトのお色気の術に鼻血吹くばかりか、女の子にもさいオヤジって野次られてて、お兄さんじゃなくてお父さんって感じよねってサクラに言われちゃうような、色事からはほど遠い人なのに、手淫が激うまってどういうことーー?! というか、どこでその技習ってきたのーーー!!
不機嫌な気配は殺気で漏れだしたのか、隣の居間で「うおっ」と驚きの声がした。
いかんいかんと、深呼吸をして落ち着かせると、俺は襖に顔を向けて、気配を探る。
居間では、卓袱台を囲んでの酒盛りが開始されたようだ。
がさがさとつまみを皿に出す音と、乾杯と陽気な掛け声と共に、酒を飲み干す音が聞こえる。
鋭角顔の隣に丸顔、丸顔の隣に先生。先生の隣に犬塚、犬塚の隣に鋭角顔。
丸顔のよく分からない話に「バカかお前は」と鋭角顔の叱責が飛んでいる。その会話に埋もれるようにして、犬塚の声が聞こえた。
「イルカさん、よく飲まれたりするんです?」
「んー。そうですねぇ。ぼちぼちってところだと思いますよ。あ、ハナさん、どうぞどうぞ。いやー、まさかハナさんが来てくれるとは思っていませんでしたよ。汚いところで恐縮ですけど、どんどんやってくださいね」
全く、本当にこの女はとんだアバズレだーよ! クノイチだろうが、男三人の部屋での飲み会に、普通女一人で乗り込んでいく?! 嫁入り前の娘なのに、なんて女だっ、貞操観念疑っちゃーうねッ。
先生は犬塚に酌をしてやっているようで、二人の距離がぐんと近くなった。そのことに何故かやきもきしながら、襖に耳を当てるようにして二人の会話を聞く。
「いいなぁ。私も飲みたいんですけどね。急患や往診が入るとそうは言ってられなくて。好きでこの仕事しているから、ぼやいても仕方ないんですけど」
ふふふと笑った犬塚に腸が煮えくり返る。
この女っ、俺の先生に何色目使ってる訳?! 弟の元先生を誑し込もうだなんて、どういう教育されてきたんだかッ。
案の定、女に免疫のない先生は、犬塚の酌に胸をどぎまぎさせているようで、照れた時によく出す笑い声をあげながら、妙にハイテンションな調子で犬塚へと喋りかけていた。
「イルカさんと一度飲みたかった」なんて言われて喜んでいるんじゃないよ?! そんなの社交辞令中の社交辞令なんだからっ、真に受けて「じゃ、今度もぜひ」なんて調子乗るんじゃないっての!! あー、あー、もう本当にイラつく!! 我慢できるかぁぁぁ!!!






右手にチャクラを集めて、襖と吸着させて、開けると同時にチャクラを離す。
バンと大きな音を立てて襖が開く。
会話が途切れ、八つの目がこちらに向いた。
俺はその視線の中、悠々と足を進め、先生の膝へと腰を落ち着ける。座る際、犬塚へ牽制するのも忘れずに、ぎっと睨みつけた。
「…すっげー、こいつ忍猫か?」
静まり返る中、鋭角顔が目を見開いて呟いた。丸顔も丸顔で茫然とこちらを見詰めている。
「ふっふっふー。そうなんだ、実はこいつ、俺たちよりも階級上なんだぞ。チャクラ量だって、並みの上忍以上あるんだからなっ」
鋭角顔の驚きの眼差しに、先生は語った。大きな手の平が頭に下りてきて、ゆっくりと上下に動く。
ごろごろと喉を鳴らせば、先生は嬉しそうに笑った。
「それになー。ここだけの話だけど、こいつ特殊任務を負った忍猫で、一人で任務に行ってるすごい奴なんだぞッ」
えへんと胸を張った先生の言葉に、鳴っていた喉が止まる。は?! 何、それ!!
思わず仰ぎ見そうになったが、隣の犬塚の手前、動揺を悟らせないよう落ち着き払った態度を取り繕った。猫の落ち着き仕草といえば、猫饅頭だろう。
手と足を折り曲げ、体の下に入れる。何でもないですよとアピールするために、目も閉じてやった。直後に、丸顔が「初耳だ」と声をあげる。俺も初耳だ。
丸顔の相槌に、先生は言葉を続けた。
「ビジンと家族になるって決めたのはいいけどさ。やっぱり忍猫を家族にするにあたって、口寄せの契約の問題があるだろう? 主と結んだ契約によっちゃ、その子供が継いだりするし。だから、ハナさんに協力してもらって、ビジンの主を探したんだ」
ぴくりと髭が動きだしそうになるのを必死に押しとどめる。
まずい。まさか先生なりに俺のことを調べているなんて思いもしなかった。
腐ってもアカデミー教師かと、侮っていた己に臍を噛む。けれど、調べたのにも関わらず、俺がここに居られる理由は何だと耳を欹てていれば、思わぬ回答が返ってきた。






「結局、飼い主もこいつの登録証も見つからなかった。どういうことか、分かるか?」
どことなく先生のような口調で、二人の同僚に視線を向ける先生。
「えっと……。ん? どういうことだ?」
酒のせいか、それとも元からそういう奴なのか。丸顔は全く分からないと顔に文字を貼り付け、鋭角を見た。鋭角は鋭角で慣れているのか、呆れることもせずに淡々と答える。
「暗部。そいつが他里の間者じゃなけりゃ、暗部の使役獣だったってことだろう」
………暗部。そう来たか。
へぇーと声を上げる丸顔に苦笑しつつ、先生は笑った。
「うん。だから、飼い主は見つからないし、こいつの登録証もない。里において、こいつはいない存在になっているんだ」
湿り気を帯びた声に思わず上を見上げた。先生は俺と目を合わして「どうした?」と語りかけてくるが、その言葉は俺がかけてやりたい。
先生はどうして泣きそうな顔をしているんだろう?
人前でみっともなく泣かないでよと、側にあった腕に顔を擦りつければ、頭を撫でられた。撫でてもらいたくてやったんじゃなーいよ。






意志疎通が本当に難しいと唸る俺の前で、鋭角は胡散臭いものを見る目で俺を見た。まぁ、ここまでの話の流れじゃ、妥当な反応だーね。
「イルカ。そんな得体の知れない物をよく懐に入れる気になったな。危機管理なってねーぞ?」
咎める調子で詰る鋭角に、先生は鼻傷を掻いて笑った。
「うん…。お前たちに迷惑かかるかもしれないから、詳しくは言えなかった」
「イルカー」
丸顔も眉根を潜めて、先生の名を呼んだ。「分かってる」と小さく零し、得体の知れない俺を先生は撫でる。
先生から俺の家族だと言われるまま、ここに住み着いたけれど、忍の里はそう甘くはない。俺がここに得体の知れない忍猫としていることで、先生に及ぼす危険性なんて考えもしなかった。
特に、先生はアカデミー教師だ。
中央に近い位置にいる立場を考慮せず、チャクラ量の多い怪しげな忍猫と一緒に暮らしていると知られたら、他里との密通を疑われても仕方ない。
運が良くて幽閉。悪くて拷問の末の処刑。
考えて、気持ちが悪くなった。俺は、何も考えていなかった。






「お前がそいつに肩入れすんのも、はたけ上忍とダブらせたせいか?」
思わぬことを言われ、顔を上げる。鋭角顔はつまらなそうに手酌で酒を注ぎ、一口飲み込んだ。
「銀の毛並みに、左目の傷。どことなく気だるそうな惚けた顔。あんまり親しくないオレでさえ、一目見て思ったんだ。何度も話しているお前が思わないわきゃねーよな」
鋭角の言葉に、内心衝撃を受ける。この姿って、そんなまんまだった訳?
ちらりと横目で犬塚を見れば、犬塚は後ろに顔を背け、肩を震わせている。な、なにこの女ッッ!!
「あぁ、そっか。何かに似ていると思ったけど、はたけ上忍だったんだ」
遅れて丸顔も相槌を打つ。その言葉に、犬塚は小さく咳払いを繰り返し、必死に笑いを押し殺している様子だった。顔に熱が集まる。性格ワルすぎだーよ、この女っ!
「……まぁ、な。最初の頃は事ある如く重ねて見ちまって、ほっとけなくて、何とかしてやりたくて、さ」
「イルカ…」
トーンを落とした先生に、丸顔が心配そうな顔を見せる。それに気付いた先生は大丈夫だと笑った。無理矢理浮かべた笑みだったけど、どことなく大丈夫だと感じさせるそれに、丸顔の口が閉じる。
「今はちゃんと分かってるよ。ビジンとはたけ上忍を重ねたって仕方ないことくらい。俺は俺のできることしかできない。それに、こいつと家族になろうと思ったのは、はたけ上忍に似ているからじゃなくて、ビジンを幸せにしたかったからだ。俺の手でこいつを幸せにしたいって本気で思ったから。―ーだから、火影さまを脅してまで、この首輪を手に入れたんだ」
しんみりとした空気が最後の言葉でぶち壊された。
何を言ったのと、目を剥く俺に、先生は満面の笑みを浮かべた。






「三代目ってば、ひでーんだ。里の運営費をちょろまかして、地下室に他国自国のありとあらゆるエロ本を蔵書してたんだぞ。まーったく、どうりで意味不明な数字があると思ったよ」
とんでもない爆弾発言に目を見開くばかりだ。
受付中忍は「はー、やるねぇ、三代目」「うわー、どうやってちょろまかしたんだ?」と世間話として受け止められているが、火影を退陣されても仕方ない醜聞話なだけに身の毛がよだった。
それにつけても、火影を脅すって、里の長を脅すって、どういう神経してんのアンタ!! つぅか、幸せにしたい人に脅して得た物を贈りつけるってどいういう頭してんの?!
猫の姿になっている時には、首に必ず巻いているこの首輪がとんでもなく忌まわしい物に思えてきた。
ちらりと横目で見れば、犬塚は酒を飲むピッチを速めている。どうやら酒が聞かせた空耳話として事を治めるつもりらしい。
あはははははと呑気に笑う、受付忍びたちは絶対酔っている。この話を話したことも、聞いたことすら、翌日には忘れているに違いない。
恐い…! もしかして素面なのって、俺一人な訳? 下手すりゃ口封じされるような爆弾話聞かされても、当事者の先生除けたら、俺一人でこの話を抱え込まなくちゃならない訳?!






悶々とする俺を差し置き、先生は「でも、心配すんな」とにかっと笑った。
「結局、ビジンが暗部の特別枠の忍びだったんだー。主は里で、人に使役されている忍猫じゃなかったんだ!! あまり知られていないけど、里と契約を結んで一個人の忍びとして働く獣がいるんだって。ね、ハナさん」
突如話の矛先を向けられ、犬塚は肩をびくりと跳ねさせる。さっきの衝撃話が尾を引いているのか、動揺を隠しもしない。
「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしてて、聞いてなかったわ」
そんな犬塚を笑いながら、先生はもう一度口を開く。
「あのですね、ハナさんが俺に話してくれた、ビジンの立場ですよ。秘密だけどって教えてくれたじゃないですか。ハナさんも自分の家で育てている忍犬を里と契約させたって」
あぁ、そのことと、犬塚は引きつった顔に笑みを浮かべる。秘密だと口止めしたのに、先生がぺらぺらとここで喋っていることをどうこう思う余裕もないようだ。
「そ、そうなの。滅多にないことだし、どちらかと言えば機密事項だから、話題に出ることもないの」
おほほほほと、滅多に聞かない笑い声を発しながら、犬塚は誤魔化した。
完璧にデマ話だ。暗部に所属しているから言えることだが、暗部に忍びとして認められた獣なんて一匹もいない。
ここでまた疑問が過ぎる。どうして犬塚は俺を庇うような発言をする。俺にとって都合のいいことばかりを先生に吹き込む犬塚は、不気味だとさえ感じる。
どういうつもりだと視線を差し向けても、犬塚は俺に気付かない振りをして、酒を口を運んでいた。






「…ハナさんの話を疑う訳じゃないですけど。証拠っていうのはあるんですか?」
鋭角顔がちびりと酒を舐め、犬塚を見詰める。その目はどことなく座っていて、一番素面に近そうに見えたが、こいつも完璧酔っていることが分かる。
「証拠、ですか?」
証拠を見せろと言われるとは思っていなかったのか、犬塚の動きが固まる。犬塚の動向は怪しいが、ここはどうにか踏ん張ってもらわないと、俺が困る。どうにかいいデマを考えろとプレッシャーを与えていれば、意外なところから天の助けが舞い込んできた。
「それは俺が持ってる!! ちょっと待ってろ」
先生は自信ありげに胸を張ると、俺を膝の上から下ろし、寝室へと急いだ。10秒も経たずに、その手に持ってきたのは俺の額当てだった。
猫の身としては重いそれだが、自分のアパートへそれだけ置くのも後々面倒なので、先生の寝室に置かせてもらっている。
「木の葉の忍びの証、額当て!! 歴戦の忍びを彷彿とさせるこの傷ッ。こんな小さな体で、お前って奴はぁぁあああ」
ぐばぁと涙を迸らせ、俺に向かって一直線に駆け、抱きしめられた。だ、だから、苦しいんだってー!!
酒で力のセーブができないのか、全力で抱きしめてくる先生の腹にキックをお見舞いする。だが、敵もさるもので、俺のキックを平然と受け止めていた。これは酒で痛覚が鈍くなっているためか!!






苦しいとじたばた足掻いていればようやく俺の異変に気付いたのか、先生の腕が緩んだ。肩を大きく上下させて息を吸っている俺を、先生は腰を落ち着けるなり、膝に乗せる。
「えらいぞ、ビジン。よく頑張ったな。よく生き抜いた。諦めずによく今まで頑張ってくれた」
えらいえらいと、繰り返し先生が俺の頭を撫でる。ぐすりと鼻を啜り、先生は涙を溜めた瞳で俺を見詰めて、撫でてくれた。
何度もえらいと褒めてくれる先生に触発されて、何かが零れそうで奥歯を噛みしめた。
遠い記憶に掠った感触。
思い出すことも、懐かしむことも禁じたそれは、甘くて苦い感情を俺に呼び起こさせる。
このまま撫で続けられたら、甘えてしまいそうで、縋ってしまいそうで、それを嫌って俺は先生の手から初めて逃げた。
「あ、ビジン」
引きとめる声を聞かない振りをして、寝室へと駆けた。
「あ、おれ、まだ触っていない」と丸顔の呑気な声に、犬塚が柔らかく咎める。
噛んで含ませるような響きのある言葉。
その声を聞きながら、俺は襖をきっちりと閉めた。






途端に、人の気配が遠くなる。
声はくぐもり、部屋は闇に閉ざされる。
暗闇の中、さきほどの犬塚の声が耳を反響した。






『猫は、押し付けられるのは嫌いなの。でも、イルカさんだけは特別みたいね』










戻る/ 14





底の浅い真実がわんさかと判明された!! ……orz


君がいる世界 13