「ぎょうさん働いてくれた礼や。これ持っていき。どう使うか、兄さんに任せるわ」
とある好事家の護衛を任され、無事任務を終了させたとき、去り際に絹の小袋を手渡された。
袋の中には三つの丸薬。忍びが携帯する兵糧丸とよく似たものだ。
本来受付で請け負った報酬外の物はもらわないのが基本だが、里が保証する身元が確かな依頼者であることを前提に、好意と、影響力のある者の立場を考慮して、現場で判断してもいいことになっている。
この場合は後者の判断に合致する。
受け取り、礼を言うカカシを肘でつつき、その好事家は好色な笑みを浮かべた。
「わしらからしたら夢の丸薬や。チャクラがあるあんたら忍びにしか使えんて聞いてな」
せいぜい気張りやと、使えもしない忍具を買い漁る変わり者に、カカシははぁと答えた。
そのときは、一般人には夢の薬だろうが忍びには意味ないものだと思っていたのに、後に好事家の言葉は事実となった。






******






「ねぇ、イルカせんせ。オレと一緒にいいことしましょっ」
一週間の護衛任務から帰ってきた後、やたら機嫌のいいカカシが妖しげな丸薬を手に、イルカへと詰め寄ってくる。
また変なことを考えているなとイルカはため息を吐きながら、手と視線はそのままに、採点用紙を一枚持ち、カカシの顔面に突き付けた。
「俺は残業中です。あんたが今日帰るからって、一緒に飯食えただけでも良しとしてくださいよ。俺以外の奴らは、まだ職員室でヒーヒー言ってんですから」
今日、はたけ上忍帰ってくるんだろ? お前、先に上がれよと、疲労に満ちた顔に無理矢理笑みを作り、先に帰らせてくれた同僚たちを思い出し、イルカは眉根を押し揉む。
どこから知るのかカカシの帰還日を知っては、それに合わせてイルカを早く帰らせようとしてくれる面々には有難いという思いと同時に、申し訳なさが先立つ。
今日もだが、明らかに人出が足りない中、イルカを先に帰そうとする同僚たちのやつれた表情を思い出し、ため息が出てしまう。
カカシと付き合うことになったと、おおっぴらに言ってしまったことが、今となっては非常に心苦しい。
イルカのために、同僚たちが無理を重ねるようなら、何か対策を立てる必要があるなと考え込んでいると、カカシは頬を膨らませた。
「もぉー、残業、残業って……。家にまで持って帰るんじゃ、先生の同僚を脅した意味がないじゃない」
一人一人みっちり教え込んだのにと爆弾発言を落としたカカシに、イルカは目を剥く。
「あ、あんた…」
震えながらカカシを見つめれば、カカシはようやくこっちに向いたと無邪気に喜んだ。
カカシが請け負うのは、ほぼAランク以上、そして指名任務が多い。機密性の高いカカシの情報を、どうして同僚たちがイルカよりも早く知っているのだろうかと疑問には思っていたが、何のことはない、本人が教えていたのだ。



「カカシさん、あんた、何、勝手なことしてんですかっ! やっていいことと悪いことがあるでしょうが!!」
卓袱台を叩いて意見するも、カカシはやっとイルカが構ってくれたと嬉しそうに頷いている。
「……ちゃんと聞いてるんですか?」
おもむろに頬の肉を掴み左右に伸ばせば、「ひたいひたい」と腕をタップしてきた。
目に涙を浮かべたところで指を離し、体の向きを変えて正座するとカカシと向き合った。
色白のカカシは少し抓ったりするだけで、肌が赤くなる。さきほどイルカが引っ張ったところは赤く染まり、涙目のカカシがしきりに頬を摩っている姿は、庇護欲を擽られるから、イルカにとっても諸刃の剣だった。
ごほんと咳を払い、イルカはカカシの目を見つめる。カカシもしぶしぶだが正座に座り直し、イルカの言葉を聞く姿勢を取った。
「付き合う時に約束しましたよね? 相手の嫌がることはしない。相手の意志を極力尊重する。それと、後一つは?」
「……できるだけ周りの人に迷惑をかけない、です」
不貞腐れているが、視線を合わせない所をみると自覚はあるようだ。
一つ息を吐き、イルカは続ける。
「特にカカシさんは、立場的に無理を通せる立場にいるんですから、そこはきちんと守ってもらわないと、別れることになりますよ」
危惧して言った言葉はカカシには違う風にとれたのか、弾かれたように顔を上げた。



「嫌! そんなの、絶対嫌!! イルカ先生が別れるって言ったら、オレ、監禁して一生飼い殺すからねっっ」
相手の嫌がることはするなと今言ったばかりだろうと思いつつ、興奮しだしたカカシに、イルカはため息交じりに声を掛ける。
「違いますって。俺がカカシさんを手放す訳ないじゃないですか。俺が心配してるのは、上の意見ですよ。俺たちの関係が仕事に悪影響を及ぼすなんて知られたら、これ幸いと妨害してきたら嫌でしょうが」
「妨害がなんです!? イルカ先生と一緒にいられないようにする上層部なんて叩き潰してやるッ」
ヒートアップする里の誉れに、この人はなまじ実力があるから厄介なんだよなと胸の内で呟く。
膝立ちしてファイティングポーズを取るカカシの腕を取り、くるりと回して膝の上へ横抱きにした。
腕でカカシの首を支え、顔を近付ければ、カカシの目は落ち着かない素振りで左右にさ迷った。それを無視して顔を近付け、ぐっと間近になったカカシを見つめて、イルカは言った。
「カカシさん。無用な争いをするより、こちらの弱みを見せないよう努力する方が断然お得です。それに、俺たちの関係が、品行方正で慎ましく、人として忍びとして理想的な関係だということを周囲にアピールしていた方が、同情する方だって、味方になってくれる方も出てきますし、何より面倒ごとがありません!!」
やたらと男前な顔をして、これが中忍的世渡り術ですと言い切るイルカに、カカシは肩透かしを食らった気分に陥る。
「と、いう訳で、協力お願いしますよ。ね?」
そればかりか、抱いてくれていた体を何なく起こすなり、まだ色づいているだろう顔を見つめ、両肩を強く叩くイルカは、本当に何も分かっていない朴念仁だとカカシは思った。
この胸のときめきはどう昇華すればいいのだと悶々している前で、イルカは卓袱台に向くなり、採点付けを再開し始める。



「俺、採点付けしますから、カカシさんは先に寝……。って、何してんですか?」
対面の席に座るなり、カカシはまだ採点し終えていない答案用紙を取った。そのまま赤ペンを手に採点し始めるカカシを呆気に取られて見ていると、カカシは口を尖らせた。
「オレも手伝うーよ。明日は、お休みが重なる貴重な日なんだから、……ね!」
上目遣いで睨まれて、イルカは乾いた笑いを漏らし、答案用紙に視線を戻す。
一週間一緒にいられなかった分、カカシが羽目を外しそうでイルカは恐かった。
イルカとて一週間カカシと会えなくて寂しかったが、それを体の付き合いで発散するのはちょっと違うのではないかと思うのだ。それに、明日はいい天気だとミニスカのよく似合うお天気お姉さんが言っていたし。
「……お互いの意志は、極力尊重するんだよね?」
今から滾っているカカシの気配を敏感に察知し、イルカは顔を上げられずにいる。明日は大型物の洗濯をしたいんで軽くしましょうよと軽く口に出せば、今すぐここで襲われそうだ。
採点付けは最後までさせてあげるから、オレも最後までさせてよねと言外の言葉を発するカカシに、イルカは必死で頭を巡らせた。
だが結局、何の手だても思いつかないまま、イルカは最後の一問に丸をつけ終わってしまう。



「さぁて、それじゃ、恋人の濃密な時間へと参りましょうか」
終わるのを見届け、素早くカカシの手がイルカの手を握る。
「ちょ、ちょっと、カカシさん、待った。待った!!」
そのまま手を引っ張り、寝室へ向かうカカシへ制止の声を掛けるが、カカシは聞く耳を持たない。寝室の襖を開け、そこを占拠しているダブルベッドへと突き進み、体を入れ替えて、イルカをベッドに座らせた。
「嫌がる理由がないでショ? ご飯も食べた、お風呂も入った。何だかんだ言って、イルカ先生だって期待してるくせに」
ベッドの縁に手を置き、覆いかぶさるようにイルカへ近付くカカシは早くも色香を放出して、イルカを惑わせる。
夢見心地のような表情で白い肌をうっすら染め、色違いの瞳を妖しく細めて微笑む様は、見るだけで全身がぞくぞくしてくる。
カカシに陥落するのは時間の問題だと、過去の経験が如実に主張してくる。ならば、せめてこれだけはと、イルカは口を開いた。



「カカシさん、明日は洗濯できるくらいの体力は残してほ、し…」
刻々と近付いてくる顔に、心臓が荒れ狂う。一週間ぶりのカカシの体温と匂いを間近に受け、早くも頭は茹り、言葉に力が無くなった。
最後の言葉を言うより先に唇を塞がれ、あっけなく理性が飛ぶ。自分がいかにカカシに飢えていたことを思い知らされる瞬間だ。
口を開くカカシの口内へ舌を這わした。カカシの服に手をかけ、その下にある素肌に触れようとすれば、性急なイルカの仕草に笑いながら、カカシはアンダ―をめくり自分から脱ぎ始める。
首から服を抜く際、唇が離れるのが嫌で首を振れば、カカシは上機嫌に笑う。唇を離され、その後を追おうとしたが、カカシの体が邪魔をした。
荒れる呼吸で、カカシの唇を見つめていれば、再び笑われる。
「もう、イルカ先生ってば、本当に天邪鬼なんだから」
揶揄するように言い、カカシが首から服を抜き取る。
目の前に現れた、均整のとれた鍛えられた肉体に見惚れた。手を伸ばして、手の平全体で味わうように胸筋から腹筋へと動かせば、くすぐったかったのか手の平越しに筋肉が動いた。
「先生、いっつもそれするよね。オレの体、そんなに好き?」
何度も往復させていると、カカシが耳元に囁いてくる。
不意に我に返って、自分の行動を恥じた。べたべたになった唇に気付き、手の甲で乱暴に拭い、イルカは顔を背ける。
「……好きですよ。キス一つで理性失くすくらい、あんたに飢えてますよ」
わぁ、何て殺し文句と、茶化すカカシが小憎らしくて、拳を突き出せば、カカシは声を上げて笑い、拳を受け止めイルカの隣に腰を下ろした。その際、カカシが左手に何かを隠し持っていることに気付く。
それが、あの妖しげな丸薬だということに思い至り、イルカは顔を顰めた。



「あれ、見付かっちゃった。イルカ先生、今日は、これを飲んでオレとしまショ?」
悪びれず丸薬を差しだすカカシに、イルカは眉根をこれ以上にないほど潜める。
「その調子だと嫌みたいねぇ。でも、これ飲んだ方がイルカ先生も体辛くならなくていいと思うーの」
両手を組み、くねくねと左右に動かすカカシに嫌な予感しか覚えない。だが、ひとまずイルカは、聞いて欲しそうな視線を飛ばすカカシへ尋ねた。
「……媚薬ですか?」
どうせ、上忍仕様の超強力な媚薬とか言うんだろうなと、遠い目をしていれば、カカシは力いっぱい否定してきた。
「ちっがいまーす! 何と、女体固定化の丸薬ですっ」
拳を握りしめ言い切るカカシの言葉に、一瞬、記憶を失った。
「………は?」
遅れて聞き返したイルカを尻目に、カカシは丸薬を掲げ、高らかに語り出す。
「成金野郎の護衛任務で押し付けられたんだけど、いやーあの好色ジジィもなかなか良い物くれたーよ。研究部に持ちこんで検査済みだから、安心して飲めるかーらねっ。この丸薬、一晩だけの効果なんだけど、細胞レベルまで女になれちゃうところがすごいところなの。と、いうことは、これ飲んだら処女に変身しちゃうわーけ。もう何て言うの、チャクラ持つ奴しか使用できないけど、まさに夢の代物、夢の代弁!! マジもんのイルカ先生の処女をいただ」
最後の言葉を言う前に、イルカはアッパーを繰り出した。
寸でのところでカカシはかわし、「あっぶなー」と悲鳴をあげる。ち、惜しい。
もう少し右に抉り込みにいけば今のはいけたと反省をしていると、カカシはイルカの両手を握り、期待に輝く目を向けてきた。
「と、いうわけだから、飲んで、イルカ先生!! オレに、先生の処女、ちょうだいっっ」
鼻息も荒く言ってきたカカシの手を振り払い、真っ向から睨んだ。
「嫌だ! なーんで、俺が女なんかにならなくちゃならねーんだっ! 冗談も休み休みに言えッ」
ぎりぎりと奥歯を噛みしめ、イルカはカカシに裏切られた気分に陥っていた。
散々イルカの体を好きにして、イルカはもうカカシの体にしか反応できなくなっているというのに、今更カカシは女の体を求めるというのか。
視線で人が殺せたらと怒気も露わに睨みつけるイルカに、カカシは一瞬放心した表情を浮かべたが、あぁと呆れたようにため息を吐いた。
「イルカ先生。だから、アンタは、オレの気持ちを軽く見過ぎだって……。つい先日だって、オレの気持ちを思い知ったはずなのに、困った人だねぇ」
つんと左胸を押され、イルカは顔が赤くなる。
刻まれた印も、それを施された場所が場所なだけに、カカシに目くらましをかけてもらって、今は見えない、それ。
カカシの気持ちも覚悟も十分知ったが、それでも過去の噂はついて回る訳で、女遊びが派手で、精力も絶大なカカシが、男のイルカ一人だけで満足できているとはなかなか信じられないでいる。
それを言えば、自ら女に負けていることを認めているようで、はっきりと口に出せず口の中で文句を混ぜていれば、カカシはもう一度息を吐いた。
おもむろに手を伸ばしイルカの頬に触れると、ひたむきな視線を注いだ。



「オレには、イルカ先生しか見えてないし、アンタがアンタであることが全てなーの。くれぐれも言っとくけど、アンタが犬でも猫でもメダカでも、オケラでも、オレはアンタを見つけて交尾する気満々だからね」
熱い眼差しと優しげな微笑みは男前のそれだが、口から出る言葉は変態としか思えない。
すっと気持ちが一歩引いたイルカを知らずに、カカシはなおも語る。
「それにね、イルカ先生が細胞レベルで女になって、それをこの目で見て、この手で触れて、全ての五感で味わえるのがオレだけっていうのがいいんじゃないッッ! オレしか、女のイルカ先生知らない訳よっ。所構わず、揉まれて囲まれて触られまくって、アンタに声をかけない連中はいない中、性別は違えど、オレだけのイルカ先生をこの手に出来るチャンスを逃さない訳ないでショ!!」
本当だったら童貞だって欲しかったのに奪われた後だし、それと等価のものは処女しかないでショ、処女しか!! と、涙ながらに力説され、頭が痛くなってきた。
色々と突っ込みたいところは盛りだくさんだったが、ひとまずカカシの気持ちはまぁ何となく理解できた。だが、それで頷くかと言えば、答えはノーだ。
冗談じゃない、俺は男だ、女になって抱かれたいと誰が思うかと、啖呵を切ろうとした直前、カカシは突然頬を染め、イルカの手を離した。そして、軽く握りしめた手を顎の下に置き、多分に恥じらって言った。



「イルカ先生が女になって抱かせてくれた後、オレも女になってイルカ先生に抱いてもらいたいなーって、そう、思ったの」
な、んだと……!?
カカシの言葉に、雷に打たれたかのように身動きを止めたイルカを横に、恥ずかしい、言っちゃったと、顔を覆い、カカシは一人で盛り上がる。
「お、お互いが初めての人って何か素敵じゃーない? だから、その、オレね、三つもらった丸薬のうち二つは絶対オレがもらうって、火影さまと所有権争いして、見事に勝ち取ったの。でね、オレの初めては、イルカ先生の誕生日の日にプレゼントしたいなぁって……。……ありきたりだけど、そういうの、どう、思う?」
カカシは手を合わせ、一本だけ突き出した人差し指を、時計回り、逆時計回りに回しながら窺えば、イルカは深く顔を俯け、ふるふると震えていた。
カカシの予想では、顔を真っ赤にしながら悪態を吐きつつ、それでも最後はいいですよとぶっきらぼうに了承してくれるイルカがいると信じて疑わなかったのに、想定外のイルカの姿に泡を食った。
もしかして怒った? 女のオレは気持ち悪くて抱けないとか? と、考えられる最悪な答えを思い浮かべる。
そういえばイルカはカカシ(男)にしか反応しなくなったと言っていたことを思い出し、致命的な過ちを犯してしまったことに気付く。
カカシとしてはぜひ自分の初をあげたかったが、それがそもそも無理だったのかと、静かな絶望に浸っていれば、イルカは重い空気を発しながらカカシの名を呼んだ。



「……カカシさん」
「は、はい!」
すでに叱られることを前提で想像を固めたカカシの返事は早い。
アンタ(男の)にしか反応できない俺に誰がしたと、烈火のごとく怒鳴るイルカを思い浮かべびくびくする。
もしかして、今晩のイチャイチャ禁止なのだろうかと、身を切るよりも切ない想像に涙を浮かべていれば、イルカが手を出してきた。
「……ください」
「………………………え?」
イルカに何かあげるものがあっただろうかと、周囲を見回してみるが、イルカの激怒を誘った丸薬しか目につくものがない。
焦りだけ先立ち、どうしていいか分からないと半泣きになるカカシへ、再びイルカは言った。
「――女になる丸薬、ください」
「は、はい! お、女にお……。って、丸薬――!? 嘘! せんせ、飲んでくれるの!?」
まさかのイルカからの飲む発言に驚愕すれば、イルカは鼻と口を手の平で覆い、顔をあげた。
「あ、あたり前じゃないですか。カカシ先生の初め、いえ、お互いがお互いの相手になれるなんて、さ、最高じゃないですかっ、素晴らしいじゃないですか、あめいじんぐじゃないですかッ……!!」
鼻息荒く言う度に、押さえていた指の隙間から血飛沫が散り、イルカの興奮状態を教えてくれた。
目を血走り丸薬を積極的に求めるイルカに、イルカも男だったんだなぁと今更なことを考えながら、カカシはそっと丸薬を手の平に乗せた。
「これを、ここここれを飲めば、俺もカカシ先生をいただだだだけるんですね。女のカカシ先生をお、おおお俺が抱いていいんですねっっ…!!」
瞳をランランと輝かせ、しつこく確認を取るイルカに、少し寂しいものを感じる。まぁ、普段が受け手だから何か思うところもあるのかもしれない。
「うん。オレからの誕生日、プ・レ・ゼ・ン・トv」
リボン巻いてあげるかーらねと耳元で囁けば、イルカはふんふん頷いていた首を止めると、突如立ち上がり、雄叫びをあげ始めた。



「うおおおおおおおお、うおおおおぁぁあぁぁぁぁあ!!!!」
鼻血のことすら忘れ、両手で天高く拳を突き上げ、腹の底から立ち上る感情を声に出して吐き出している。
まさに魂の絶叫というにふさわしい雄たけびに、カカシは戸惑う。
これは誕生日プレゼントを喜んでくれたことを素直に喜ぶべきことか、それとも、イルカはそれほどまでにカカシを抱きたかったという不満の裏返しと見るべきなのか。
しばらく呆気にとられて見ていると、イルカは気が済んだのか、ぴたりと声を止め、袖口で鼻を擦って、カカシの隣へ座った。



「カカシさん、俺、誕生日、楽しみにしてますから……!!」
頬を染め、いつもより120%増しのきらめくような笑顔を見せるイルカに、うんと答えつつ、納得のいかない何かを覚えるカカシだった。









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「誘惑」の二人のお話です。H25.5.25
追記:
カカシ×女イルカは文字通り、そういう絡みがあるので、女イルカ先生が嫌いな方は、進まないよう注意してください。
見なくても2では、話が繋がるようにします。

追追記:
改めて読み直しますと、全く3と繋がっていなかったので、少し女イルカ先生が出ますが、カカシ×女イルカ1 → 比翼2 としました。
苦手な方申し訳ありません。






比翼 1