「誕生日プレゼントって、何渡せばいいわけ?」
普段から感情を表に出さず、暇さえあれば修業か、兵法の本ばかり読み漁り、同年代の子供たちから浮いているというのに、ガキ臭いと見下すそぶりを隠しもしないものだから、友達の一人もできなかった子が発した、子供らしく、しかも奇跡的な言葉に、四代目火影候補こと波風ミナトは感極まり、涙がこぼれ落ちそうだった。
「ちょっと…聞いてんの?」
トーンダウンした子の機嫌を損なっては、この奇跡体験を棒に振るとばかりに、ミナトは口を押さえていた手を離し、張り切って答えた。
「そうだねぇ。一口にプレゼントって言っても色々あるし、人によるからね。プレゼントあげたい子ってどういう子なの?」
まずは相手の特定だ。
カカシの友達となってくれそうな奇跡の子出現に、ミナトは今まで培ってきた権力を使って手回しする気満々だった。
「黒髪の、可愛い子…」
ぽっと色白の肌を赤く染め、瞳を潤ませる姿は恋をしていると言ってもいい。
なまじ優秀なだけに、大人たちと行動を共にせざるを得なかったカカシは、男女の愁嘆場を見る機会が多かった。そのせいか、カカシは恋愛に冷めた、全くもって可愛い気のない子供になってしまった。
僕も先生の奥さんみたいな可愛いお嫁さんもらうんだと、目を輝かせるカカシに、それじゃ僕みたいな忍にならなきゃねと夕日が射す丘で背中を見せて語り、僕の先生はかっこいい憧れちゃう計画が、用無しまっしぐらだったのに、突然降って沸いたこのチャンス。
あまり懐いてくれない弟子のために、この小さな恋の物語を成就させ、一気に名誉挽回、目指すは心の師だと、ミナトは燃えた。
「うんうん、そうかー。でもそれだけじゃ分からないなぁ」
ミナトは心に秘めたる野望をおくびにも出さず、あくまで人の良い顔で話を進める。
「ねぇ、カカシくん。いっそのこと僕とその娘を会わせてくれない?」
途端に嫌そうな顔を見せたが、ここで下手に出てはいけない。
そうか残念だなぁと小さく吐息をつき、あくまで漏れ出た声を装い、さりげなくカカシへ聞かせる。
「絶対喜ぶ贈り物があるんだけどなぁ」
視線は落としたまま動かさず、しばらく間を空けて、そうそうと話題を変える。
「カカシくんの手に合った武器をこしらえてくれるとこ見つけたんだ。前から扱い難そうだなぁって思ってたんだよね。サクモさんには僕が言っておくから、明日にでもどう? 一緒に行かない?」
今出た話題は終わったものとして扱い、カカシに尋ねる機会を設ける。
カカシは無口だから、放っておくとミナトだけ喋ってその日を終えることもあるのだ。
そこでようやく顔へ視線を向ければ、カカシはむぅと顔を歪めていた。どうしたのと優しく聞けば、ごにょごにょと口の中で言葉を回している。
ん?と口元に耳を寄せれば、カカシは顔を真っ赤にして、蚊の鳴くような声を発した。
「……教えてよ」
ここで馬鹿正直に応えてはならない。
「うん、だから明日一緒に行こう」と口を開けば、カカシの顔が歪んだ。泣きはしないものの、年相応のその反応にミナトの背筋がぞくぞくと震える。
あぁ、サクモさん! 僕、今、奇跡体験味わっているよっ。
いかにカカシがかわいらしい反応をしたかを、任務が忙しく、なかなかカカシと一緒の時間を過ごせないサクモに、じっくり語ってあげようと計画していると、カカシは小さな手を握りしめ、ミナトを睨んだ。
「だからっ、絶対喜ぶ贈り物ってやつを教えてよッ」
わぁ、かわいーっ!
真っ赤なほっぺをして上目遣いで威嚇するカカシを、思わず撫で回して頬ずりしたい欲求に駆られる。可愛いもの好きなクシナにもこの姿を見せてやりたかったなと思いつつ、ミナトは節度ある大人の態度でカカシに接した。
「あ、そのことか。うん、そりゃもちろん、いいよ。でも、カカシくん、その娘に会わせてくれるの? カカシくん、嫌がってたじゃない」
目論見通りに進んだとはいえ、まだ気を緩める訳にはいかない。警戒心の強いカカシ自ら、会って欲しいと言わなければ、この計画はうまく事が進まないのだから。
大人の余裕の笑みを浮かべつつ、内心、どきどきしていると、カカシは眉間に皺を寄せ、疑り深い眼を向けてくる。
もしや、心の師計画がバレたのかと、心臓が跳ねる。けれど、カカシが次に発した言葉に、思わずミナトは目を見開いてしまった。
「……取らない?」
「え?」
何をと聞く間もなく、カカシは思いつめたように口を開く。
「横から取ったりしない?」
その言葉を聞いた瞬間、駄目だった。
心の師計画を忘れて、腹を抱えて笑い転げてしまった。
なんでミナトに会わせたくないのか、ようやく分かった。カカシはその娘のことが大好きで、小さいくせにいっちょ前の独占欲を発揮している。
ほんのわずかな可能性も排除しようとするカカシの念の入ったやり方に、驚くやら呆れるやら。
けたけたと笑っていれば、カカシは頭にきたようで、チャクラを拳にまとわせ本気で殴ってきた。
雷の属性を持つカカシのチャクラは掠っても電撃が走る。あの痺れって嫌いなんだよねとばかりにミナトはカカシの拳を避けながら、謝った。
「ごめんごめん。もちろん、取ったりしないよ。僕には最愛のクシナがいるんだから」
謝り方に誠意がないと口では文句を言ったものの、カカシは拳を収めてくれた。
「変な真似したらクシナさんに言いつけてやるッ」と釘を差すカカシに顔が緩む。人に関心を示さなかったカカシがここまで入れ込む娘とはどんな子なのだろう。
付いてこいと仏頂面をしたカカシの後につき従いながら、ミナトは微笑むのだった。
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オンリーカカイルサーチさまへの投稿作品です!!