レッスン8
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「んー、気持ちい、最高、です。カカシさっん」
今にも眠りに落ちそうな声音で、イルカ先生が息を漏らす。
今、オレは自分の寝床にイルカ先生を寝かせ、丹念に体を揉み解していた。
心の声に唆される様に惚れ薬を飲んだ態で行動を開始したのは良かったが、いざ、イルカ先生から「カカシさん」と名を呼ばれた瞬間、オレは自分の行動を見失った。
だって、惚れたオレってオレ自身がよく分かっていない。
そのためどうやったら惚れた自分の態で、イルカ先生にそういう意味合いの肉体的接触をしていいかが分からなくなった。
そのため、イルカ先生が呑気にも、「じゃぁ、カカシさん、すいませんがマッサージお願いします。もう今日は背中と肩がバキバキで辛くて」と寝そべったのを前に、心中悶々としながら言われるがままにマッサージを施している。
「ん、そこ!!」「あ、だめです、そこ、無理っ」「あ、あぁぁ、ん、んっ」などと狙ってやってるだろうと思いたくなるようなひどい煽り方をしてくるため、ますます悶々はひどくなる一方だ。
思春期も真っ青な悶々具合で、過去にこんなを経験したことがなかったオレは、これが思春期の辛さかと数十年振りの初めてを体験する羽目に陥っていた。
しばらく表では健全な、脳裏では淫らなマッサージを愚直に行った。
「ふあぁぁ、楽になりました。これで明日も頑張れます。ありがとうございます」
気持ちよかったと腕を回しながら起き上がり、イルカ先生はオレに向き合うと四つ指を立てて深々と頭を下げた。
「いいえー、喜んでいただけたようで良かったよ」
胸中にある不満を押し隠し、血色の良くなったイルカ先生に向かって微笑む。
イルカ先生はオレの笑みに少し驚いた表情を見せた後、ほんの少し寂しそうな感情を覗かせた。それを指摘するより早く、イルカ先生は「じゃ、次は俺の番ですね」とオレに指示を出してくる。
「カカシさん、足出してください。足つぼマッサージしますから」
オレにしてくれるのかと驚いていれば、イルカ先生はほんの少し得意げになる。
「自慢じゃないですけど、俺、足つぼマッサージは得意なんです。同僚たちにもやった実績もありますからね」
言われて素直に足を差し出せば、組んだ膝の上に足を乗せ、始めは両手の親指で全体を揉み解される。気持ちいいかよく分からないが、黙って見ていると、イルカ先生はおもむろに折り曲げた中指の第二間接を当てるとにやりと笑みを浮かべた。
どこか悪戯をするような気配が漏れたそれを不思議に思っていれば、ぐっと押される。ほどよい圧力に少し気持ちいいかなと思っていれば、何故かイルカ先生はぎょっとした顔を見せた。
「どうしたの?」
「い、いいえ、別に何でもない……です」
どう見ても何でもないような顔をしていないが、イルカ先生はきっと眦を吊り上げ、足つぼを押してきた。
どこもかしこもほどよく気持ちいい。
対するイルカ先生は首を傾げ、「何故だ」「どうしてだ」「健康体か、そんな馬鹿な」とぶつくさ言っていて、何となくイルカ先生の意図が見えてきた。
「……終わりです。お粗末さまでした」
あからさまに肩を落とし、がっかりしているイルカ先生に近づく。
「イールーカ」
名を呼んで接近を教えてやれば、イルカ先生はびくりと跳ねた後、やましいことを隠すようにとってつけた笑みを浮かべた。
「え、何です? カカシせ」
言わせるかとばかりに、オレはイルカ先生の足を無理やり掴んで上に引上げ、先ほどの手つきを真似て足つぼを押す。
途端にイルカ先生の口から絶叫が放たれた。
「ぎゃぁぁぁ、いた、痛い痛いカカシせ、ぎゃぁぁぁぁ!!!」
足を取り戻そうと力任せにもがいてくるが、上忍相手にそれは悪手だ。
ぐねぐねと悶えながら布団に倒れ込んだイルカ先生を見下ろしながら、オレはにやりと笑う。
「ほほー、こういう意図があったんだーね。可愛い悪戯ではあるけど、どうやらオレよりもこれはイルカに必要なことらしいーね」
あわわわと唇を震わせるイルカの足に、えいと第二間接を沈めれば、打ったように悲鳴が響く。
これは楽しいかもしれない。
ぐいぐい遠慮なく押しながら、イルカの口から悲鳴と絶叫を迸らせ、何となく足つぼの意味を知る。イルカの痛がっているところは、押し込んだら固い箇所だ。きっとここが体の不調を告げている箇所なのだろう。
こことここと、ここが特にひどい。
「いやぁぁ、ごめ、ごめんなさい、かか、かか、せ、ぎゃぁぁぁぁ!!」
重点的に固いところを責めて責めて、引き付けを起こしかけたところでほんの少し柔らかくなった。こちらはとても楽しいが、あまりにやりすぎて嫌われるのも嫌なので足を放してやる。
もうその頃には、イルカは息も絶え絶えで布団に身を投げていた。
ぜぇぜぇ荒く息を吐くイルカの顔を見下ろす。せっかく整えた髪が乱れている様が忍びなくて、解く様に指で梳きながら、顔から髪の毛を払ってやる。
オレの存在に気付いたのか、イルカは目を何度か瞬かせ、息を吐いた。
「もー、ひどいです、もー勘弁してくださいよぉ」
しょげかえる口調に小さく笑みが漏れる。
眦にある涙を親指で拭い、頬を伝わった痕跡を手のひらで拭う。
痛みで目は潤み、上気した頬はおいしそうに色づいていた。
頬を拭った手を首元へと運び、そのまま髪を後ろへと撫でるように逃がす。髪を梳かれるのが気持ちいのか、イルカは何も言わずにその感触を受け入れ、眦をとろりと垂れさせる。
うつらうつらと眠気に襲われ始めたイルカを見下ろし、おもむろに覆いかぶさった。
イルカはまだ何も言わない。というより、瞬きが多くなり、半分寝かかったイルカは気付いていない。
胸に浮かぶのは疼くような温もりと、どろりとした欲望だ。
でも、まだどうだろう。
この気持ちは過去付き合っていた女たちとはまるで違うもので、明確に定められない。
髪を梳き、頬に手のひらを当てて、まずは額へ口づけを落とす。
じんと感極まったように胸が震えた。
落ちかかっている瞳に一つ、涙の跡が残る眦へ、頬へと徐々に下に移動して、うっすらと開いている唇へと重ねる。
誰としても柔らかいとそれ以上の感想を持てなかった。それなのに、今重ねている唇は誰よりも熱くて、柔らかで、とても甘かった。
胸いっぱいに花が咲き誇ったような歓喜が沸き上がって、頭に血が上る。
違う、誰とも違う。
こんな気持ちは初めてだ。
「っ、ん? カ、カカ」
ただ重ねるだけの口づけの最中、イルカの目が見開く。
茫洋としていた瞳へ急速に意志が宿り、驚きの表情を浮かべた。その後に続く名を呼ばせたくなくて、オレは開いた唇に噛みついた。
「ん、んん! んんっ」
空恐ろしいまでの衝動に突き動かされながら、口内を舐る。
暴れようとする腕を布団に押し付け、腰の上に乗って動きを制す。
非難するようにあげられた吐息はだんだんと小さくなり、暴れていた手足もゆっくりと力を無くす。
逃げ回っていた舌を捕まえ、自分の口内へと引き寄せる。甘噛みしたり吸い付いたり、思いつく全てのことをした後に、名残惜しむようにゆっくりと解放してやれば、イルカはぐったりと荒い呼吸を繰り返していた。
激しく胸を上下させ、しどけなく無防備に寝そべるイルカに堪らない気持ちになる。
愛おしい、可愛い。食べてしまいたい。あられのない声を上げさせて懇願させたい。オレだけを見て、オレのものだけになって、髪の毛一本、息一つ全部オレのものにしたい、オレだけに反応して、オレがいないと生きられないよう、深く深く深く囲い込んで誰にも見せないよう隠してオレだけのために笑って鳴いて怒って泣いて最期はオレと一緒に――死んで。
理不尽に言い立てる胸の内を聞きながら、不思議とそれを受け入れていた。
確かに、オレはイルカに乞うている。
誰にも渡したくないと、その存在全てをオレのものになってと苛烈なまでに望んでいる。
好きだとか、愛しているとか、そんなか弱い熱量じゃない。
貪欲に、深く深く執着している。
きっとオレは狂うだろう。
イルカのためなら何でもする。イルカが手に入るなら何にでもなろう。
一度でもオレの手に落ちれば、もうそこからは逃がしてやれない。
優しく甘いだけの感情ではない、狂気にも似たこの思いはきっとイルカを苛む。
苦しめて迷わせて、悲しませて、最後には絶望させる。
だからこそ、紛い物で気を紛らわせていたのに。
男だからと、常識の殻を被って今までやり過ごしたのに。
繋がる己の感情に笑みがこぼれた。
奥深く、奥深くに隠して、閉じ込めて、己でさえ騙していた感情は、きっとオレの純粋な恋心だった。優しくて一途な、それこそ夢物語に出てくるような愛というものだったに違いない。
あーぁと悔いるように泣く声がした。
あーぁと喜色に沸く声がした。
過去のオレたちに別れを告げ、オレは目の前のイルカを貪ることにする。
「イルカ、イルカ、大好き。愛してる。もう離れない。ずっと側にいてね。アンタはオレのものだ」
悲壮な顔を見せるイルカに笑いかけ、何か言おうとする言葉を唇で塞ぐ。
ここまできたらもう我慢できない。
余計なことは言わないで、オレに味合わせて。
一体何年指を咥えて我慢し続けたと思っているの。
オレの本気を感じたのか、イルカの抵抗は一切なかった。
いい子。アンタはオレというものをよく分かってる。
今、邪魔されたらきっと手加減してられなくなる。それほどまでに気が昂ってる。
よく使いこまれたパジャマをはだけさせ、素肌に触れる。確かめるように胸から腰へと滑らせ、そのままズボンと下着を引っかけ落とそうとするが、寝たままの体勢のため、途中で止まってしまう。
首に吸い付いていた顔を上げ、イルカへ目で乞うと、イルカはひどく苦しそうな表情を浮かべた後、小さく「ごめんなさい」とオレに告げ、掻き抱くような仕草でオレの首に両手を回した。
その動きに止まっていた手が下へと動き、ズボンと下着が体がから離れる。
協力するように足を曲げてくれたイルカへ、オレだけが求めているのではないと知り、嬉しくなった。
唇を合わせれば、イルカも積極的に舌を絡ませてくる。
キスはあまりしてこなかったのか、すぐに息を上げて口を放そうとするイルカを揶揄いながら翻弄し、二人で一緒にお互いの物を握り合う。
一度二人で一緒に出して、焦るように昂る気を一度落ち着けて、じっくりと事に及んだ。
男とは初めてというイルカの後ろを時間をかけて広げ、ようやく一つになれた時は体が震えた。
あまりに嬉しくて感情が抑制できなくなり泣き出したオレを、イルカは自分でいっぱいいっぱいだったろうに優しく慰めてくれた。
よく分からない感情に引っ張られて前後不覚になったオレと、後ろは初めてなイルカは、たった一回しか抱き合えなかったけれど、これほどまでに満たされた行為はなかったと思う。
事が終わった後、慣れない行為と日中の疲労で即眠り込んだイルカの体を清めて、一緒の布団で眠った。
欲を言えば、抱き合った後、色々と話したかった。
任務にかこつけて抱くような真似をしてしまったけど、本当にイルカのことを思っていると。
オレがどれだけイルカのことを欲していたか、余すところなく話したかった。
「イルカ、好きだよ。これからずっと一緒にいようね」
眠るイルカに囁いて、お休みのキスを送る。
明日になったら、開口一番イルカへ話そう。
明日から始まる、夢のような素晴らしい生活に思いを馳せながら眠った翌日。
思いの外眠りこけていたオレはイルカと会うことは叶わず、そのまま任務へと出かけた。
こういう時に限ってうまくいかないもので、里を出る任務を与えられ、数日イルカとは会えない日々を過ごした。
そして、ようようと里に帰ったその日、オレは思わぬことを耳にする。
火影室で任務の報告を終えた後、イルカを探しに行こうと急ぐオレの背に向けて、五代目はあっさりとこう言った。
「カカシ、イルカとの任務は終わりだ。イルカは元熊の国へと旅立った。帰還は未定だ」
世界の音と色が消えた瞬間だった。
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おう、18禁の書き方忘れてるぜ。こんちくしょーめぃ!